【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
新年明けて東京に戻ってきた。とりあえず挨拶だけでもしておこうかとカメと一緒に事務所に顔を出すと、中はアイリスだけで彼女は1人で書類の整理をしている様だった。
私の来訪に気づいたアイリスは「ちょうど良かったわ」と、可愛らしいシールがいくつか貼られたピンク色の小さな封筒を手渡してきた。
「年賀状の束に紛れてナズナ宛の手紙が混ざってたのよ。多分ファンレターじゃないかしら?」
ファンレター? 私に? いやいやそれは無いでしょう… と疑心暗鬼で受け取った封筒の宛名には『とうきょうトレセン学えん スズシロナズナさま』とだけ書かれていた。これだけで届くんだ? 日本郵政スゲェな……。
裏には東京23区内千葉県寄りの某住所、それと『ナズナグレート』という差出人の名前が記してあった。
名前からしてウマ娘からの手紙なのだろう。それにしても私の他にも
文字の拙さと漢字率から、多分小学校低学年くらいの子が送ってくれたのだろう。わー、嬉しいなぁ。
早速封筒を開け、中の手紙を確認する。デフォルメされた歴代の名ウマ娘達が随所に描かれた可愛い便箋3枚に、ぎっしりと書かれた子供っぽい文字が目に入ってきた。
『はじめまして。わたしは小学2年生のウマむすめのナズナグレートといいます。今かいスズシロナズナさんのレースを見て、ファンになったので手がみをおくることにしました』
うわ、本当にファンレターっぽい。何か凄くドキドキしてきた。これ後でドッキリでしたとか言わないよね? もし言われたら私かなりマジで凹み泣きするからね?
『たまたまテレビでホープフルステークスを見ていたら、わたしと同じ名まえのウマむすめを見つけたので、ひそかにおうえんしていました。お父さんは「でもこの子は11ばん人気だからかてないよ」と言ったのでかなしくなりました』
うんうん、それは悪いお父さんだね。でも私も多分同じ事を言うと思うかな。
『でもスズシロナズナさんは2ちゃくになりました。そのがんばるすがたに家ぞくみんながかんどうして、これからは家ぞくみんなでスズシロナズナさんをおうえんしようときまりました』
うはぁ、マジですか。これは嬉しいなぁ。
『じつはわたしは小さなころから足がわるくてウマむすめのくせに走ることができません。むかしからずっと車イス生かつで、楽しそうに走るほかのウマむすめたちを見ながらずっとくらい気もちでいました』
あらら… そうだよね、そういう子も居るんだよね… ウマ娘なのに走れないのは辛いだろうなぁ……。
『でもスズシロナズナさんのがんばりを見て、わたしもがんばりたくなりました。トレセン学えんに行くことはできないけど、しらべてみたらウマむすめのやる車イスのレースやバスケットボールとかのだん体がいくつかあるそうです』
…………。
『ウマチューブやウマトックでいくつかどう画を見てみたのですが、みんな車イスなのに楽しそうにプレイしていて、わたしもやってみたい、がんばりたいとおもいました。これもスズシロナズナさんがわたしにゆう気をくれたおかげです』
勇気だなんて、私は、そんな… そんなつもりじゃ……。
『わたしはスズシロナズナさんといっしょに走ることはできないけど、ナズナどうし同じ気もちで生きて行けそうな気がしました。これからもレースがんばって下さい、ずっとおうえんしています』
そして最後の行には『大好きなスズシロナズナさんへ。ナズナグレートより』と締められていた。
…駄目だ、皆の前なのに涙が抑えられない。私の走りで… 私の走りなんかで希望を抱いてくれる人が居るなんて欠片も思いもしなかった。
今までの私はまるで通帳に記される預金残高が増えるのを楽しむような気持ちでファン数の推移を見ていた。
確かに私には応援してくれるファンがいる。それはURAが集計してくれているサイトにも表れているが、その数字はゲームの経験値の様な数値だけの物ではない。その数字の1つ1つが1人の人間の意思であり、期待であり希望でもあるのだ。
現在の私のファン数は6000人強。これは単なる数字ではなく、私の肩には6000人分の期待が背負わされている事でもある。それはナズナグレートちゃんが6000人居るのと変わらない。
途轍もない重さではあるが、その期待こそが同時に私の動力源でもあるのだ。
応援を力にして勝つ、そして新たなファンを獲得し更に大きな応援を背負って走る。競走ウマ娘としての人生の醍醐味はここにこそあるのだと思っている。
今はもう、何ていうか『走りたい!』ひたすら走って少しでも多くのスピード、スタミナ、パワー、根性を自分のものにしたい。
「どうしたのナズナ? 何か嫌な事でも書いてあった?」
急に泣き出した私を気遣ってアイリスが声を掛けてきた。
「違うよ、逆だよ逆! めっちゃ感動した! なんかもう今すぐ走りたい! 強くなって応援に応えたい! ね、カメ、並走付き合って!」
「あ、うん、
そんな感じでアイリスに相談もせずに、カメを引っ張ったままグラウンドに飛び出した。