【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
「チーム〈ポラリス〉の皆さん初めまして。エバシブの姉のブラックリリィと申します。妹がいつもお世話になっております」
目の前に唐突に現れたリリィにチームの全員が固まっていた。
☆
今日は先日のアモ先輩の呼びかけで集められた、チーム〈ポラリス〉での《
そんな源逸トレーナー以下、チームの全トレーナーと全ウマ娘が集まっている会議室に、エバシブがリリィを伴って入ってきたのだ。
源逸さんですら目を丸くしている所を見ると、本当にエバシブがサプライズで連れてきたのだろう。
いや1人だけ『してやったり』とニヤついている人がいる。アモ先輩だ。きっとアモ先輩の差し金でエバシブがリリィを連れてきたんだ……。
始めの挨拶で頭を下げたリリィが頭を上げ、ニコリとした表情で私の方に小さく手を振ってきた。
こういうのってチーム間のすり合わせとかどうなってんの? あとで学園から、いや下手したらURAから何らかのお咎めとかあったりしないのかな…?
「今日はお休みの日だったのですが、エバ(シブ)に無理やり連れ出されまして、でも話を聞いたら『《
嬉しそうにニヘラと笑って首を傾げるポーズをするリリィ。普段の外見からは冷たい印象を受けるリリィだけど、意外に可愛らしい仕草も堂に入っている。
「あ… えと、来てくれたのは嬉しいんだけど、そっちのトレーナーさんとか話は付いてるの? 私ら一応別チームで敵同士なんだけど…」
まだ混乱の治まらない源逸さん達に代わり、私が代表でリリィに質問する。リリィは少し考える仕草をした後、
「んー、別に休み中にお話ししに来ただけだから良いんじゃないかな? ナズナちゃんのいるチームに興味あったしエバもお世話になってる所だし」
そう答えてきた。本当に良いのかなぁ? 源逸さん達トレーナー陣もみな難しい顔をしているんだけど……。
「あのね、で、さっきから言ってる《
いや知らんのかい!!
☆
「なるほどねぇ、今聞いた話の感じだと私はそれ『ふわふわ』って呼んでるやつかも…」
私やアモ先輩から《
曰く、彼女のトレーナーには「観客の声を風に見立てて、その風を受けて走る帆船の帆になれ」と教わったそうだ。応援も悪意も他人からの『想い』を全て受け止め、それを風として帆に受けて進め。という事らしい。
私には抽象的すぎてよく分からなかったけど、カメはリリィの話に熱心そうにコクコクと頷いていた。
「私も初めて『ふわふわ〜』ってなったのはナズナちゃんと走った新馬戦の時ね。あれからよくレースの終盤に意識がフワ〜って飛んでいってしまうみたいになって、気が付いたらレースに勝ってた? みたいになるよ」
…間違い無い、リリィのあの恍惚とした走り方は紛れもなく《
リリィにとって《
ただハッキリと掴んだのはリリィの《
『超集中』とも呼ばれる《
一般に疲労は集中力を落とす物だが、レースの終盤、ウマ娘の考える事は『誰よりも早くゴールしたい』それしか無い。位置取りだのスタミナ配分だのゴチャゴチャ考えていた事は最後の直線で全てが吹き飛ぶ。
『勝ちたい』気持ちの強弱こそがレースの結果を決める。レースに勝つのは一番強く『勝ちたい!』と願ったウマ娘なのだ。
リリィだって飄々としている様で、胸の内は勝利への渇望が渦巻いているに違いない。
私はそんな基本のキの字すら忘れていた。《
前回の弥生賞などまさにそれで、私はスメラギやセイバーに『勝ちたい』と思うよりも『《
これでは勝てる戦いも勝てるはずがない。アモ先輩に「ナメたレース」と言われたのも当然だったろう。
ひとしきり話をして茶を飲んだ頃にリリィのスマートフォンが音を鳴らす。ウマ娘のスマホは基本スピーカーモードなので、周囲の人間に通話内容を伏せるのは困難だ。
相手はリリィのトレーナーさんらしく、今後のスケジュールについて詰めたいとの事だった。
まだ喋り足りないのかリリィは後ろ髪を引かれるような素振りで会議室を去っていった。
その後はチーム内の皆でリリィの話に関しての感想を言い合った。リリィの《
今回はほとんどリリィへの聞き取りで終わってしまったが、得られた物は… いや思い出せた物は大きい。
まずは気持ちの問題、そこから更に細かい条件を割り出していく事になるだろう。
山積みの課題に頭を痛める私に、今日は大人しかったエバシブがドヤ顔で親指を立てながら話しかけてきた。
「あは、ナズナ先輩さえ良ければまたお姉ちゃん連れてきましょうか? 本人も喜んでたみたいだし」
いやぁ、もういいかなぁ……。