【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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39R 帰郷

「それでは我らが鈴代(すずしろ) 奈津菜(なづな)君のGⅠレース健闘と本年度クラッシックレースの前途を祝して…」

 

「「「「乾杯ーっ!」」」」

 

 町会長さんの乾杯の音頭で、公民館に集まった後援会の皆さんが一斉にビールの入ったコップを高々と掲げる。

 

 正直あまり嬉しくない。こうやってオジサン達の酒の肴になるのが分かりきっていたから里帰りなんかしたくなかったのに… 全く、どうしてこうなった…?

 

 ☆

 

 ホープフルステークスを終えた翌日、チーム〈ポラリス〉では忘年会と翌年の指針を決めるためのミーティングが行われた。

 

 年が明けると私達ジュニア級のウマ娘はクラッシック級へと昇級する。

 日本ダービーを始めとするクラッシック級でのみ挑めるレースや、シニア級の先輩達と正面から戦える宝塚記念やジャパンカップといった有名なレースに挑戦する事が許された年でもあるのだ。

 

「まずは選手もトレーナーも皆お疲れ様! 今年は久々にチームからGⅠレース参加が多くて俺は大満足だった! 後は優勝トロフィーだけだが、そちらは是非とも今年のクラッシック級メンバーに託したい。以上!」

 

 源逸さんの挨拶で宴会が始まった。私が蜂蜜ニンジンジュースを1杯飲み干したタイミングでコロとカメが揃ってやって来た。

 

 私の来年はクラッシック路線で進む事は確定&周知済みで、次レースは恐らく3月頭の弥生賞だろう。

 

「ナズナ! あたしは帰省せずに新年早々中山の2000を走るぞ! クラッシック本戦までには追いつくからな!」

 

「私はティアラと短距離・マイル路線の混合で行くわ。新年は金沢の実家に報告がてら2、3日帰るつもりなんだけどナッちゃんはどうするの?」

 

 え〜? どうしようかなぁ… 確かに去年の正月に帰省したきりで今年は帰らなかった。それ以来家族にはずっと会っていない。

 寂しくないと言えば嘘になるが、大見栄切って故郷(くに)を出て、デビューしたもののその結果が1勝3敗ではあまり胸を張って出られる物ではないと思う。

 

 それにどうせ帰っても新年から後援会の皆様への挨拶回りや宴会のマスコットをやらされるだけだろうしなぁ……。

 

「私はトレセン学園(ここ)に残ろうかな… 帰っても面倒くさいだけだし…」

 

「あら、帰ってご両親を安心させて来なさいよ。もう2年近く会ってないんでしょ? GⅠで入着なんて十分凱旋していい戦果だわ」

 

 横からアイリスが乱入してきた。う〜ん、でもなぁ… イマイチスッキリしないんだよなぁ……。

 

「そうだぞナズナ。お前が恙無(つつがな)く走れているのもご両親や後援会のお陰なんだろ? 恩返しだと思って顔を見せてこい。元気にやってるって知れば親も安心するもんだ」

 

 源逸さんまで乱入してきた。しかももう酔いが回っているらしく、いつに無くご機嫌だ。

 

「あ、じゃあナッちゃん残るなら部屋の大掃除お願いしておいて良いかな?」

 

 …源逸さんよりもカメのこの言葉が決め手になって、私は久々の帰郷を決心したのであった。

 

 ☆

 

 ウマ娘が生まれる時、その母親がウマ娘とは限らない。血縁に関係なく普通の人間の女性からウマ娘が生まれる事もあれば、逆にウマ娘が人間の女の子を出産する事もある。

 

 人間とウマ娘の間に遺伝子的な相違はほとんど無い。ウマ娘が子を成すには人間の男性が必要な事からもそれは明らかだ。

 人間とウマ娘の違いは(ひとえ)に『魂の違い』に他ならない。

 

 ウマ娘に宿る魂は『ウマソウル』と呼ばれ、一説には「別の世界の勇者の魂」とも言われているが、その正体は謎に包まれている。

 女性が妊娠して胎児が形成された時に宿る魂が通常の物なら人間が、ウマソウルであればウマ娘が生まれる、という仕組みらしい。

 

 統計としては人間が女の子を産んでその子がウマ娘である確率は15%前後、同様でウマ娘がウマ娘を産む確率は女子のうち65%前後らしい。そして母体に関係なく男子は100%人間が産まれる。

