【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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51R フィリーズレビュー

 通常のトレーニングに加えて春ファン用の「ユメヲカケル!」、そして皐月賞から始まるクラッシックGⅠで歌われる「Winning(ウイニング) The() Seoul(ソウル)」のレッスンも加わって、目の回る様な忙しさの中、今日は阪神レース場でカメの出走する「報知杯フィリーズレビュー(GⅡ)」が行われる。

 

 実はそれに先立つ昨日にメル先輩が「中山ウマ娘ステークス(GⅢ)」を走っているのだが、こちらは5着と少々残念な結果となってしまっていた。

 

「次のレースが私にとっての本命なの。だからどうしても今日は勝って弾みを付けたかったのだけども… 目黒トレーナーごめんなさい…」

 

 普段はレースの勝ち負けで大きく感情を見せないメル先輩だけど、この日だけは珍しく控室で悔し涙を見せていた。

 メル先輩の言う「本命」の次レースが何なのかは、まだ教えて貰えていないが、悔しさをバネに是非とも次に向けて頑張って欲しい。

 

 そんなメル先輩の無念を晴らすと息巻いてカメは新幹線に乗っていったのだ。

 本当は私も阪神まで応援に行きたかったのだが、上記の通り鬼の様なスケジュール進行のために到底叶えられる訳も無かった。

 

 なので仕方なく今日はテレビの前で応援する事になった。多分来週のコロのレースも同様だろう。

 ちなみにそのコロは私の隣で固唾を飲んでカメの登場を待ちわびている。

 

「今きりから連絡があったわ。相変わらずトレーナーの方がワタワタしてるわね。きり(あの子)は天才的なトレーニングスケジュールを組めるくせに、いざレース本番になるとあたふたしだすんだからもう…」

 

 アイリスがまるで母親の様に心配しながらきりさんを気遣う。

 確かに同じトレーニングをしていても、カメと私ではその後の疲労度や習得した技術のレベルが若干違うな、みたいな事を感じた事がある。

 

 それは私とカメの才能の差かとも思っていたのだが、アイリスがそこまで高い評価を付けるという事は、アイリスよりもきりさんの方がトレーナーのレベルが高いという事なのかも知れない。

 こういうのはゲームとかと違って数値で見られる物ではないので、感覚を元に話をせざるを得ない心苦しさはあるが……。

 

 まぁそれはともかく、今日のカメの走りを見ればきりさんの手腕も分かろうというものだ。

 テレビ画面の向こう、カメは堂々と客席に向けて両手を降っている。調子は良さそうだが1400mという距離が吉と出るか凶と出るかは分からない。

 

 以前にも書いたが、カメの脚質『追い込み』は終盤の直線に全てを賭けるやり方だ。『逃げ』の娘に終始逃げられ続け、距離を離されると最後まで追いつけずにレースが終わってしまう事がよくある(短距離ならなおさら)のだ。

 

 今日のカメは2番人気で、1番人気はローゼスストリーム。ホープフルステークスで私と戦い、惜しくも6着と掲示板を逃した、栗毛のポニーテールにメガネを掛けた秀才っぽい印象のウマ娘だ。

 脚質は私と同じ『先行』らしいので、カメが私との並走をイメージしてくれれば戦いやすいのでは無かろうかと思われる。

 

 ☆

 

 快晴で良バ場、時刻は15時35分、出走開始予定時間ぴったりにレースが始まりフルゲート18人のウマ娘が飛び出した。

 

 立ち上がりはローゼスが4番手、カメは最後方で様子見の模様。カメラの映像が遠くてカメの表情までは捉えきれていない。

 

 今日のレースには過去に重賞を獲っているウマ娘は出走していない。

 これは単に巡り合わせの良さもあるだろうが、1400mという短い距離のレースとの相性もあるだろう。

 

 現に私やコロの様に距離適正の合わないウマ娘が出走しても、理想的なレース運びは極めて難しい物になると考えられる。短距離適正のある娘って多そうで意外に少ないのだ。

 

 さてレースも終盤、コロの「そろそろ来るよ…」の予言直後にカメがギアを1段階上げた様に速度を上げる。

 

 一時は垂れウマ回避に失敗して順位を落としていたローゼスだったが、持ち前のセンスと体捌きで再び先頭集団に返り咲く。

 第4コーナーを回った時点でローゼスが2番手、カメが4〜6番手だ。

 

 程なくローゼスが、早期スパートでスタミナを切らせた先頭の娘を抜き去りトップに躍り出る。カメも上がってきたけどまだ5身程の差がある。

 残りは300m、果たして仁川の坂はどちらの味方をしてくれるのか…?

 

「行けっ…」

 

 自然に声が出た。テレビ画面のカメは物凄い追い脚を見せているが、ローゼスのスピードも思ったほどには落ちていない。

 

「行けーっ! カメーっ!!」

「カメちゃん、ファイトっ!」

 

 コロとアイリスも私に釣られる様に応援の声を出す。それで私の恥ずかしさの(たが)も外れた。

 

「カメーっ! 根性見せろよっ!!」

 

 そこで私の声を合図にしたかの様にカメが猛加速を見せた。まるでカメだけ倍速になった映像を見ているみたいで、あっという間にローゼスを追い抜き1身差で優勝をもぎ取っていった。

 

 今のちょっと不思議な光景に固まってしまったのは私だけでは無かった。コロもアイリスも『信じられない物を見た』みたいな顔をしている。

 確かにカメの追い脚は凄い。だが今見たのは『走る』というよりも『飛ぶ』といった表現が相応し… あっ…!

 

「なぁなぁ、今のってカメの《領域(ゾーン)》なんじゃないか…?」

 

 コロの呟きは、今まさに私が言おうとしていた事、そのものだった。




キャラクタービジュアルイメージ
ローゼスストリーム ≫ イクノディクタス
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