【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
パジャマに着替えて『あとは寝るだけ』だった所にカメから投げられた「一緒に寝たい」と言う爆弾発言。
「…嫌だよ、ベッド狭いんだから1人で寝なよ」
どういうつもりでカメがそんな事を言い出したのか真意が掴めないので、とりあえず牽制として一度距離を取っておく。
「え〜? だって今日は勝負服とか初めての『
などとこちらに手を合わせつつ勝手なことを言ってきた。勝負服とか新曲で浮かれているのは私も同様だから気持ちはとても良くわかる。
それにカメは普段優しい分、一度今の様な『わがままモード』に入ると決して諦めずに我欲を通そうと詰めてくる。
まぁ、以前私もカメに甘えて泣かせてもらったりしているから、この辺は『持ちつ持たれつ』と言う事なのかも知れない。
「…勝手にしなよ」
カメに背を向けて壁際に寄る。寮のベッドに人が2人仰向けに並んで寝られるスペースは無い。横向きに並んでギリギリのラインだろう。
「やったぁ! ありがとう、ナッちゃん大好き!」
いそいそとカメが私のベッドに潜り込んでくる。2人並んでⅡの字で横向きに寝そべっている形だ。
壁の方を向いている私の背中にカメの大きな胸が当たってくる。
パジャマ姿なので2人共
「ちょっとカメ、胸当たってるんだけど…?」
女同士なので別にイヤラシイ気持ちにはならないけど、だからと言って平然としていられるほどの状況では無い。
「だって狭いんだもん。ナッちゃんがもっと詰めてよ。それに『当たっている』んじゃなくて『当ててる』んだからね。ナッちゃんもこっち向いてよ。背中向けられると寂しいな…」
わざとかよ! しかも今以上に詰めるのはもう無理だ。それに私が方向転換したらお互いの胸同士が接触して、余計に息苦しくなるじゃないか。
それに胸同士が当たるとか、その結果新しい道に目覚めでもしたらどう責任とってくれるのだろうか?
「狭いから無理! もう、大人しく寝なさいよ」
カメの誘いには乗らない。私もクタクタなのだ。私にだって明日はある、その為の休息は保持されて然るべきだ。
「ぶー、イジワルぅ… わぁ、ナッちゃん髪伸びたねぇ…」
私がカメに背中を向けている分、カメの視界には私の後頭部が見えているのは容易に想像できる。
確かデビュー直前に思いっきりショートカットにして、それきり半年近く散髪していない気がする。
「ちょうど今くらい、うなじが隠れるくらいの長さがナッちゃんには一番似合ってると思うなぁ。栃栗毛の髪色もとってもキレイ…」
私の後ろで髪の毛を
「私、ナッちゃんと一緒のチームで良かった… ナッちゃんありがとうね…」
私の髪の毛を
背中で段々細くなっていくカメの声を聞きながら、私にも徐々に睡魔が訪れてくる。
私も目を閉じ
びっくりして一気に眠気が吹っ飛ぶ。いくらカメでもこれはさすがに越えちゃイケない行為なんじゃ無いのかな…?
「ちょ、ちょっとカメ… だ、駄目だよ女の子同士でそんな…」
背中を向けている分、カメの表情は分からない。もしカメが本気で私の事を…? そうしたら私は一体どうすれば…?
「うう〜ん、もう食べられないよ…」
…うっわぁ、
結局それ以降ドキドキが収まらず、私の方が安眠出来ずに悶々とした夜を過ごしたのだった。
もう二度とカメをベッドに入れない。
☆
翌日、寝不足のまま授業を終わらせてトレーニングに向かう。
事務所の机に無造作に置かれている新聞の中に『優駿タイムズ』があったので、私の記事があるかな? と軽く眺める。
私の記事はあるにはあった。しかし真ん中辺の探さなければ見つからない程の小さなスペースに「スズシロナズナ初勝利。麗しき師弟愛」とのキャプションで、アイリスと抱き合っている写真と短い記事が載っていた。
「まぁ未勝利戦の記事なら元々そんな物でしょうね。載せてもらっただけでもありがたい事だわ」
いつの間にかアイリスが横で私の見ている新聞を盗み見ていた。確かにあの記者のおじさんも「最悪全ボツになる」と言っていたから、これでも頑張ってくれたのだと思う。
そしてこの記事の効果なのか、私のファン数は今朝の段階で5000を超えた。単純に数字だけなら日本ダービーを始めとするクラッシック級のGⅠへの参加ノルマをクリアした事になる。
今まではただの夢でしか無かった日本ダービーが、手が届く『現実』の物として形になってきた事に、心身共に震えが止まらなかった……。