【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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4R トレセン学園

『日本ウマ娘トレーニングセンター学園』

 

 東京の府中市に通称『トレセン学園』と呼ばれるウマ娘の為の巨大な学校がある。私達競走ウマ娘はそこで日本一のウマ娘になるべく日夜研鑽している訳だ。

 

 地方にも同様のトレセン学園は多数存在するが、その規模と水準の高さから、単に『トレセン学園』と言った時は一般的にはこの中央の学園の事を指す。

 

 全国からやって来た町一番のウマ娘達と、幾度もの選抜試験を乗り越えてきたトレーナーらの集まる、ここ府中のトレセン学園はもはや異次元レベルで地方との格差を見せつける存在だ。

 

 かく言う私も地元の運動会や草レースでは常に1位を取ってきた。

「ナッちゃんなら日本ダービー優勝できるよ!」

「いやいや凱旋門賞も夢じゃない!」

 などと近所のオジサン達は無邪気に囃し立て、私自身もそんな気になっていた。

 

 全国トップレベルの指導を受ける事ができ、トレーニング機器も最新型がずらりと並ぶ。全寮制で寮には生徒以外の人間は女性トレーナーですらも進入不可というセキュリティ、食堂は充実したビュッフェで朝と晩は食べ放題。これは総じてエンゲル係数の高いウマ娘にはとても助かる。

 

 そして何より、好きなだけ走れる広さのコースがある。もちろん芝もダートもウッドチップも完備している。

 

 この様な理想的な環境、金が掛からないはずが無い。

 実は私の学費は両親の収入だけでは足りなかった。それを見かねた町会長さんは町がかりで私の後援会を発足させ、資金集めに走り回ってくれたのだ。

 そして兄は大学進学を諦めて就職し「(ナズナ)の学費の足しにしてくれ」と毎月少なくない額を後援会に振り込んでくれている。

 

 もちろん中央のトレセン学園に入学するのは難しい。筆記試験と面接はそれほどでは無いけれど、実技試験は何段階もの予備試験を経て本選で結果を出せた者しか入学が許されない。

 私の時は、地域クラブで走っていた私と近いレベルの女の子3人と一緒に試験を受けに行って、最終的に受かったのは私だけだった。

 

 そしてそんなハードな試験を勝ち抜いて来たエリートウマ娘達が、この学園にはなんと約2000人も在学している。

 

 私の目標は言うまでもなく、その2000の中で頂点に立つ事だ。私に夢を託してくれている大恩ある人達に報いるべく、勝って勝って勝ち続けなければならない。

 

 新戦なんかで躓いている場合では無いのだけれど……。

 

 トレセン学園は学業的には中高一貫の女子校だ。大抵の子は中学入試と同じ感覚で試験を受け、春から新入生として生徒となるが、ごくまれに途中入学や地方のトレセン学園から『転校』してくるウマ娘もいるらしい。

 

 そこで数カ月に一度、外部の記者等も招いた選抜レースが開かれ、生徒達はトレーナーにスカウトされる形で晴れて『競走ウマ娘』となる。

 

 トレーナーの居ないウマ娘は『トゥインクル・シリーズ』に代表される各種正規のレースには出走が認められないので、何はなくともトレーナーに見初められない事には始まる事すら出来ないシステムなのだ。

 

 中にはウマ娘の方からトレーナーに売り込む事もあるそうだが、私には無縁な話だ。だってこちらから誘って断られたら、死ぬほど恥ずかしいじゃないか……。

 

 名前が出たついでに説明すると『トゥインクル・シリーズ』とは、デビュー年を含む3年間のレースシリーズの事を指す。

 初年度から順にジュニア級、クラッシック級、シニア級と年明けと共に級を上げていき、それぞれに応じたレースを走る。

 

 ウマ娘にとってはこの3年間が最も大事な時期で、正にその後の人生を左右する期間となる。

 『トゥインクル・シリーズ』で優秀な成績を収められれば、更に上級の『ドリームトロフィー・リーグ』で走る事が許される。

『トゥインクル・シリーズ』を高校野球とするならば、『ドリームトロフィー・リーグ』はプロ野球の様な物だと考えてもらえば分かりやすいと思う。

 

