【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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50R 祭りの準備

「ほいナズナ、これ頼んだ」

 

 会議の翌日、さぁこれからトレーニングしようかな、とトレーナー事務所の更衣室に入った所でアモ先輩からホチキスで留めただけの簡素なパンフレットを渡された。

 『なんじゃこれ?』と思いつつ冊子の表紙を見てみると、そこには大きく《20XX年度 春のファン大感謝祭企画目録》と書いてあった……。

 

 ☆

 

 トレセン学園は毎年春と秋にファン感謝祭と称して一般参加のお祭り行事を執り行う。

 春のファン大感謝祭 (以下春ファン)は新入生を迎えた4月の上旬に行われ、秋のファン感謝祭 (通称『聖蹄祭』)は10月の初旬に行われる

 

 春ファンはイメージとしては『体育祭』であり、アトラクションとして模擬レースやマラソン、トライアスロンやリレーといった『走り』に関連した演物(だしもの)が開催される。

 一方の「聖蹄祭」はイメージとしては『文化祭』で定番のお化け屋敷やメイド喫茶、トークショーの他、生徒会や学園の催しとして日本舞踊や古典演劇が行われたりする。ちなみに去年の生徒会の演物は歌舞伎をやっていた。

 

 ファン感謝祭の名の通り学園の外、それこそ全国から多くのお客さんが来校し、普段はテレビやレース場でしか見られないウマ娘達と直接交流出来る事が売りで、数少ないウマ娘とファン達を繋ぐ機会を提供する場となっている。

 

 まぁお客さんの立場からすれば、生の競走ウマ娘と触れ合える機会なんてそうそう無い訳だし、推しのウマ娘と話せたり記念撮影でも出来れば御の字なのだろう。

 

 でもね、ウマ娘側から言わせてもらうとファン感謝祭ってあまり有り難くないんだよね……。

 お客さんとの交流が嫌だったり煩わしいとかではない。純粋にそういう娘もいるが、私はむしろ後援会との付き合いで一般人との交流は慣れているし、面倒だと思う事もあるが別に嫌いではない。

 

 では何が問題なのかと言うと『GⅠレースシーズンに被る』のだ。

 例えば春ファン直後の日曜日には桜花賞が開催され、同様に聖蹄祭を合図に秋のGⅠが次々開催される。

 

 私達はこれら大勝負の直前に、体育祭だの文化祭だのに(うつつ)を抜かしている暇は無いのだ。

 

「今年は『チーム対抗歌合戦』をやるってさ。3人ひと組で歌う曲は自由。優勝チームには賞品として新しい勝負服を作ってもらえるんだって」

 

「へぇ、で、私にどうしろって言うんです? まさかGⅠ直前の私に()ろって言うんじゃないですよね?」

 

「そのまさかだよ。カメとコロも一緒にね。これはおっちゃんからの指令でもあるんだ」

 

 源逸さんからの指令?! 私は自分の耳を疑った。

 

「ちょっと、正気なんですか? 私達これからGⅠに向けて更にトレーニング重ねないといけないのに… お祭りで遊んでる暇なんてありませんよ?」

 

 そうなのだ。ファン感謝祭はファン感謝祭で、いつも私達を応援してくれるファンの皆様に恩返しできる大事な行事だ。それは分かっている。

 だからと言って走るレースを疎かにしても良いという訳でもない。

 

 ましてややり直しの利かないクラッシックのGⅠだ。万全の体制で臨まねば… いや万全の体制であっても私よりも上位のウマ娘に勝てるかどうかは甚だ怪しいのだ。

 直近にGⅠを控えているの私やカメよりも、レーススケジュールに余裕のあるアモ先輩やメル先輩、エバシブの3人で演れば良かろうに……。

 

「大体何を考えてるか分かるけど、そういう所だと思うよ? もっと余裕を持って『レースを楽しむ』気持ちで行かないと、レースの前に心をやられちゃうよ…」

 

 …むぅ、確かにアモ先輩の言葉は正しい。だが実際問題、私達が春ファンの準備にかまけている間にリリィは、スメラギは、セイバーは今よりもっと速くなっているだろう。それが分かっていて素直に「歌合戦頑張るぞい!」とはならない。

 

