【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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23R 菊花賞となでしこ賞

 アモ先輩の天皇賞を来週に控えた10月の第4週、本日は京都レース場でクラッシックレースの最終戦、菊花賞が行われる。

 

 もちろん世間の注目はツキバミが『無敗の三冠馬』となれるかどうかであるが、今までのレースが圧倒的過ぎて、『菊花賞に勝てるかどうか?』では無く『勝った後の次のレース予想』が主流になっているようだ。

 

 「次はジャパンカップだ」「いやいや有記念だ」「デビューから走り詰めだから少し休養を取るべき。次走は来年春の大阪杯か阪神大賞典で」

 

 等々、ツキバミ本人サイドを全く無視して外野で侃侃諤諤(かんかんがくがく)の騒ぎになっていた。

 

 私達チーム〈ポラリス〉も現状とりあえずツキバミをマークする必要は無いので、その日は結果だけ分かれば良いかな? 的な緩い雰囲気が流れていた。

 

「ちょっと、何これ…?」

 

 空気を変えたのはアイリスの一言。URAから送られてきた今回の出走表に変な所でもあったのかな?

 

「菊花賞の前に行われる『なでしこ賞』なんだけど、ブラックリリィが登録してるわ。あとドキュウセンカンも…」

 

 ほぉ、こんな所でリリィvsドキュウの戦いが行われるのか。まぁ確かに興味深いカードではあるけど、『何これ?』と言うほどの物ではないと思うけど…?

 

 私の疑問を解消してくれたのはメル先輩のトレーナー、目黒さんだった。

 

「おいおい、『なでしこ賞』って1400mのダート (砂)だろ? 地方出身のドキュウセンカンはダートに慣れてるだろうけど、リリィはダートの、しかも1400なんて短距離を走れるのか?」

 

 あぁなるほど、そういう事か。つまりリリィは場適性も距離適性も無視した「普通なら出走するはずの無い」レースに登録している、って事だ。

 ただまぁリリィの適性云々は私達が勝手に「芝の中距離が得意」と予想しているだけで、本当は短距離ダートが得意な可能性も大いにあるけどね。

 

 ☆

 

 という訳でさすがに観戦目的で京都には行けないので、今回は事務所の皆でテレビ観戦。

 

 テレビの実況アナウンサーも今日のリリィの出走には首を傾げていた。やはり一般認知でリリィは「芝の中長距離が得意タイプ」と言う事らしい。

 

 ジュニア級注目の2選手の決闘にプレオープンクラスのレースでありながら注目度は高く、現時点で観客の入りはすでに満員との事だ。

 

 全12人のウマ娘がゲートに入りスタートを待つ。ここでいつも険しい顔を更に険しくして源逸トレーナーがボソリと洩らした。

 

「リリィの狙いはツキバミだな…」

 

 は? どういう事か分からずに聞こうとした所でレースが始まった。

 

 いつもの様に逃げを打つドキュウ。リリィは中段後方で様子見の模様。

 ドキュウのブロックを回避しようと、何人ものウマ娘が彼女の先に出るべく一斉に動き出す。

 

 対するドキュウもまるで背中に目が付いているかの様な的確な動きで後続をブロックしている。いつもながらこの技術は感嘆に値する。

 

 しかしながら今回はさすがに対策されてしまったのか、結果的にそうなっただけなのかは計り知れないが、ダートと言う足を取られる場も相まって、ドキュウのいつもの軽快さが発揮できずに2人のウマ娘がドキュウを抜いて先行する事に成功する。

 

 やはりドキュウの戦術は少人数でのレースでのみ発揮される物であって、人数が増えるとそれだけカバーする範囲も増える。それがドキュウの処理能力を超えると今の様に先行を許す事になる。

 

 2人がドキュウに先行したものの、やはり抜く際に過剰にスタミナを浪費したのか、せっかく奪ったポジションをあっさりと抜き返されてしまう。

 

 リリィが動いたのはこの時だ。ドキュウの疲労を見抜いて順位が大きく入れ替わる瞬間に仕掛ける。

 ドキュウも抜かれまいと肘を振ってリリィを阻止しようとする。反則スレスレ、いや完全に反則行為だ。ドキュウの太い腕で殴られたら、針金の様に細いリリィなど一溜まりもなく吹き飛ばされてしまうだろう。

 

 しかしリリィは迫りくるドキュウの肘を皮一枚で回避する。肘の軌道を完璧に見切っていないと出来ない芸当だ。

 

 レースはドキュウを差したリリィがそのままゴール板を駆け抜けて優勝、ドキュウは2着となったが、リリィへの肘打ちが妨害行為と判断され、後に最下位へと降着処分とされた。

 

 レースも終わって、私は先ほど聞き損ねた話を再び源逸(おやっ)さんに振る。

 

「さっき言ってた『リリィの狙いはツキバミ』ってどういう事です?」

 

 おやっさんは憮然とした表情で私を見つめ口を開く。

 

「この後すぐにツキバミの菊花賞があるだろ? リリィはわざわざ京都まで出向いて『場や距離に囚われないスーパーウマ娘がお前のすぐ横に居るんだぞ、来年を待っていろ』って言いに行ったんだろうさ。ご苦労なこった」

 

 …なるほど。それならリリィが短距離のダートを走った事にも合点がいく。本日の京都でリリィが出られるレースがなでしこ賞だけだった、というのも多分にあるとは思うが……。

 

 ☆

 

 さて更に2レースを観覧していよいよ菊花賞が始まった。注目はもちろんツキバミ、それも彼女が何位に入るか? ではなくコースタイム何秒で優勝するか? が話題の中心だ。

 ちなみに菊花賞の日本記録は3分01秒。ツキバミがもし神戸新聞杯で見せた豪脚でその3000m全てを走ったなら、3分はおろか2分40秒くらいの大記録が生まれる可能性がある。

 

 パドックに姿を見せたツキバミ。彼女の勝負服はトレンチコートにハンチング帽と言う、シャーロックホームズを彷彿とさせる様なシックな出で立ちだった。それでいて下半身はタイトスカートと言う、女子として可愛さを捨てていない所が好感が持てる反面チグハグさは否めなかった。

 

 さて、レース本番だが、ツキバミは終始淡々と走りつつもリードを広げ、最後の直線もスパートを掛けることなく余裕の… いや言葉は悪いが舐めプとすら思えるゴールを見せつける。

 ラストスパートの無かった分、直線で後続に詰め寄られるも2身差をキープしつつの横綱相撲だった。

 

「リリィの挑発に対してツキバミも『3000のGⅠなんて汗もかかずに走って見せますわ』てなもんなんだろうな。こりゃ来年の秋は凄え事になるな…」

 

 いやホント、マジで何なん? コイツら…?

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