【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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43R 各々の展望

 疑問が解けた。新人のエバシブはブラックリリィの妹だったんだ。だから雰囲気というかノリが近くて何となく既視感を感じていたんだね。

 

 リリィは私と友達 (?)になれて、その事を妹であるエバシブに話しまくったのだろう。

 その結果、私に興味を持ったエバシブが本日たまたま選抜レースで源逸トレーナーの目に止まり、晴れてチーム〈ポラリス〉の仲間になった、という訳だ。何という運命の巡り合せ……。

 

「私は断然ブラックリリィよりもスズシロナズナ派なので、ブラックリリィ情報ならいつでもリークしますから!」

 

 エバシブはエバシブでとんでもないことをシレっと言ってのけている。まさか源逸さん、エバシブをスパイとして使うつもりでスカウトしてきたとか無いよねぇ…?

 

「んじゃ今年の方針を含めてちょっと全員で会議するから、みんな一旦事務所に入れ」

 

 私の不安気な視線を受けて、源逸さんは意味深な笑顔をちらりと見せて全員を事務所へと追い立てた。

 

 ☆

 

「まずエバシブの担当トレーナーはこの俺、矛田源逸がやる。だが実質的にトレーニングメニューを組み立てるのはアモ、お前がやってみろ」

 

 源逸さんのこの言葉にエバシブを除く全員が度肝を抜かれた。

 

「ちょ、ちょっと源逸(おやっ)さん。いくら何でもまだ勉強始めたばかりで免許も無いあたしにそんなの無理だよ! ましてやリリィの妹なんてダイヤの原石、あたしのせいで故障でもさせたらもうお陽様の下を歩けなくなっちゃうよ…」

 

 一番狼狽(うろた)えていたのは他でもないアモ先輩だった。

 まぁ確かにアモ先輩は本格的にトレーナー目指して勉強を始めた所であるが、そのイロハも修めぬうちからいきなり有望新人の世話を任されても困惑しかないだろう。

 

 一方のエバシブ本人はまるで興味無さそうに前髪の枝毛探しをしている。いやいや貴女自身の事なんだよ? もっとしっかり当事者意識を持とうよ…?

 

「アモの出してきたメニューを吟味、監修して俺が責任を持つってシステムにするんだよ。無理な事や理不尽な事を言い出したら、ちゃんと止めてやるから心配すんな」

 

「えぇ、それに誰がトレーナーでも関係ないですよ。私『天才』なので」

 

 源逸さんとエバシブの両名が、謎のドヤ顔で2人並んでポーズを取る。何だこの状況……。

 

「おっちゃんの担当って事は、あたしの妹弟子になるんだな? よぉし新人! 今日からあたしの事は『コロボックル姉さん』と呼ぶんだぞ!」

 

 後輩が出来て嬉しそうなコロが第3のドヤ顔で戦列に参加する。

 

「はぁ〜い、よろしくお願いしまぁす、『コロボックル姉さん』。イジメないで下さいねぇ」

 

 口ではしおらしい感じの事を言っているエバシブだが、その目は明らかに『自分の方が格上だ』と物語っている。

 

 駄目だ、状況に当てられたのか頭痛がしてきた。比喩ではなく本当に頭が痛い。ふらつく頭を手で押さえる。

 

「ナズナ、大丈夫? 具合でも悪いの?」

 

 アイリスがこちらに気を遣ってきた。

 

「ちょっと先々の事を考えたら頭が、ね…」

 

 アイリスに続いてカメも心配そうに私の横にやって来る。そんな顔しなくても大した頭痛じゃないから大丈夫だってば。

 

 ☆

 

「ではとりあえずメンバーの今後のレーススケジュール発表するぞ。まだ本決まりじゃないから何か不都合があったら担当トレーナーと話し合ってくれ。まずはメル!」

 

「は、はいっ!」

 

 源逸さんが再び会議を仕切る。トップバッターは今年からシニア級を走るメルヘンランド先輩だ。

 去年オープンレースでそこそこの成績を残しているメル先輩は、今年こそ重賞制覇を目標に以前よりも強いウマ娘の集うレースに挑むらしい。

 

「お前は月末の白富士ステークスからスタートだ。ここで勢いを付けて重賞に殴り込むぞ!」

 

「は、はいっ! 頑張ります!!」

 

 メル先輩は源逸さんと担当の目黒トレーナーを交互に見ながら気合いの入った返事をする。メル先輩も3年目の最後の年だ。きっと大きな目標を抱いているのだろう。

 

「次に… アモはどうすんだ? レーススケジュールも自分で決めるのか?」

 

 アモ先輩は4年目の走りになる。出走可能レースは昨年のシニア級と同じだが、昨年よりファン数が増えた分だけグレードの高いレースに出られる様になった、んだけど……。

 

「あぁ、うん。あたしは先々週が有馬記念だったから、少し様子見て2月の終わりか3月頭にレース入れるよ。またその時に相談する」

 

 アモ先輩は今年はトレーナー勉強を重視して重賞には出ないと宣言していたから、何か適当なオープンレースに出るつもりなのだろう。

 

「そうか、分かった。次はコロ!」

 

「おう! あたしは来週でも走れるぞ!」

 

 コロの元気なレスポンス。この娘がいるとチームに活力が出てくる。時々ウザいけど。

 

「焦る気持ちは分かるが来週走ったら残りの一生走れなくなるぞー? 今のところ2月頭のゆりかもめ賞を考えている。体調次第ではそこからGⅠ戦線に突っ込むからな!」

 

「おーっ!! 待ってろよナズナ! すぐに追いついてやるからな!」

 

 コロがこちらに向けてメラメラと闘志の炎を燃やしている。コロも侮れない強力なライバルの1人には違いない。

 

「次はカメ! 当面の目標はティアラ3冠の一角である桜花賞な。そのため次走は3月頭の桜花賞トライアルのチューリップ賞か、その翌週のフィリーズレビューだ。どっちも阪神だから年末の雪辱を果たせよ!」

 

「はいっ!」

 

 カメは阪神ジュベナイルフィリーズでレース中に事故に巻き込まれ、不本意な成績に終わっている。

 私の初勝利もそうだけど、走って負けたレース場では何となく負け癖というか苦手意識を抱いてしまいがちになる。それを払拭するためにも勝って見せないとね。

 

「最後にナズナ! お前もクラッシック3冠の皐月賞を目標に、まずはそのトライアルレースの弥生賞だ。せっかく出来た可愛いファンを悲しませるなよ!」

 

「オスっ!!」

 

 私の次走は予想通りの弥生賞だった。

 皐月賞トライアルの弥生賞、ここで3着以内に入れれば皐月賞への優先出走権が与えられる。

 弥生賞だってGⅡであり、決して容易な戦いではない。それでもナズナグレートちゃんを始めとする私のファンの人達のためにも次こそ勝利を掴まないとね!


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