【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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21R アーモリーフォースの告白

「オッス、ナズナ。奇遇だねこんな所で」

 

 アモ先輩が図書室で話しかけてきた。私は運動禁止だから勉強の為に来ているのだけれど、アモ先輩も調べ物かな?

 

「あたしは今日は練習の隙間でお休み。まぁメル達は普通に練習してるからちょっと暇でさ…」

 

 何も聞いてないのに一方的に事情を話してくるアモ先輩。これはきっとアレだ。

 

「それで同じく暇そうな私に構って欲しくて声を掛けたんですか?」

 

 冗談めかして聞いてみると、アモ先輩はバツの悪そうな顔をして笑ってきた。

 

「まぁ半分正解。暇つぶしに次のレースの参考になりそうな本があるかなー? と思って来てみたら偶然ナズナがいたからさ。邪魔なら消えるけど?」

 

「あぁ、いえ、全然。私もアイリスから『運動禁止令』が出てるから暇なんですよ。まだ初日なのにもう飽き飽きで… ウマ娘に『走るな』なんて『死ね』って言ってるのと同じですよ。そう思いません?」

 

 私の言葉にアモ先輩は大笑い、そして周囲の顰蹙を買う。

 (かしこ)まって周りに頭を下げて回るアモ先輩、ペコペコしながら一周回って私にイタズラっぽい笑顔を向ける。

 

「ねぇ、ちょっと話さない? ここじゃナンだから外で」

 

 もちろんアモ先輩なら断る理由も無い。

 

 ☆

 

「でも良いんですか? 私なんかと話してて… 先輩の次レースGⅠなのに…」

 

 練習用のコース、その横に据えられているベンチに腰掛けて雑談を始める。

 

「う〜ん、私もとにかく心の整理がついてなくてさ、まさか3年目の秋になってGⅠのチャンスが巡ってくるなんて夢にも思ってなかったから…」

 

 初めてのGⅠ、それだけでも緊張するのに、ましてや天皇賞(秋)という日本で最も伝統のあるレースへの参加だ。気持ちは分かる。

 

「だからこのドキドキを誰かと共有して半分こにすれば少しは落ち着けるかな? って思って。ホラ喋ってるだけでも結構気晴らしになるし、女ってそういう所あるでしょ?」

 

「…確かに分かりますけど、それって私は完全に巻き込まれですよね?」

 

 現に私も何だか心拍数が上がってきている気がする。天皇賞には関係無いけど、ついさっきまでGⅠレースを意識していたのだから気持ちは痛い程に理解出来る。

 

「ナズナには悪いと思ってるよぉ。ね? ハチミツ奢るからお喋りに付き合って〜」

 

 …やれやれ、物で釣ろうなんて駄目な先輩ですねぇ。そんなもの無くてもちゃんとお付き合いしますよ? もちろんハチミツ飲みながらなら、より真剣に聞きますけども……。

 

 ☆

 

「ほらぁ、やっぱり源逸(おやっ)さんじゃ複雑なウマ娘(おとめ)心はなかなか分からない訳よ。きりさんもちょっと抜けてる所あるし、アイリス先輩はいつも忙しそうにしてるし…」

 

 そんな話から始まってアモ先輩の話は多岐に渡った。半分は愚痴だったが、彼女の考え方や物の見方、レースの進め方等はアイリスとはまた少し違っていて、とても新鮮に感じられた。

 

「あたしも『初めの3年間』のラストイヤーだから、今後の事を考える時期になってるんだよ。今のあたしじゃGⅠは取れない。それはオヤッサンも分かっててあたしを天皇賞に出そうとしてる。『その結果で未来を考えろ』って意味だと思う…」

 

 アモ先輩は明るくてトークも面白い人という印象だ。でもあまり率先して自分の事を話す人では無い。そんな先輩がポツリポツリと自身の事を話し始めた。

 

「天皇賞は多分メチャクチャ頑張って5位まで入着できるかどうか、ってレベルだと思ってる。GⅠがそんなに甘いモンじゃ無いってのは良く分かってる…」

 

 アモ先輩は言葉を切って一息入れる。

 

「天皇賞の後は年内に走れてあと1戦か2戦。その成績次第ではあたしでもドリームトロフィーに上がれる可能性があるんだよ…」

 

「アモ先輩…」

 

 先輩の目にはいつの間にか大粒の涙が光っていた。

 

「つい昨日までドリームトロフィーのドの字も意識した事は無かったのに… 『あたしには縁の無い事だ』って考える前から諦めてたのに… 今は、勝ちたい! メチャクチャGⅠに勝ちたい! 勝ってドリームトロフィーに進みたいって思ってる。このいつもヘラヘラしてるアーモリーフォースさんがだよ…? このあたしが今更『誰よりも速いウマ娘になりたい』って心の底から思ってる。勝ちたくて走りたくて身震いが止まらない! …ふふっ、可笑しいよね?」

 

 涙で頬を濡らしながらアモ先輩は力説する。

 …全然おかしくなんか無い。その証拠に私にも涙が溢れてくる。先輩の気持ち、分かりすぎるくらいに分かるから。

 ウマ娘(わたしたち)の根底には例外なく『誰よりも速く走りたい』という気持ちが秘められている。それを隠す事は出来ない。

 

「可笑しくなんか無いですよ。私だって気持ちは同じです。このままジャパンカップや有馬記念でも勝ってドリームトロフィーに進んで下さいよ!」

 

そこでアモ先輩はいつものイタズラ者が何かを企んでいる様な顔に戻る。

 

「簡単に言ってくれるなぁ、ナズナは。でもそうだよね、走る前から諦めてたよ。そんなのウマ娘失格だよね。ありがとうナズナ、気合入ったよ」

 

 実は私は先輩の話を聞いていただけで何もしていない。アモ先輩が1人で喋って1人で自己解決しただけだ。

 

「あたし実はね、今年いっぱいで走るのを引退して、アイリス先輩みたいにトレーナーを目指そうかな? とか思ってたの。でも何かちょっと欲が出てきちゃったから、もう少し走りたい。自分の本当の限界を見てみたい!」

 

 アモ先輩、凄く良い笑顔になっている。これは秋のGⅠ戦線、ひょっとしたらひょっとするかも知れないね。

 

「アモ先輩のトレーニングメニューって興味ありますね。特に対戦相手を陥れる戦法とか教えて欲しいですよ」

 

「お? 興味あるかねナズナくん。よろしい、このアモ先生が特別に奥義を授けようぞ」

 

 それからアモ先輩は定期的に色々なテクニックを教えてくれた。是非ともこれからのレースに役立てていきたい所だ。

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