【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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32R 再会、そして新たな強敵

 メル先輩のレースの翌日、今度はカメの試合が待っていた。

 晴天であった昨日と比べ、朝からどんよりとした雲が空を覆っている。朝の天気予報によれば、15時前後でにわか雨があるかも知れないとの事だ。

 

 カメの出走する『阪神ジュベナイルフィリーズ』の開始予定時間は15時40分。運が悪ければレース中に雨に見舞われる事になる。

 

「まさかの雨かぁ… まぁナッちゃんが居るから半分覚悟してたけどね」

 

 でも阪神レース場に向かう電車の中でカメがポツリと呟いた言葉に、私を除くチームの全員がうんうんと頷いていたのには断固として抗議したい。

 

 ☆

 

「オカメハチモクさん、合同インタビュー始めますから準備をお願いします」

 

 レース場の職員さんがカメを呼びに控室にやってきた。そう、GⅠレース当日の昼過ぎには出走者のうち人気上位3〜5名を集めて、各自の意気込みを語る記者会見が行われる。

 

 ウマ娘とはアスリートとして走れば良いだけの存在ではなく、歌って踊れるエンターテイナーとしての側面も要求される。

 こういった機会にメディアを前にしてしっかりと受け答えが出来ないと、後の人気に影響を及ぼす可能性があるのだ。

 

「ナッちゃん…」

 

 カメが私を上目遣いで見て何かを言いたそうにしている。

 うん、これは分かる。絶対『心細いから会見場まで付き合って』だ。私じゃなくてトレーナーのきりさんを頼れば良いのに。と思ったが、きりさんはきりさんでアイリスに泣き付いていた。この師弟コンビは大丈夫なのか…?

 

 カメと控室を出た所で、凡《おおよ》そレース場に似つかわしくない物体と衝突しそうになった。

 それは形容するなら『鎧を着た巨体の戦士』であろうか? ファンタジー系の作品によく見られる様な、革鎧の上に体の要所に金属板を取り付けた重装備の 《ウマ娘》がそこに居たのだ。

 

 その顔は鎧の面包に囲われてハッキリとは分からないが、こんな特殊なウマ娘が何人も居るはずはない。

 

「ドキュウさん…」

 

 カメの呟きが聞こえたのか、鎧の戦士は足を止め面包を上に持ち上げる。

 現れたその顔には私も見覚えがある。骨張った骨格ながらも端正な顔立ちをしたウマ娘、そして何より女性ながらに筋骨隆々としたそのボディ。カメも私も対戦経験のある強敵(ライバル)、ドキュウセンカンだ。彼女も今日のGⅠレースに出場し、そしてこの鎧姿が彼女の勝負服なのだろう。

 

「オカメハチモクか、今日はよろしく頼む。うん…? そちらはスズシロナズナか…?」

 

 向こうもインタビューを受けるべく移動している途中だったのか、意外な出会いにやや緊張した声を上げる。

 

 なにげにドキュウセンカンの声を初めて聞いた気がする。硬い口調はイメージ通りだが、声のトーンは予想より高く、声だけ聞いたらアイドル声優としてやっていけそうなくらい可愛い物だった。

 

「…そうだけど、何か?」

 

 ドキュウに対して物申したい部分は少なからずある。未勝利戦に於いて、彼女と接触した事が原因で私は転倒し負傷した。

 しかしながらあのレースで転倒せずに無難に勝っていたなら私のファン数は伸び悩み、恐らく未だプレオープンクラスで燻っていただろう。

 

「以前のレースでは事故に合わせてしまって申し訳ないと常々思っていた。改めて謝罪させて欲しい…」

 

 と言って頭を下げてきた。リリィに対して肘打ちしてきたくらいだから、てっきり衝突の言い訳が来ると思っていたが、逆に予想外過ぎて私の方が固まってしまう。

 ひょっとしてリリィへの妨害行為もトレーナーに強要されたとかで彼女の本意では無かったのかも知れない。あくまで可能性として。

 

「…え? あ、別に大した事じゃ無いし、気にしてないから…」

 

 思わずこちらも心にも無い返答をしてしまう。嫌味の1つでも言ってやろうと思っていた自分が段々惨めになってくるじゃないか……。

 

「ふふっ、ドキュウさんはちゃんと謝れて偉いですね。ナッちゃんもちゃんと許せて偉い!」

 

 カメが笑顔でまとめてくれた。カメの事だ、私の態度に違和感を感じていたのは間違いないが、また私が余計な憎まれ口を叩いて喧嘩の元になるのを防いでくれたんだと思う。

 

 その後「ありがとナッちゃん、ここまでで良いよ」と、カメは私を見捨ててドキュウと2人で会見場へと消えていった。2人で私の悪口を言い合ってる、なんて事は無かったと信じたい……。

 

 ☆

 

 カメは2番人気、ドキュウは3番人気で、肝心の1番人気はと言うと、『クリスタルセイバー』という美人だが性格の悪そうな顔をした芦毛のウマ娘だった。腰まである長い髪を襟足の辺りで一本に縛って無造作に垂らしている。

 

 勝負服は氷 、或いは名前の通り『水晶(クリスタル)』をイメージした格子柄の白いドレスで、とても美しく幻想的な姿をしていた。

 白い勝負服はカメとも被る上に、一見『悪の女幹部』みたいな印象もあるので、記者会見でもカメとライバル関係、みたいな扱いを受けていた。

 

 クリスタルセイバーはデビュー戦こそ惜敗したもののそこから既に3連勝を上げており、今年のデイリー杯 (GⅡ)をも制した紛れもない実力者だ。

 脚質は『逃げ』で、距離適性は私と同じマイル〜中距離らしい。私の今後のライバル候補としても無視できない存在だ。

 

 ちなみにクリスタルセイバーの未勝利戦で2着になったのがあの(・・)イーグルダイブだった。競走相手が(ことごと)くGⅠクラスだなんて、あの人も運が無いよねぇ……。

 

 ☆

 

 記者会見も無事終わり、あっという間にレース開始時間が近付いてきた。

 パドックでカメが観客に顔見せしている最中にポツリポツリと小雨が降り出してきたのだが、その時カメが観客席の私をジトっと睨んできたのは、これまた納得がいかなかった。天気は私のせいじゃないやい!

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