【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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24R 天皇賞(秋)

 東京レース場。トレセン学園にほど近いレース場で、学園の授業や休日のレジャー代わりとして普段から学園生徒も数多く来場している場所だ。

 

 ギネス記録にもなっている世界最大のターフビジョンを始め、施設としての規模はURAの主要4大競レース場 (中山、東京、阪神、京都)の中でも最大で、東京優駿(日本ダービー)や天皇賞(秋)等、年間8試合のGⅠレースが行われる。

 

  今日は今年の天皇賞(秋)の開催日、そして我らがチーム〈ポラリス〉のエースであるアーモリーフォース先輩のGⅠデビューの日でもある。

 

 レースの開始は15時40分で現在時刻は15時05分。第10レースの秋嶺ステークスが少し遅れて始まった所だ。私達はそれを観客席から見て色々と勉強している最中である。

 

 今日はアモ先輩の応援でチームメイト全員が集合したわけだが、アモ先輩の「集中したいから」との理由で、源逸トレーナーを含む全員が控室から追い出されてしまっていた。

 

「付き合い長いけど、アモちゃんがここまでナーバスになるのは初めて見たわね。緊張して固くなってないと良いんだけど…」

 

「GⅠだもん、緊張しないわけ無いよ。あたしが走る訳でも無いのに心臓バクバク言ってるんだよ?」

 

 メル先輩の呟きにコロが絡む。確かに身内がこんな大舞台で走るなんて私も初めての経験だから、正直どんな顔をすれば良いのか全く分からない。

 

 控室でのアモ先輩だが、まるで別人の様にピリピリしていた。それだけ集中していると言う事なのだろうが、まるでツキバミを彷彿とさせる(オーラ)を放っていた。うん、こりゃ下手に話し掛けない方が良いわ。

 

 この状態のアモ先輩をして、トレーナーの源逸さんは「怪物を作っちまったかも知れねえ」と(うそぶ)いていた。

 

 やがて本日の出走メンバーが続々とパドックに現れる。その錚々(そうそう)たるメンツを以下に人気順で紹介しよう。

 

 宝塚記念の覇者 ケイヨウブロンコ。

 阪神大賞典、毎日王冠の覇者 トウザイブレイカー。

 オールカマーでもアモ先輩と争った大阪杯覇者 レーザーディスク。

 NHKマイルカップ覇者 ムサシノコジロー

 アモ先輩はここ、5番人気だ。以前アモ先輩が「頑張っても5位」と言っていたが、この予想を見る限りお客さんの目もほぼ同意見らしい。

 

 他にもソウブサンカンオーやヤマノテレディといった強豪が軒を並べている。

 各ゲートに入って厳かな雰囲気でレースが始まった。

 

 ☆

 

「うっそ! アモ先輩逃げてるよ? 何で?」

 

 最初に声を上げたのはコロだった。3人程の先頭集団のうち3番手に付き、そこから少し離れて中段組が続く。普段のアモ先輩は『先行』か『差し』なので、本来ならこちらの中段組に位置しているはずだ。

 

アモ(あいつ)の事だ、GⅠの舞台で群れに沈んだらもう這い上がって来れねぇ事を肌で感じているんだろう。『策略家』とも言われるアモがその辺の武器を全部取っ払って、己の脚だけで戦っているんだ…」

 

 ただ勝つ事だけを考えて、その結果自分の得意な武器を切り捨ててまで必死に走っているアモ先輩。眩しすぎて涙が出てくるよ……。

 

「アモ先輩ーっ! ファイトーっ!!」

 

 先輩には聞こえてないのは承知の上で大きな声を上げる。私に続いてカメやコロの他、〈ポラリス〉の全員が声を張り上げて応援する。

 

 例え声が届いて無くても、応援の気持ちは必ず伝わるはずだ。私の未勝利戦の時も多くのお客さんから沢山の力と勇気を与えてもらったから。

 

 ☆

 

 レースは東京レース場の名物である『第3コーナーの大欅(おおけやき)』に差し掛かる。

 

 余談だがこの大欅、ぶっちゃけレース観戦の邪魔にしかなっておらず、しかも実は欅の木じゃなくて榎の木だそうだ。

 昔から「邪魔なので切ってしまえ」という意見もあるのだが、何でも木の根元にはこの地を開拓した武家のお墓があって、木を切ると祟りがあるとかで誰も手を出す人がいないまま現代に至るらしい。

 

 さて、レースだが、状況は芳しく無い。慣れない『逃げ』でペース配分を誤ったのか、アモ先輩のスタミナは外から見ても分かるほど消耗している。それでもまだ順位を落とさず3位に付けている。

 

 後ろからケイヨウブロンコとトウザイブレイカーが上がってくる。更にアモ先輩の前を走っていた2人も疲労から徐々にスピードを落としてきて、先頭集団と中段の差が無くなる。

 アモ先輩は下がってきた垂れウマを見事にすり抜けて、一瞬ではあるがトップに躍り出た。

 

 最後の直線だが現在トップはアモ先輩、やや後方にケイヨウブロンコとトウザイブレイカーが並んで追走している。最後方で控えていたヤマノテレディも加速して猛追してくる。

 

 アモ先輩は疲労から体がヨレてきている。もはや真っ直ぐ走るだけで精一杯だ。歯を食いしばり賢明に脚を動かしてはいるものの、一歩毎に後続との差は縮まっていく。

 声を限りにアモ先輩へと声援を飛ばす。私達の声がアモ先輩を一歩でも前に踏み出す力になってくれるなら、声が枯れても構わない。

 

 ケイヨウブロンコがアモ先輩に並んだ時に、力を出し尽くしているはずのアモ先輩が一瞬だけ再加速を見せた。もはや体力では無く『意地』や『根性』の世界で走っているのだろう。

 

 しかし善戦虚しくその加速は本当に一瞬で終わってしまった。やがて後続のケイヨウブロンコとトウザイブレイカーに差し切られ、順位を落とすアモ先輩。

 更に追いすがるヤマノテレディだったが、そこでアモ先輩は最後の根性を見せてヤマノテレディに抜かせる事なくクビ差で先着した。

 

 アモ先輩は初のGⅠチャレンジ、天皇賞で見事に3着という結果を残した。

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