 現在の国内でのウマ娘総人口は800〜900万人、女性全体から見て15%前後の数字だ。これは上記の15%がそのまま現れていると考えれば自然な数と言えるだろう。ウマ娘の出産は母数の少なさから誤差に含まれていると思われる。

 

 前述の通り血縁や血統に関わり無くウマ娘は生まれてくるので、大体どの家庭にも親戚のうち1人くらいはウマ娘が居る計算だったりする。

 

 一般人家庭にウマ娘が生まれる事に関しては地域性が大きく一概には言えない。

 昔は『人ならざる忌み子』として避けられたり、家畜の様に差別されたりの歴史もあったらしいが、現代では常人の数倍の筋力を持ち、全般的に眉目秀麗な女性であるウマ娘の誕生は『一族に繁栄を(もたら)す吉事』と見なして祝福されるパターンがほとんどだ。

 

 ウマ娘は太古の昔から市民の生活に溶け込んでおり、「ウマ娘である」という理由で殊更神聖視されたり差別される様な事は現代社会ではまず無いと言える。

 

 ウマ娘には『ソウルネーム』と『和名』があり、ほぼ全てのウマ娘は2つの名前を持って生まれる。

 前者は体に宿ったウマソウル自身の名前で、妊娠して安定期に入った辺りで母親の脳内に突如として天啓の如く浮かぶらしい。

 

 生まれたウマ娘本人も物心つく辺りで「自分の名前は○○(ソウルネーム)」と自覚して、多くは以後その名前で通して生活する。

 この名前は何故か必ず『カタカナで9文字以内』という決まりがあるらしく、とても人の名前とは思えない様な奇抜な、或いは西洋かぶれかつ男性的な名前がとても多いが、その理由は一切不明だ。

 

 後者はウマ娘がまだ意思表示出来ない頃に、主に家族間で使われる名前であり、普通に日本人女性としての名前が付けられる。

 確かカメの和名が「栗原(くりはら) 優紀(ゆうき)」だったかな? そんな感じで命名される。

 ウマ娘のソウルネームへの覚醒と同時に徐々に使われなくなっていく名前ではあるが、家族や古い友人は馴染みの深い和名の方でウマ娘を呼び続けるパターンも非常に多い。

 

 なぜいきなりこんな話をしたのかと言うと、私の出生に(まつ)わるアレコレに非常に深く関わってくるからだ。

 

 実は私の和名は「鈴代 奈津菜」、ソウルネームの「スズシロナズナ」と同じ読みだ。

 これには奇跡と呼べる偶然があって、私の生家は「鈴代さん」で、人間である母に伝えられた(?)私のソウルネームはスズシロナズナだった。

 

 両親はこの奇跡の巡り合わせに、これ幸いと鈴代家の長女として『スズシロナズナ』というソウルネームを持つウマ娘に『鈴代 奈津菜』という和名を与えたのだった。

 

 だから私はどちらの名前も「すずしろ なず(づ)な」で、他の子みたいに2つの名前を使い分ける生活をした事が無い。

 ウマ娘同士で和名に関する話題が挙がる事はあまり無いが、私の家庭事情の話はかなりのウマ娘が興味深く聞いてくれる。

 

 だから家族や古馴染みばかりの集まるこんな場所では、私は鈴代奈津菜に戻れるし、スズシロナズナでも居られる、という訳だ。

 

 ☆

 

「ナズナ〜、きさんが主役ばってん、そげん不景気な顔しとったらいかんめぇが!」

 

 既に顔を赤くした髭ヅラの(オッサン)が絡んできた。私の顔に文句があるなら半分は貴方のせいですよお父さん? もぉ、今乾杯したばかりなのにもう酔っ払ってるの?

 

「オヤジ! ナズナは長旅で疲れとぉけんしょんなかろうよ? …すまんな、ナズナ」

 

 ありがとうお兄ちゃん。この場で数少ない『酔ってない大人』としてとても頼りになります。

 

お父さん(酔っぱらい)は気にせんでいいよナズナ。外でミヨちゃんやらヨッちゃんやらお友達も来とったけん、ここはもう良かから顔ば見せちゃり」

 

 おお、懐かしの旧友の名前だ。禄に手紙も送ってないから不義理を責められるだろうなぁ… なんて事を考えながら公民館の外で待つ旧友の元へ急ぐ。

 

 …なんだかんだで帰省を満喫してリフレッシュ出来たお正月だった。

 

 そしてここからまた私のクラッシック級への闘いの幕開けでもあるのだ……。

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