【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
『まさかチーム〈ポラリス〉に拾われて、初日からあのスズシロナズナさんとレース出来るなんて夢みたい。お姉ちゃん悔しがるだろうなぁ…』
並走するだけでも嬉しいのに、模擬戦とは言えナズナさんとレースを一緒にできるとは、やっぱり私って幸運の星の元に生まれているのだろう。
☆
私は生まれつき色素量のとても少ない「
紫外線に極めて弱く、今時の様な冬場ですら晴れた日には日焼け止めが欠かせない。
同様に少ない色素は瞳に入る光の量を上手く調節できない。普段はサングラス着用でないと外の光景すら眩しくて見ていられない。
スズシロナズナさんを始めとするチームの皆さんは、私の肌や髪、瞳を見て『本当に大丈夫なのこの娘?』と思った事だろう。
でも心配は要らない。だって私は『天才』なのだから。
私が本気で走ったらお姉ちゃんでも勝てない。去年の3冠ウマ娘であるツキバミさんにすら負けない自信がある。
今、私の前にはナズナさんとコロさんとか言うちんちくりんのウマ娘が走っている。
私のすぐ後方にカメなんとか先輩って言うウマ娘が居る。
現在向う正面に入った辺りでナズナさんと私がおよそ6馬身差だ。ナズナさんはこのまま逃げを打つ思惑のようで、まだ中盤に差し掛かったところなのに更に速度を上げていく。
それに遅れじと2番手のコロ先輩が引き摺られる様に速度を上げる。
私とカメ先輩はお互いを牽制しつつも、スズシロナズナさんから一定以上離されない様に、様子を見ながら速度を調節している状態だ。
第3コーナー手前でスズシロナズナさんの速度が落ちてきた。前半で飛ばしていたのは作戦でもあったのだろうが、傍から見ていても掛かり気味だったから必要以上にスタミナを浪費してしまったのだろう。
ここが仕掛け所だ。2番手のコロ先輩もナズナさんに釣られて早く仕掛け過ぎて息が上がっている。
速度を上げるべく体勢を落とした瞬間に、私の横を疾風が駆け抜ける。
カメ先輩の凄まじい末脚が私の眼前で展開される。こんな追い脚の持ち主見たこと無い。きっとお姉ちゃんより追い込み速いよこの人……。
もちろん私もスパートを掛ける。カメ先輩、確かに貴女は速いです。でも日本じゃあ2番目だよ。
なぜなら日本一の末脚の持ち主は『
私とカメ先輩が並ぶ。ちらりとこちらを一瞥したカメ先輩が驚きと歓喜の満ちた顔になり、更なる加速を見せる。
私もここからは『本気』だ。日本一の末脚が単なる自信過剰じゃないってのを証明してやる!
私とカメ先輩が競り合ったまま、体力が切れたコロ先輩を抜く。目の前には同じく体力が切れたナズナさんが必死で走っている。
その走る姿がまるで肉食獣に追われる可憐な草食獣の様で、とても愛らしくまた嗜虐心をそそられる。
あぁ、スズシロナズナさん、このまま捕まえて食べてしまいたい……。
ナズナさんの背中を捉える。このまま一気に抜き去ってゴールしたら、ナズナさんは私にどんな顔を見せてくれるだろう? 悲哀? 絶望? それとも私という新たな
カメ先輩とのバトルは私が一歩勝り、半馬身の差が付いた。ここからはナズナさんとの一騎討ちだ。
直線でスピードの乗った今の私は過去最高速度を出している。残りは約80m、この相対速度ならゴール手前15〜20mでナズナさんを抜いて私が1着になれる、計算だった……。
でも抜けない。あとちょっとが抜けなかった。体力を使い果たしているはずのナズナさんは「根性〜っ!!」と叫んで更なる加速をして見せたのだ。
ナズナさんがゴール係の前を走り抜ける。私は半馬身差で2着、更にクビ差でカメ先輩。もっと離していたはずなのにこちらも最後で差を詰めてきた。そして4馬身離れてコロ先輩がゴールする。
私は本気を出して負けたことは無い。なので今の模擬レースも本気では無かった、という事にさせてもらう。入ったばかりの新人にブッ千切られたら先輩達も立つ瀬が無いだろうしね。
ゴール直後の先輩達は三者三様だ。
ナズナさんは膝に両手をついて、長い時間呼吸を禁止されていたかの様に肩で大きく息をしている。
カメ先輩はトレーナーさんから手渡されたタオルで汗を拭いている。穏やかそうな表情がタオルで顔を拭く瞬間に、私に対して刺すような視線に変わったのを私は見逃さなかった。
コロ先輩は地面に大の字に寝そべり「ちくしょーっ!!」と悔しがっていた。
☆
「凄いね貴女。まさかカメやコロに勝つなんて」
息を立て直したナズナさんが私の走りを褒めてくれた。うーん、これまた自慢ポイントゲットだね。
「はい! 憧れのスズシロナズナさんと走れて調子が上がったみたいです!」
私の返答にやや照れ気味で頬を掻くナズナさん。可愛い。
「いやそんな、私って憧れられる程の事してないよ? 憧れるならブラックリリィとかの方が華があるって言うか…」
ブラックリリィに憧れる? そんなのありえないよ。だって……。
「ブラックリリィなんて弱いじゃないですか。だって私が本気出したレースであの人、私に勝った事ありませんから」
この場にいる一同が目を見張り、私に注目する。
「え? 貴女リリィの知り合いだったの…?」
代表としてナズナさんが私に質問する。ここで私は今日1番のドヤ顔を披露して見せた。
「知り合いどころかブラックリリィは私のお姉ちゃんですよ。寮でも同室でいつもスズシロナズナさんの事を話していたので、私もナズナさんの事が気になってたんですよ」