「それにあたしとメルは今年のドロワの実行委員になっちゃったから春ファンまで手が回らないんだよ。歌合戦の参加は義務だし人助けと気晴らしを兼ねると思って協力して。お願い!」

 

 アモ先輩が(しな)を作って手を合わせてくる。うーん、でもなぁ……。

 

 ちなみにアモ先輩の言っていた『ドロワ』とは正しくは『リーニュ・ドロワット』といって、学園の卒業生並びに(こころざし)半ばで夢破れて中途退学するウマ娘を送り出すダンスパーティーの事だ。

 アメリカ式の卒業ダンスパーティー『プロム』とよく似たシステムで、意中のウマ娘(ひと)とペアを組んで食事をしたり踊ったりする。この時、ペアの片側は『男役』としてタキシードやそれに準じる衣装を身に着けるのが定石だ。

 

 まぁ今回はドロワに関係する先輩も居ないので私達には関係ない話だ。単に「そういうのがある」とだけ知っていてくれれば良い。

 

 ☆

 

「へぇ、そんな事があったんだねぇ」

「歌うならあたしがセンターやってやるぞ!」

 

 後から合流してきたカメとコロに、アモ先輩から押し付けられた無理難題の相談をしたのだが、2人とも意外に良い食いつきをしていた。

 聞けば2人とも(あらかじ)めアモ先輩から話を聞いていて、あとは私を説得するだけだったらしい。前もって外堀を埋めておくアモ先輩らしいイヤラシイ作戦だ。

 

 どのみち逃げ場が無いのなら、諦めてイベント参加しようかねぇ… とりあえずどんなルールで執り行われるのか、貰ったパンフレットを確認し読み上げる。

 

「採点は歌唱力とダンスの他、3人の連携が最も重視される。審査員は学園理事長、生徒会長、近隣の町会長、市議会議員等々15名が各自10ポイントを演者毎に任意のポイントを投票、合計点の高いチームが勝利する。なお衣装はいつもの『STARTING FUTURE』か自分の勝負服のどちらを選んでも可、ですってさ」

 

 まぁシステムだけ見れば何の変哲もない歌合戦だよね。こんなんで盛り上がるのかな…?

 

「まず衣装はどうしようか? 勝負服の方が気持ちは上がるけど、『連携』を重視するなら汎用衣装の方が綺麗に見えるよね…?」

「あたしは断然勝負服がいいな! まだお披露目もしてないんだから」

 

 そう言えばコロの勝負服も出来上がって届いていたはずだ。試着はしたみたいだけど、どんな服なのか私は見ていない。

 カメとコロ、2人の視線が私に集中する。私の意見も聞きたいって事なのかな?

 

「私も勝負服が良いな… せっかくなら1番アガる服着て歌いたいよ」

 

「じゃあ衣装は勝負服で決まりね。次は楽曲はどうしようか? 「Make(メイク) debut(デビュー)!」なら練習無しでもみんな歌と踊りは出来るから、トレーニングに差し支えないと思うんだけど…」

「せっかくの特別ステージなら普段歌えない曲も良いぞ!」

 

 これは悩む。カメの言う通りトレーニングの事を考えるなら「Make(メイク) debut(デビュー)!」は最適だし、慣れている分連携も取りやすい。だがしかしぶっちゃけると正直あの曲には少々飽きてきているのだ。

 以前にも書いたGⅠの楽曲の他、トレセン学園には非常にたくさんの唱歌があるので候補を絞るのは容易ではない。

 

 最終的にセンターはジャンケンで。楽曲は各々のイチオシを紙に書いて箱に入れ、くじ引きの要領で決定する事になった。

 

 結果、センターは執念でジャンケンに勝った私になり、楽曲はカメの希望である「ユメヲカケル!」になった。

 

 ちなみに私の希望した歌は「UNLIMITED(アンリミテッド) IMPACT(インパクト)(ダートGⅠの楽曲)」で、コロの希望は「Enjoy(エンジョイ) and(エン) joint(ジョイン)」だった。

 これは個人的にどの曲もツボなので、どれが来ても嬉しかったと思う。

 

 そしてパンフレットの最後のページに申し訳無さそうに書いてあった「その他、催しの提案があれば適宜受け付けますので生徒会室まで」という文言から何故か目が離せなかった……。

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