【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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31R ウマ娘の恋愛事情

「あ〜、たこ焼き美味しいねぇナッちゃん…」

 

 カメの緊張感の無い、それでいて幸せそうな声が師走の道頓堀に小さく響いた。

 

 私達チーム〈ポラリス〉は、今その全員が大阪に来ている。その理由はもちろんメンバーの応援の為だ。

 

 この週末、阪神レース場に於いてメンバー2人のレースが行われる。

 まずは明日の土曜日にメル先輩のリゲルステークスが行われ、その翌日にはカメのGⅠデビューである阪神ジュベナイルフィリーズが行われる。

 

「全員で阪神行く予算はキツイんだが、GⅠだもんな。行かないわけにはいかないよな!」

 

 との源逸さんの英断で、全員で大阪食い倒れツアーと相成った次第だ。中京 (名古屋)ならともかく、府中と京都や阪神のレース場の日帰りだと体への負担も大きい。実績が薄くて経済的に振るわないチームだと関西のレースも日帰り、と言うパターンも少なくないそうだ。

 

 食いだおれた後は電車で宝塚に移動、そこの駅近くにホテルを取ってある。

 宝塚駅から阪神レース場最寄りの仁川(にがわ)駅はわずか数駅なので、時間に余裕を持って行動できるのはありがたい。

 尤も今回の私は完全に応援要員だから、完全にだらけたオフモードで参加させてもらっている。

 

 今週末の天気はずっと晴れ予報だが、私が来ているので安心は出来ない。だって私は『雨女』だからね。普段の生活でも外に出ると雨がぱらつき出すし、過去走ったレース3戦のうち2戦は雨だった。

 でも別に私が好き好んで雨を降らせている訳では無いのだから、仮に天候が崩れても天気の責任までは負いかねる。

 

 阪神レース場は東京レース場と同様、URAの管理する中央4大レース場の1つだ。

 特筆点は観客席の前全面にガラス窓が設置されており、雨にも濡れず、また冷暖房も完備しているという卓越した居住性だ。

 

 あとは悪名高い「仁川の坂」。ゴール前の直線には高低差1.8m のキツイ急坂があり、逃げや先行のウマ娘がこの坂で失速するシーンもしばしば見受けられるという『地獄の上り坂』だ。

 『逃げ』のメル先輩や『スタミナに不安のある』カメには大きな試練になるだろうが、ぜひとも頑張って欲しい所だ。

 

 ☆

 

「じゃあ行ってきます!」

 

 控室からメル先輩が颯爽と出陣する。トレーナーの目黒さんはメル先輩のレースの時、いつも仲良くパドック直前まで付き合うらしい。

 

 この2人の関係はぶっちゃけどうなんだろう? 目黒さんはあまり感情を表に出すタイプではなく、私的に近寄り難い雰囲気の人という印象だが、アイリスらトレーナー同士では普通に雑談して笑っているのはよく見かける。

 教官意識が強くて、ウマ娘にはわざとちょっと高圧気味に接している人なのかも知れない。

 

 一方のメル先輩はいつもニコニコしているが故に本心の掴みづらい人でもある。私の見立てではメル先輩の目黒さんを見る目はかなり熱いものがあると思っているのだが、それが恋心なのかどうかは経験の薄い私にはよく分からない。

 でもウマ娘と担当トレーナーが結ばれるのは珍しい話じゃ無いらしいし、仏頂面の夫に世話焼きの妻とかかなりお似合いなのでは無いだろうか?

 

 ただ基本的に在学中のウマ娘とトレーナー間は「恋愛禁止」だ。学校の教師と生徒の関係と思ってもらえば間違いない。一般的にトレーナー (教師)から見た生徒はまだ子供であり、恋愛対象に成りえない場合がほとんどだ。

 仮に両者でお付き合いする事になっても、それはトレセン学園卒業後の話だになる。まぁ何事にも例外はあるけれども……。

 

 年齢は確か目黒さんがアラサーのはずだから、メル先輩とは倍近く離れている。

 目黒さんはメル先輩をどう思っているのか興味はあるけど、聞きに行く度胸はないからニヤニヤしながら今後も傍観させてもらうつもりだ。

 

 ウマ娘も中身は普通の女の子なので、恋バナで盛り上がる事はよくあるが、実際に恋愛をする娘はとても少ない。

 というのもトレセン学園は全寮制の女子校であり、まず若い男性との出会いが無い。なので若くてイケメンぽい男性トレーナーや男性教師、そして凛としたクールなウマ娘が『疑似アイドル』として騒がれる事は多々ある。

 

 あと大きな問題は、ウマ娘自身が生理的にパートナーを求める時期じゃないって事もある。

 実はウマ娘には発情期があって、それ以外の時には本能としてあまり男性を求めない。

 それに若いウマ娘の脳内のほとんどは『走り>男性』であり、色々な意味で不祥事から守られている仕組みだ。

 

 ちなみに発情期は夏の暑い時期、人間も性の開放される危険な時期に訪れる。確かに私も二次性徴を迎えてから、この時期に情緒不安定になる事は増えた。

 そして学園としてはそんな危険な時期に危険な生徒を野放しにしない為に、トゥインクルシリーズに登録している生徒全員参加の『夏期強化合宿』をガッツリ2ヶ月行うのだ。

 単なる強化合宿では無く、監獄としての機能も果たしている事は、決して外部の人間には漏らすなと厳命されている。

 

 ちなみにトレセン学園生徒以外のウマ娘や、合宿中でもムラムラの治まらない娘は、医師から低用量ピルを処方してもらって性欲を制御する事になるのだが、このピルはウマ娘なら誰でも国から無料で貰える制度になっている。

 

 余談だが、カメの両親もウマ娘と元担当トレーナーで、(カメ)の前でも未だにイチャイチャする爆発推奨夫婦だそうだ。

 

 ☆

 

 さて、メル先輩の走るリゲルステークスは1600m、芝のオープンレースだ。特にこれといった強敵が出る訳でも無いらしく、メル先輩は現在一番人気になっている。

 実は前走も優勝して調子付いているメル先輩は、最近オープンレースでも安定して入着している事から、来年のシニア級からは積極的に重賞を狙っていこうという方針で行くらしい。

 

 今回のリゲルステークスでは来年に向けての調整の意味が強いのだが「勝って当然、って空気を出されると困るんだよねぇ…」とはメル先輩の談だ。その後で目黒さんに軽くゲンコツされてたけどね。

 

 そしてメル先輩のレースだが、序盤から気持ちよく逃げるメル先輩を追う後続集団、という前回と近い構図で始まった。

 最終コーナーまでは良い感じで進んでいたのだが、最初から『逃げ』てスタミナを消費してしまったメル先輩は仁川の(まもの)に捕らえられてしまう。

 

 はっきりと分かるくらい失速してしまったメル先輩は、最後で捲ってきた後続に飲み込まれ、4人ほどが一丸となってゴール板を駆け抜けた。

 

 結果は写真判定となり、その為の十数秒の待ち時間がとても長く感じられた。

 

 やがて電光掲示板に現れた数字群が全ての運命を開示する。

 今回のメル先輩はトップとはアタマ差となる3着に入賞となった。

 

 うーん惜しい! でもまぁ3着なら悪くない。メル先輩お疲れ様でした!

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