【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
「いぇ〜い! ナズナグレートちゃん見てるぅ〜? 今から君の大好きなスズシロナズナさんをボッコボコに負かしま〜す!」
カメラ(スマホ)の前で悪ノリするコロとカメ。何と言うか、そういう「ヘイヘイオタクくん見てる〜?」みたいな頭の悪いノリは止めて欲しいんだけどな……。
「あの、先輩達は一体何をされているんですか…?」
新人のエバシブが手隙に見える私に聞きに来る。おっとりとした雰囲気の娘で、その笑顔は今の状況を分かっているのかいないのかよく分からない。
特徴的な彼女の紅い瞳は冗談抜きで光り輝く宝石のルビーの様で、吸い込まれそうになるほど美しい。
その日焼けひとつ無い真っ白な皮膚や髪と相まって、氷像の様な美しさと儚さを感じさせる。
それに初対面のはずなのに彼女の近さは何なのだろう? まるでお互いに旧知の仲であるかのような全く警戒感を匂わせない感覚、本当に謎だ。後で時間が取れたらちょっと聞いてみようかな…?
とにかく新人さんが来てるんだからバカな真似はしないで欲しいんだよね。
「あ、えっと、私がファンレターを頂いたので、そのお返事にビデオレターを送ろうか、という話になって…」
「あー、なるほど。それで面白おかしく演出しようとあんなバカっぽい真似をしているんですね」
う、うん。まぁその通りなんだけど、あれ? この子結構毒舌系? 容赦ないな……。
「貴女がスズシロナズナさんですよね? 改めてよろしくお願いします。お噂はかねがね…」
う〜む、この娘やっぱり私の事を知ってるのかな? 噂ってどんなのか気になるなぁ… まぁ露出だけはそれなりにあったから、名前ぐらいは知られていても不思議ではないけど……。
「ほらナズナ! お前もグレートちゃんに何か言え!」
コロが私の腕を引っ張って、カメラマンであるきりさんの前に連れてくる。
『何か言え』と言われてすぐに気の利いたトークが出来るほど、私は機転も利かないし場馴れもしていない。
「あ、う…」と数秒言葉を詰まらせてた後でようやく頭が回り始めてくる。
「えっと、ナズナグレートちゃんへ。お手紙どうもありがとう! ファンレターなんて初めてで、もぉ嬉しくて泣いちゃうほど感激しました!」
そこで私は言葉を切ってカメとコロに視線を送り、きりさんの撮影するスマホに向き直る。
「お礼になるかどうか分からないけど、今日は私の所属するチーム〈ポラリス〉の同期メンバーで練習している風景を撮って送りたいと思います。えっと… 面白くなかったらゴメンネ…」
照れ笑いで締めて一旦撮影を止める。なんかGⅠレース並に無駄に緊張したよ。返事のビデオレターを作るって心の準備が出来てないうちに撮影開始するんだもんなぁ……。
あとアモ先輩、きりさんの後ろでさり気なく『もっとボケて!』とかいうカンペ出すの止めてください。
☆
「あのぉ〜、これって『模擬レース』なんですか? 『並走』って聞いてたんですけど…?」
『模擬レース』と『並走』は似て非なる物だ。模擬レースに説明の必要は無いだろうから、並走について軽く説明する。
『並走』とは文字通り2人 (かそれ以上)で並んでコースを走る事だ。
並んで走る事で、レース中の様な他者との駆け引きの練習や、1人では見つけられない様々な問題点を洗い出す事が出来る。
並走は『並んで走る』事に意味があるのであって、決してその勝敗に意味は無い。意味は無いのであるが、そこはやはりウマ娘たる者、大なり小なり他人の後背を拝むに
私も並走のつもりだったけど、カメとコロはレースのスイッチが入っているぽいなコレ……。
まぁビデオレターにするならただの練習風景よりも、模擬とは言えレース風景を収めた方が面白いのは明らかだ。
ただカメもコロも本気の様で、2人からは『私のファン宛の返信だから私に花を持たせる』なんて気遣いは微塵も感じられない。あわよくば私を負かして恥をかかせてやろうという下心すら透けて見える。
…こんなん、負けられる訳ないじゃん!
「うん、何か模擬レースになっちゃったね…
「やったラッキー、こんなに早くスズシロナズナさんと走れるなんて、帰って自慢できるぅ」
あ、ヤル気なのね? いやまぁ良いケド……。
☆
「じゃあ距離は1800m、きりがゴール板係をやってるからそこまでね。全員本調子じゃないんだから、くれぐれも無理しちゃダメだからね?」
そう言ってアイリスが右手を上げ、「じゃあスタート!」の声と同時に振り下ろされた。
一斉に走り出す4人のウマ娘。私達の作戦は、いつも通りに私が『先行』、カメは『追込』、コロは『差し』だ。
すなわちこのメンツだと、私が先頭に立って集団を引っ張る役目になる。
他のメンツに後半にスパートを掛けられる事を考えたら、早いレース展開にしてペースアップに巻き込んで疲れさせるか、同様に序盤から距離を離して最後まで逃げ切るのが定石だ。
ならば有無を言わせずに終始ブッチぎってしまうのが美しい勝ち方であるし、ナズナグレートちゃんへのファンサービスとしても上質であろう。
そう判断した私はこのまま『大逃げ』させてもらうべく速度をジリジリと上げていった。