【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
走り終わってその場にへたり込む。濡れた芝からの水分が勝負服や下着に染み込んでお尻がズブ濡れになるが、もう指の1本も動かすのも億劫だ。
掲示板に『確』マークが灯り順位が確定した。1着はブラックリリィ、その後に私、スメラギ、セイバー、リンカイパワフルで掲示版が埋まる。注目のフックトッシンは8着だった。
レース中はあんなに鬱陶しかった雨が火照った体を良い具合に冷やしてくれる。優勝こそ逃してしまったが、限界の先まで全力を出し切っての結果だ。大いに誇って良いものだろう。
負けた悔しさは確かにある。しかし今は不安や妬みや嫉み、あらゆる体中の毒が抜けて、負けて泥だらけなのにとても清々しい気分だ。
それにレースの最後にあったアレは何だったのだろう? 『負けたくない』の気持ちが爆発したみたいなスーパーパワー、あれが多分《
もしあれが《
でもだとしたらぶっつけ本番で成功させちゃう私って凄くない? やっぱり天才なんじゃない?
…って、んなワケ無いかぁ。天才なら途中でガス欠せずに最後まで走り抜けられるよねぇ。
アモ先輩は鼻血吹いて脳へのダメージが心配されてたけど、私も何かヤバいダメージとか受けたのかなぁ? 痛みはもう引いたけど検査とかした方が良いのかな…?
なんて事を1人で考えていたら、横にスメラギがやって来た。
「お疲れ様。貴女には勝てるつもりでいたんだけど、とんだダークウマ娘が居たものね…」
お? 負け惜しみを言いに来たのか? 良いぞ良いぞ。今のナズナさんは余裕あるから優しく相手してあげるぞ?
「スメラギ… ふっ、今度は1着になってアンタを負かしてやるから」
「言ってくれるじゃない。その言葉、そっくりそのまま返して上げるわ。私も今度はリリィに勝つ、絶対に…」
「呼ばれた気がした!」
スメラギの決意の言葉に反応して、今度はヒョコヒョコとリリィがやって来た。
優勝者が敗者の前で何を言う気なのか? 私とスメラギに軽い緊迫感が走る。
「やっぱりスズシロナズナさんは速かったですねぇ。本気で負けそうになって超焦りましたよぉ」
リリィからの予想外な健闘への賛辞にどう答えたものかと窮する私達。リリィはマイペースで話を続ける。
「是非また貴女達と走りたいです。そうだ、お友達になりましょう! 『ナズナちゃん』って呼んで良いですか? そちらの
「「お、おぅ…」」
呆気に取られて2人並んで間抜けなリアクションをしてしまう私とスメラギ。
「とにかく今日はとっても楽しかったです。また後ほどライブで」
と、優勝者インタビューの為に係員に呼ばれたリリィは名残惜しそうにウイニングサークルへと去っていった。
「…えっと、知り合いだったの?」
スメラギからの質問、これも何とも答えづらい。
「デビューが同じレースだっただけ。もっと陰気臭い娘かと思ってたから私も面食らってる…」
私の言葉にスメラギは一瞬驚いた顔を見せ、その後コロコロと笑いだした。
「…あぁ可笑しい。変わった娘だけどあれも勝者の余裕なのかしら?」
「いやぁどうなんだろう?
私が立ち上がりどちらともなく手を差し出し握手する。心地よい疲労感のまま「また
☆
控室に戻るべく地下馬道へと進むと途中でアイリスが待っていた。
「惜しかったわね。でも2着は凄いわ、おめでとう!」
うん、今になってレース前のアイリスの気持ちが理解できた。ガチガチに固まってガルガルに四方に殺気を振り撒いていた私は、今の自分から見てもレースに臨む心理状態じゃなかった。アイリスはきっとその辺を心配して声を掛けてくれていたんだよね。
それなのに私は心の中でアイリスを罵倒して、その怒りを走りの原動力にしようとすらしていた。ちょっと反省案件だねこれは。
「…うん、ありがとうアイリス。2着は悔しいけど更に闘志に火が点いた。またすぐにでも走りたい。負けたのにこんなに晴れ晴れとしているのが自分でも不思議。それに… それにとっても楽しいレースだったよ!」
アイリスはそんな私の取り留めも無くたどたどしい報告を、笑顔のまま何度も頷きながら聞いてくれた。
『ごめんね』は言えなかったけど、お互いに笑顔になれたからそれで良しとしておこうと思う。
☆
今日のウイニングライブの曲目はジュニア級唯一のGⅠ曲「
小学校の合唱コンクールで歌われる様な、柔らかくてほんわかとした伸びのある曲で、いかにも『ジュニア級でございます』という趣きの歌になっている。
それこそ「NEXT FRONTIER」の様に『頂点獲ったる!』という戦闘的な曲ではなく、『走りの楽しみやドキドキ』を主題にしている可愛らしい歌だ。
正直、私の様なやさぐれた可愛げの無いウマ娘には似つかわしく無い歌ではあるが、こればかりは選べないので仕方ない。
「はぁ〜、初めての歌だからドキドキするねぇ」
緊張している (?)リリィが話しかけてきた。リリィも性格はともかく外見は幽霊みたいな不健康な印象があるので、カワイイ曲はイメージが合わない。
ついでに言うならスメラギもお固い委員長キャラなので、曲に対して違和感がある。
…この3人で大丈夫か?
「ねぇ、気晴らしがてら前から気になってた事があるんだけど一つ聞いてもいい?」
私の質問に緊張を紛らわせたいリリィは即座に頷いた。
「菊花賞の時にさ、同じ京都であんたダート短距離のなでしこ賞に出てたじゃん? アレってやっぱりツキバミへの挑戦状だったの…?」
リリィは一瞬目をパチクリさせて大きく
「ううん、違うよ。トレーナーさんに『ツキバミさんのレース見に行きたい』って言ったら、なぜかその日の京都のレースに登録されてたんだよ」
あっけらかんと答えるリリィだったが、逆に
私の中のリリィは前以上に『訳のワカラン娘』というラベルで固定されてしまっていた……。
あ、ライブは盛況のまま無事に終わりました。私のソロパートもバッチリ決めてきたよ!