 エリートの中の更に1握りのエリートだけが立てる夢の舞台、それがドリーム・トロフィーだ。

 

 さて、トレーナーの指導を受け、やがて『本格化』と呼ばれるレースに適した体に開化したウマ娘は、初夏から始まる『新バ戦』と言うデビュー戦に臨む事になる。

 この新バ戦に優勝、或いは負けても後日都度開催される『未勝利戦』に優勝出来れば、ランクを『プレオープン』に上げられる。

 

 その後『未勝利戦』は1年近く開催され続けるが、その間一度も優勝できなかったウマ娘は残念ながら落第となり、以降は『走り』に関する授業やトレーニングは受けられなくなる。

 ただ学園として中学〜高校のカリキュラムは、当人の学業単位が保持できていれば、そのまま卒業まで通い続ける事は可能だ。

 

 とは言うものの、言葉は悪いが『落伍者』の看板を背負ったまま生活するのは尋常ならぬストレスが発生する(エリートとして入学しているのだから尚更だ)ためか、落伍したほぼ全てのウマ娘は自主退学という形で学園を去る。

 

 貰った学園の資料によると、この時点で新入学したウマ娘の実に半数以上が脱落してしまうそうだ。

 そして新バ戦や未勝利戦を勝ち抜いたとしても、その後の成績不振や練習中やレース中の怪我、病気を理由に競走ウマ娘としてのキャリアをリタイアする娘も少なからず居て、総計で見ると全体の約7割が脱落すると言う……。

 

『全国から厳選されてきたウマ娘達の更に約3割しか学園に残れない』

 

 華やかなトレセン学園の裏側は、それだけ厳しい世界なのだ。

 

 学園を去った(都落ちした)ウマ娘、そして元々トレセン学園に進学しなかったウマ娘の人生は様々だ。

 走りを諦められないウマ娘は地方のレース場で行われるローカルレースに出たりするし、その脚力を活かして郵便配達やメール便等の配送業務に就いたりする。

 

 江戸時代の飛脚や駕籠担ぎなどはウマ娘の独壇場だったらしいから、小口の輸送とウマ娘は切っても切れない関係にあるのだろう。

 

 もちろん走りを辞めた(あるいは故障して走れなくなった)ウマ娘が、普通に企業に就職してOLをやっていたり、結婚して主婦業をしているパターンも多く見られる。この辺は普通の体育会系女子と変わる物では無いだろう。

 

 ウマ娘だって人間だ。職業選択の自由は保証されているし、本人の気持ち次第で何にでもなれる。外国の話だが、宇宙飛行士になったウマ娘もいるらしい。

 

 ただ、ウマ娘として生を受けた者は大なり小なり『走り』や『勝負』への渇望が生まれる。「あの娘より速くなりたい」「あの娘にレースで勝ちたい」という思いは全てのウマ娘が抱く思いだ。

 

 だからこそウマ娘の精神を具現化した『競走ウマ娘』への社会的な憧憬と賞賛は凄まじい物になる。GⅠレースを勝ったウマ娘は、その日から国民の英雄となれるのだ。

 

 さて、デビュー戦を終えたらここからは人気勝負になってくる。ウマ娘は走るだけでは務まらない。歌や踊りも十全に出来なければ人気が上がらず、やはり影に消える人生が待っている。

 

 デビュー戦以降、ウマ娘本人のファン数が計測されるようになり、その数に応じて出られるレースに制限が掛かるのだ。

 従って、プレオープン級の間はプレオープン級のレースにしか出走出来ない。ここで順位を上げればファン数は増えるし、不甲斐ないレースやステージを続ければファン数は下がっていく仕組みだ。

 

 そしてプレオープンでファン数を一定値(3000人)以上まで増やして初めてオープン級となり、ここに来てようやく全てのレースへの出走が解禁される。しかし依然としてグレードの高いレースには、必要なファン数の高い数値が設定されており、更なる研鑽が必要となるのだ。

 

「ナッちゃんなら日本ダービー優勝できるよ!」と言ってくれた床屋のオジサン。私はまだダービーに出走する権利の入り口にすら立てていないよ……。

 

 でもね、でも必ず私は勝ち上がってGⅠのトロフィーを地元に持ち帰ってみせるよ。だから、だから皆、待っててね…!

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