【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
『報知杯弥生賞ディープインパクト記念』
これが今日走る弥生賞の正式名称だ。GⅡの重賞レースとしての格式はもちろん、前述したように春のクラッシックGⅠの先駆けたる皐月賞のトライアルレースとして広く認識されており、弥生賞で3着以内に入賞すれば、それまでの獲得ファン数に関係なく皐月賞への出走優先権を与えられる。
レースの出走権の優先順位はその時のファン数で判断される事が常であるが、トライアルレースを通過する事でそれらの足枷から開放されるという仕組みだ。
皐月賞、日本ダービー、菊花賞のクラッシック3冠や、桜花賞、オークス、秋華賞のティアラ3冠は『一生に一度、クラッシック級の年にしか出走出来ない』レースだ。前年のジュニア級や翌年のシニア級では挑戦する事すら許されない。
一生に一度しか出来ない戦いを勝利で飾り、『最強最速』の称号を受けるのが私達競走ウマ娘の夢であり野望でもあるわけだ。
その夢への足掛かりの第一歩となるのがこの弥生賞で、今日の
もちろん目指すのは「3着以内」なんてしみったれた目標では無く「堂々1着」なのは言うまでもない。
☆
天気は晴朗、馬場も良好、風はまだ少し冷たいけど、ウマ娘的には心地良く良い走りが出来そうなコンディションである。天気予報によれば今日は雨の心配は無いらしい。
チームの皆は観客席で応援してくれているはずだけど、今日は雨女がどうとか嫌味を言われる事も無いだろう。
「今日はよろしくねスズシロナズナ」
ゲート車が設置され、本バ場入場となった時にスメラギレインボーが話しかけてきた。彼女は去年のホープフルステークスで戦って以来、教室でもちょこちょこ私に絡むようになってきていた。
絡むと言っても因縁を付けてくる訳では無い。むしろ逆で「プリントは早く提出しろ」とか「甘い物ばかり食べているが体調管理は出来ているのか」とか、ライバルとしてより学級委員長、或いはお母さんの立場から色々言っているようなのだが、それが今年に入ってから頻度が明らかに増えた。
「対戦相手には常にベストコンディションでいてもらわないと困るわ。だって負かした時にアレコレ言い訳されるのって煩わしいもの…」
これが一度辛抱たまらず「なんでそんなに私に構うのか?」と質問した時に返ってきた答えだ。
言われて少し腹立たしくもあるが、その気持ちは分からなくも無い。ライバルに勝ちたい気持ちも強いが、それと同時に血湧き肉躍る熱いレースがしたい気持ちもある。『相手の全力を更に上回る全力で打ち伏せる』この衝動を抑えられる競走ウマ娘は居ないだろうから。
「スメラギ… 今まで私の体調管理とかに気を砕いていた事を後悔させてやるからね」
「あら、ベストの貴女をブッ千切って負かす為に今日までお世話してきたんだもの、負けて地団駄踏む程度の体力は残しておくといいわよ」
睨み合ってお互いニヤリと笑う。やはり今日一番気を付けなければならない相手はスメ……。
「邪魔や、人の道塞ぐなボケ」
私達の後ろから低く凄みのある声がかかる。どうやらその人の入るゲートの前で立ち話していた事が原因らしい。
今はスメラギとの『ライバルほんわかモード』だったから良かったけど、もし1人でピリピリしている時にあんな言い方されたら「あぁっ?
ウマ娘の関西弁キャラに知り合いは居ない。また新たなクセの強い新キャラかと思ったが、
「クリスタルセイバー…」
そう、本日1番人気のクリスタルセイバーだった。今まで口を利いた事が無かったから、見た目のイメージだけでてっきりクール系のイヤミなお嬢様かと想像していたが、実際は関西風ヤンキー姉ちゃんだったぽい。
いやでも、阪神ジュベナイルフィリーズの記者会見の時は標準語で喋ってたよね? それが緊張してたのかポーズだったのか知らんけど。
「「……」」
スメラギもセイバーに対して同様のイメージだったようで、私とスメラギは似たような表情をしながらセイバーに道を開けた。
☆
さて、全員のゲートインが完了し本日のメインレースの弥生賞がスタートする。
先頭に立って全体を引っ張るのはクリスタルセイバー。続いて私やフックトッシンを含む先頭集団が4人、中段にスメラギ以下十数名が団子状態で繋がっている。
前回悪役令嬢ムーブで煽ってきながらも私に負けたフックトッシンは露骨に私をマークしている様に見受けられた。
自分に対してマイナス感情を持っている人がすぐ横に居るのってかなりストレスになるんだよねぇ。あの時のリリィじゃないけどレースは楽しくやりたいものだ。
レースが動き出したのはやはり第3コーナー、スメラギら『差し』の子達が上がってきた。
先頭は依然変わらずセイバーが単独首位、彼女は前回ホープフルステークスで中山の急坂に撃沈したが、今回は同じ舞台でその対策を立てていないはずがない。
私もまだスパートをかけるには早い段階なのだけれども、後ろからスメラギが迫ってきているし、上がってきた後方の娘達に飲まれて身動き出来なくなるのは回避したい。なにげにフックトッシンのマークもウザいので振り切る為に速度を上げた。
スタミナが心配ではあるが、スタミナが切れたら切れたで上手いこと《
幸運なことに先行集団には他にレベルの高い娘は居なかったようで、私も良い位置取りが出来て最後の直線に出る頃には馬群を抜けて2番手に上がって来れた。すぐ後ろにフックトッシン、やや遅れてスメラギも来ている。
私の前のセイバーとはおよそ2馬身差、十分に射程内だ。
直線勝負、セイバー、私、フックトッシン、やや遅れてスメラギの順で走る。スメラギのすぐ後ろは大集団で、ここからカメみたいな凄い追い脚を持つ誰かが抜け出して来ないとも限らない。
私はセイバーを追う。しかし私もスメラギを含む後続全員に追われているのだ。しかもフックトッシンは私のすぐ後ろに位置取り、私は風除けにされている。
ウマ娘がトップスピードで走るとその空気抵抗も結構バカに出来ない。空気抵抗を前走者に押し付けて自分のスピードを上げる、自動車レースでよく聞くスリップストリームってテクニックはウマ娘レースでも割とよくある現象だったりする。
まぁフックトッシンみたいな意地の悪い雑魚に良いようにされる私じゃない。坂に差し掛かる前にトップスピードまで持っていって、勢いで坂を登りきってやる!
前回ホープフルステークスで《
今回も同じ舞台、同じシチュエーションに持っていければ同じタイミングで《
《