【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
ミーティング終了後、私達の
ちなみにトレセン学園には栗東寮の他に
トレセン学園は基本全寮制なので、入学時にどちらかの寮に振り分けられるのだが、ざっくり出身が東日本か西日本かで分けられる傾向がある。
私は福岡県出身だし、カメは金沢だから… どこだ? あ、石川県か。
ちなみにアモ先輩は茨城県出身、メル先輩とコロは北海道出身だそうだ。なのでこの3人は私達とは別の美浦寮の寮生だ。
一応、昔から寮同士は意味もなくライバル関係にあるらしく、定期的に寮対抗の模擬レースやらクイズ大会やら大食い大会やらが開催されている。
まぁ私は東西対抗戦には興味ないのでこれらに参加したこと無いんだけどね。
☆
カメは自分の机でノートPCと向き合いながら何やら作業をしているらしかった。
「何してんの?」
私の声が聞こえているのかいないのか、えらく集中して指を動かしている。
カメの作業を覗き見る。何やら動画の編集作業をしているようだけど……。
「ほら、例のナズナグレートちゃんへのビデオレターだよ。今日の模擬レースの動画とかを見やすく編集しているの…」
うわぁ、仕事が早いなぁ。ナズナグレートちゃんからファンレターを貰った私本人よりも張り切って動画の編集をして下さっているとは、全くもって頭が下がります。
「どうせナッちゃん、この手の作業は面倒くさがってやりたがらないか、やっても凄く雑な仕事しかしないでしょ? それじゃナズナグレートちゃんが可哀想だもの。代わりに私がちゃんと編集してあげるから」
はい、確かにその通りです。多分私に任されたらダラダラとメリハリの無い未編集動画のメモリーカードをそのまま先方に送りつけていたと思います……。
「…んー、大体こんな感じかな…? ちょっと通して見てみようか…」
大方の編集を終えたカメが動画をプレビューモードにして、私の方へ少し画面を傾ける。
『いぇ〜い! ナズナグレートちゃん見てるぅ〜? 今から君の大好きなスズシロナズナさんをボッコボコに負かしま〜す!』
コロとカメの悪ふざけから動画は始まった。それから私の挨拶、模擬レースへと場面は動いていく。
レースはゴール地点のきりさん視点で進んでいく。学園内のコースは一周凡そ2000mなので、1800mを走った私達はきりさんを200m後ろにおいてスタートした事になる。
スタートから向こう正面辺りまでは画面も遠く、私達の顔も細かくは映っていないので、動画は微妙にカットしたり早回ししたりして退屈なシーンは短く感じるように工夫が加えられていた。
さて、第3〜4コーナーにかけてカメラ(きりさん)に向けて私達が走り寄せてくる迫力のある絵になってくる。
逃げる私と追う3人。あはは、必死で走ってる私の顔ブスだなぁ。ここもうちょっと美人に修正出来ないかなぁ…?
やがて私を先頭に4人がゴールして動画は終わった。
『私が勝った』という事も含めてなかなか面白い動画に仕上がったと思う。
ただ、冷静にレース内容を
まず不可抗力とはいえ先頭に立った事で、私の悪い癖である『掛かり』が出てしまった。
意識して速いペースに持ち込んだ部分もあるが、私自身がその作戦に引っ掛かって想定以上に速度を上げすぎて無駄に体力を消耗してしまったのだ。
半年前より体力は付いているので、デビュー戦の時の様な無様は晒さなかったものの、もしあと200m長いレースだったらきっと大きく失速して、誰かしらに抜かれていたのは想像に難くない。
今だから言うが、実は私には第2の策が用意されていた。
仮に掛かってしまって体力を浪費しても、そこから《
しかし結果は大失敗。体力を減らしても《
《
それこそブラックリリィ辺りは知っているかも知れない。あの娘のラストスパートでの幸せそうな走りは《
リリィか… そう言えば……。
「あの新人の娘、速かったね… 私達〈ポラリス〉で1年トレーニングしてきたのに、今日スカウトされたばかりの子に負けたんだよね…」
私の心を読んだかのようにカメがエバシブ… リリィの妹の話題を出してきた。心なしかカメの言葉が少し尖っている様にも感じる。
「あ、えっと… グレートちゃんに送る動画だからカメとコロは私に花を持たせてくれたんじゃないの…? 新人の子は空気が読めなかった、とか何とか…」
カメ達が本気ビシバシの気迫で臨んでいたのは、現場に居た私にも十分に分かっている。それでも半ば牽制目的で思っても無い事を言ってみる。
「ナッちゃん、ホントは分かってるでしょ? 私もコロちゃんも本気だったって。素敵なファンレターを貰ったナッちゃんが羨ましくて妬ましくて、本当に負かして凹ませてやろうと思ってた。ゴメンね、嫌な子だよね、私…」
「カメ…」
普段優しいカメがこんなにネガティブな事を言うなんて初めて見た。おっとりしている様に見えてもやはりカメもウマ娘、胸の内に度し難い激情を抱えて生きているんだよね。
「だから今こうして動画編集してたのも、ナッちゃんに意地悪しようとしてた自分を恥じて、少しでも罪滅ぼしがしたかったからかも知れない… ナッちゃん、ホントゴメンね。私のこと嫌いになった…?」
カメが俯き声が小さくなる。
「何言ってんのよカメ。気持ち分かるから。立場が逆で私だったらもっと露骨に嫌がらせしてるよ! 動画編集してあげるどころか、早めに電気消して作業の邪魔するね!」
私の言葉に一瞬キョトンとしたカメが、その後プッと吹き出してすぐに大笑いを始めた。
「うん、分かる。ナッちゃんってそんな感じ!」
オイコラ、こちらは洒落で言ってるんだからマジ返しすんのやめろ。今日イチ傷ついたからな。
「…でもあのエバシブちゃんは要注意だね。私もラストスパートには結構自信あったんだけど、置いていかれちゃったよ… ナッちゃんに懐いているみたいだし、色んな意味で強力なライバルが出現しちゃった感じ」
『名は体を表す』なのかどうかまだ分からないが、
でもカメとコロを抑えて差してくるとは、新人とは思えない実力があるのは確かだ。いずれは私の強力なライバルにもなってくるかも知れない。
とても怖い… 怖いけどそれ以上に未来の熱い勝負にワクワクしている自分を感じる。本当にウマ娘って救いが無くてどうしようもない生き物だな、って思ったよ……。