【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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45R アモ先輩の選択

 ビデオレター(の入ったメモリーカード)をナズナグレートちゃんに送ってから半月ほどして、グレートちゃんから再度の手紙が届いた。

 そこにはグレートちゃん本人&ご両親からのそれぞれ1通ずつの手紙と、左右にご両親と手を繋いで満面の笑みで車イスに乗った栗毛の可愛らしいウマ娘、ナズナグレートちゃんの写真が入っていた。

 

 グレートちゃんからの手紙には私からの返事を貰えた事が信じられない位に嬉しかった事、会話のやり取りや模擬レースの様子から、楽しそうなチーム〈ポラリス〉全体のファンになった事、動画の迫力に感動して、しばらく「わー、わー、わー!」と語彙が消滅してしまった事などが書かれていた。

 

 ご両親からの手紙は夫婦連名で私への感謝の言葉に溢れていた。前回のグレートちゃんの手紙にあったように、体が弱くて塞ぎ込みがちな娘だったグレートちゃんが、見違えたように明るくなって私の話しかしなくなったそうだ。

 手紙の最後には家族で末永く私を応援するつもりでいる事と、グレートちゃんの体調次第だが近々私の出走するレースを家族で観覧しに行きたい旨が綴られていた。

 

 次走の弥生賞は千葉県の中山レース場で行われる。グレートちゃんの住居から最も近いレース場なんだけど、もし見に来てくれたら嬉しいな、と思う。

 

 そんな感じで、私は来る弥生賞に向けて日々のトレーニングに明け暮れていた。

 

 ☆

 

 時は流れ3月になった。まだ肌寒さはなかなか消えず、毎朝布団から出るのに多大な決意を必要とする季節が続いている。

 

 今日までのチームメンバーの勝敗だが、メル先輩が見事に白富士ステークスの1着を飾り、コロはプレオープンのゆりかもめ賞で2着になった。これでコロもファン数が3000人を超え、晴れてオープンクラスへと昇格できた。めでたい。

 

 コロの次走予定は再来週に行われる若葉ステークスらしい。この若葉ステークスも私の走る弥生賞と同様に皐月賞のトライアルレースの1つだ。

 お互いの戦績次第では皐月賞… 春のGⅠの舞台で私とコロの直接対決が行われる可能性もある、という事だ。

 

 ちなみに今回のゆりかもめ賞でコロを(おさ)えて優勝したのが、かつて私と何度か対戦した事のあるイーグルダイブだった。彼女もいつの間にか未勝利戦をクリアして、次回からオープンクラスだそうだ。あまり懐かしさとかは感じなかったけど、またどこかで出会うかも知れないねぇ……。

 

 ☆

 

「じゃあナズナ、お先に」

 

 弥生賞当日、レース用の体操服を着て私の控室でアイリスと談笑していたアモ先輩が部屋から退出していった。

 

 私の走る弥生賞は本日の第11レース。それに先立つ第10レースの総武ステークスにアモ先輩が出走するからだ… って、総武ステークスって(ダート)の1800mですよ? 距離はともかくアモ先輩はダート走れましたっけ?

 

「今年のアモはダートとか短距離とか、今まで走ってこなかった場や距離を自分の脚でチャレンジして勉強し直すんですって。私にはその行動力は真似できないわね…」

 

 苦笑しながらも眩しそうにアモ先輩を見送るアイリスの言葉に、理解できるようなできないような複雑な気持ちになる。

 なるほど… 後々トレーナーとして活動する事を考えるなら、色々な条件を体験しておく方が実践的な答えを得られるかも知れない、という事なのだろう。

 

 アモ先輩のすぐ次のレースが私の試合だ。なのでフラフラ客席に潜り込む訳にもいかず、私達は控室のテレビでアモ先輩のレースの実況を見ていた。

 

 芝の適性距離で走るならば、アモ先輩は間違い無く今でもチーム内最速のエースだろう。

 そのアモ先輩のレースは結果だけ言うならギリギリ入着の5着だった。レース運びとしてはいつものアモ先輩らしい危なげ無いものだったのだが、やはり慣れないダートに足を取られて、スピードが乗り切らない残念な形で終幕となった。

 

 今年のアモ先輩はレース結果は気にしないと初めから明言していたので、この結果もアモ先輩の想定内なのだろうが、見ているこちらは何とももどかしい気持ちでいっぱいだった。

 

 それこそ有記念を走ったアモ先輩なら、次は春の天皇賞を目指してその前哨戦たるGⅡの日経賞や阪神大賞典、あるいはGⅠの大阪杯に出るのが筋だし、何と言うかとても『勿体無い』と思う。アモ先輩のファンの人達も納得しているのだろうか…?

 

「アモは昔から変わった子だから、ナズナが首を捻るのもわかるわ。でもアモはアモの考えがあるから、ナズナにもあの子の選択を分かって上げて欲しいの… ま、今はとにかくナズナのレースよ。あまりアモに引っ張られないでね?」

 

 さすがに今からアモ先輩のステージは見に行けそうに無い。アイリスの言葉に押される様に控室を出てパドックに向かう。

 

 アモ先輩の選択が、私の考える『ウマ娘としての在り方』と若干のズレがあって、それが私の頭の片隅に引っ掛かっているのをアイリスに見透かされた感じだ。

 

 とにかく今は集中だ。レースに集中しないと勝てる戦いも勝てなくなる。

 今回の弥生賞にも多くの強敵が参加していた。顔馴染みのスメラギレインボーやクリスタルセイバー、意地悪っ子のフックトッシンら錚々(そうそう)たるメンツの顔が見える。

 

 今回はブラックリリィは参加していないようだ。リリィは前回のホープフルステークスでファン数を16000まで伸ばしており、弥生賞の様なトライアルレースを経なくても皐月賞への出走は余裕で可能なのだろう。羨ましい限りである。

 

 パドックで小舞台から観客席に手を振る。私は4番人気という事らしく、それに応じた感じの拍手が起こる。私を拍手で迎えてくれたお客さんの中にナズナグレートちゃん一家が居るのかな? それともテレビで見てくれているのかな…?

 

 どちらにしてもGⅡの大舞台でファンに恥ずかしいレースは見せられない。私は自分の頬を叩いて今一度気合を入れ直した。

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