【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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28R 勝利のステージ

「そんで、お二人の出会いはどんな感じやったんです? 初めから仲良しやったんですか? それともバチバチ火花出てる感じ?」

 

 私の控室で新城記者の取材と言う名のプライベート暴きが始まった。ウイニングライブの準備時間も含めて10分だけ、という条件付きだ。

 まぁこの人が記事に私を取り上げてくれたから大幅にファン数も上がった訳だし、ネガティブな取材では無く初めから好感度の高いインタビューであるのはとてもありがたい。

 

 何より勝って取材を受けると決めたのは私で、今がその時な訳だし、答えにくいことは無理に答えなくて良いとも言われている。

 

「え〜? どうだったかなぁ…? 1年近く前の事だから忘れちゃったよ…」

 

「あら、私ははっきり覚えてるわよ。ナズナ、めちゃくちゃ私の事を不審な目で見てたし。『こんな若くてしかもウマ娘のトレーナーなんて信用出来るの?』みたいな顔してた」

 

 アイリスが話に乱入してくる。ちょっと、そういう事言うと私のイメージ下がるから止めて欲しいんだけど? まぁ確かにアイリスの言ってたように思ったよ。

 

 だってさ、チーム〈ポラリス〉の大ベテランである矛田源逸トレーナーにスカウトされたはずなのに、実際担当になったのは走りを引退した年若いウマ娘の新米トレーナーでは、『不安になるな』と言う方が無理があると分かって頂けると思う。

 

 私達の答えを楽しそうに聞いてメモを取る新城記者だったが、「編集長に掛け合うけど、どこまで紙面を取れるか分からない」そうで、取材を受けたものの最悪全ボツになる可能性もあるという。

 せっかく受けた取材が丸々無駄になるのは悲しいし、記者さんも名古屋まで来て無駄骨じゃ気の毒だ。

 

「今後はマスコミ対応として『絵になる』勝ち方や負け方も考えないとダメなのかしら…?」

 

 などとアイリスが迷走した考えを口にしていたが、ここは聞かなかった事にしておこう……。

 

 ☆

 

 レースが終わるとその勝者は観客の前で『ウイニングライブ』を行う事と、新戦からGⅡまでの全てのライブ楽曲は「Make debut(メイク デビュー)!」である事は以前にも書いた。

 

 そして週末のレース場では毎回10〜12のレースが開催される。

 GⅠレースを除くその全てにおいて「Make debut!」が歌われる訳で、観客も1日に10回も同じ曲を聞かされるのでは、いくらなんでもウンザリしてしまうだろう。

 

 という訳で、レース場そのものがステージに大掛かりな改造をされるGⅠと違い、どのレース場にも「Make debut!」専用の小ステージが観客席に隣接する形で常設されている。

 

 開催されるレースとレースの間には、それぞれ約30分ほどの時間がある。その間、会場では前レースでウマ娘達が激闘を繰り広げて荒れたコースの整備や、パドックで次レースを走るウマ娘のお目見えが行われる。

 

 人気ウマ娘が出るのでも無い限りあまり動きの無いシーンが続くので、そのお客さんの空いた時間のフォローを兼ねてレース毎に「Make debut!」が披露される、というカラクリだ。

 

 また、ごく(まれ)にGⅠクラスのウマ娘がソロシングルデビューを果たした時に、歌の宣伝としてステージが使われる時もある。

 

 私の走った未勝利戦は第4レース、次の第5レースはプレオープンのダート1200mだが、お昼を挟んで40分以上の空き時間がある。

 手隙の時間分、会場のお客さん達もブラブラするわけで、「つまみを食いながらライブでも見るか」みたいな人が集まって、普段の「Make debut!」のライブよりも若干多めの客入りらしい。

 

「まさかアンタに先を越されるとはね… 舐めたステージしたら蹴り飛ばしてやるからしっかりやんなさいよ?」

 

 楽屋からステージに向かおうとした矢先にイーグルダイブから声を掛けられた。

 白いショートジャケット、へそ出し、チョーカー、ガーターベルトにニーソックスの「STARTING FUTURE」という名の、レースの上位3名 (センターと両サイド)しか着る事を許されないステージ専用の衣装を纏っている。

 

 もちろん今回は私がセンターなので、私も彼女と全く同じ格好をしている。勝負服とはまた違った緊張感が全身を駆け巡る。

 

 他人から改めて言われるまでも無い。中央トレセン学園のウマ娘は、走りももちろんだがまずこの「Make debut!」を体の芯まで叩き込まれる。私はもう目を瞑ってでもセンター、サイド、バック全てのパートを歌えるし踊れる。そしてそれは他のウマ娘も同様だろう。

 

 …と言う様な事を言い返そうかとも思ったが、今からハレの舞台なのにケチを付ける必要はないし、何よりイーグルダイブのあの言葉は、口調こそ悪いが意地悪ではなく激励の言葉であるのは間違い無い。

 

 私はイーグルダイブへの返事の代わりに口元をニヤリと歪ませ親指を立ててみせた。彼女も同じ顔、同じ仕草で返してくる。ライブを成功させたい気持ちは皆一緒だ。

 

 1日に10回以上も繰り返される曲とダンス、でも演じてる娘は毎回違う。聞き飽きた曲、見飽きたダンス。でもこのスズシロナズナさんの初勝利のステージは今ここでしか見られないレアステージなんだからな! 私に興味のないお客さんも私の名前を覚えて帰ってもらうからね!!

 

 そんな気持ちでステージに飛び出して最初に目に付いた物が『スズシロナズナ初勝利おめでとう!』と書かれた小さな手製の横断幕だった。

 

 一瞬で目に涙が溜まり思わず口元を抑える。応援してくれている人が居る。その人の期待に応える事が出来た。そしてその人が私の勝利を祝福してくれている……。

 

 「Make debut!」の歌い出しは真っ暗なステージから始まるのだけれど… ステージが暗くて本当に良かった。もし明るいスタートだったら瞬間的に泣き顔を晒してしまっただろうから。

 

 アモ先輩の言葉では無いが、ステージで涙を見せたらダメだ。

 曲が始まるまでの数秒間の間にぎゅっと目を閉じ涙を散らす。

 

 気持ちが落ち着き顔を上げる。そして今度こそ私の歌を、この中京レース場に居る皆に届けよう。

 歓喜と感謝の心を込めて私は歌う。マイクを通して私の声は会場中に木霊する。チームの皆、会場に集まってくれたお客さん達の為に精一杯歌おう。

 

 曲のイントロである管楽器の演奏が会場に鳴り響く。

 

 響けファンファーレ、届けゴールまで……。

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