【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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幕間4 乙女の秘密

「なぁメル、頼むよ。コロに声掛けてやってくれないか?」

 

 若葉ステークスで惨敗したコロちゃんはレース後の地下道において、待機していた源逸トレーナーに抱きつき号泣したそうだ。「何であたしだけ?!」と何度も繰り返しながら……。

 

 そのコロちゃんが、学園に帰って早々に不貞腐れて部屋に籠もって出てこなくなってしまったらしいのだ。

 アモちゃんによると、アモちゃんやナズナちゃんの様な「《領域(ゾーン)》を使える人とは話をしたくない」と言っているらしく、このままではチームはもちろんコロちゃんのルームメイトであるレッドヴァルキリーさんにも迷惑がかかる。

 

 ちなみにレッドヴァルキリーさんは私やアモちゃんと同学年で、ダートコースが得意なウマ娘。戦績は私と似たような感じだが、昨年11月のみやこステークス(GⅢ)に勝っている重賞ホルダーだ。

 

 騒々しくて手の掛かるコロちゃんの面倒をよく見てくれるいい先輩で、アモちゃんとも仲がいい。私とは、たまに会った時に世間話をするくらいかな?

 

 コロちゃんがレースに負けて悔しいのと、《領域(ゾーン)》という最近チームで流行っている謎の現象が身に着けられない苛立ちから籠城に至った、という事は容易に想像出来る。

 

 ウマ娘の住む寮には男女問わずトレーナーは立入禁止なので、寮の中のゴタゴタはウマ娘自身で解決する必要がある。

 しかもナズナちゃんとカメちゃんは栗東寮住まいなので、おいそれとここ美浦寮の問題に口を挟めない。

 

 そこでアモちゃんが白羽の矢を立てたのがチームメイトで美浦寮住まい、尚且つ《領域(ゾーン)》とやらに無縁な(無能な?)メルヘンランド(わたし)だったという訳だ。

 

 私も正直、前回の中山ウマ娘ステークスでの残念な結果から立ち直れていないし、ドロワの飾り付けの準備もしなきゃいけないし、何より次のレースに向けての調整があるんだけど、確かに愚痴を言える相手の筆頭は私だろうからコロちゃんのためにも何か役に立てるなら手伝うに(やぶさ)かではない。

 

 ☆

 

「コロちゃん聞こえる? メルヘンランドだけど、みんな心配してるよ…? ここは前のレースで負けちゃった者同士、愚痴を言い合ってスッキリしない? 甘口堂のにんじんプリンも持ってきたよ…」

 

 翌日の夕方、コロちゃんの部屋の前でアモちゃんに持たされたにんじんプリンを手にドア越しに声をかける。中のコロちゃんに聞こえているのかどうかは分からない。

 

 コロちゃんの代わりに出てきたのは同室のレッドヴァルキリーさん。こちらにニコリと笑顔を見せると部屋の中を親指で指し

 

「メルさんなら入ってもいいってさ。私はちょっと出てくるからごゆっくりどうぞ」

 

 と気を遣ってくれて私と入れ替わる様に部屋から出てくる。元々レッドヴァルキリーさんの分として用意したにんじんプリンを渡すと、小躍りするほど喜んでくれた。

 

 部屋の中は薄暗く、コロちゃんは自分のベッドで頭から布団を被り、体全体で不満を表していた。

 

「大体の流れはアモちゃんから聞いてるわ。とりあえずプリン食べましょうよ」

 

 私の言葉にコロちゃんはガバと起き上がり、とても愛おしそうな顔でプリンを見つめていた。さすがアモちゃん、コロちゃんの操縦方法を熟知しているわね。

 

 ☆

 

「大体ナズナもカメもズルいんだよ。いつもあたし1人を()け者にしてさ!」

 

 コロちゃんの不満は同期であるナズナちゃんとカメちゃんに成績で一歩先んじられている事であるらしい。

 加えてアモちゃんを含む3人が《領域(ゾーン)》を発現させたという事実も拍車をかけていた。

 

 どうにも自分1人取り残されている様な感覚が不安で堪らないのだろう。

 私と違って、明確なライバルと思える人がいるが故の悩みなのだと思う。

 

 私なんてアモちゃんは同級生だけど、デビュー年は1年違う。しかも私の同期にはツキバミさんという、当然の様にクラッシック3冠を達成してしまった人もいるのだ。

 それに後輩であるはずのナズナちゃん達だって春のGⅠ戦線に名を連ねている。あまり大きな声では言えないが、去年の私はこの時期まだ未勝利だった。

 

 周りが凄すぎて、ライバルがどうとか闘争心を燃やすとかあまり無かったと思う。

 むしろ専属トレーナーの目黒さんの喜ぶ顔が見たくて走っていた様な気がする……。

 

「…メル姉、聞いてる?」

 

 あら、自分の事で考え込んでしまってコロちゃんの話を聞き流していたわ。駄目な先輩ね……。

 

「ねぇ、コロちゃんの最終的な目標って何?」

 

 話題転換がてら、そこでふと思いついた質問をコロちゃんに投げてみる事にした。

 

「え? 目標…? やっぱりたくさん走ってGⅠ獲って、行く行くはドリームトロフィー… かな?」

 

 うん、トレセン学園のウマ娘で結果を出せている子は大体そんな感じなのだろうと思う。

 たとえ(おぼろ)げでも自分の将来のビジョンが見えている子は強い。少なくとも2年目春のこの段階でGⅠを前提に語れるのは、同期デビューした子の中でも上位3割くらいだろう。

 

「そのドリームトロフィー狙ってる子が部屋の中で布団被ってて良いの? ナズナちゃん達との差がまた開いちゃうよ?」

 

 始めはお説教をする気は無かった。コロちゃんの愚痴だけ聞いてあげれば機嫌は治ると思っていたから。でもコロちゃんみたいなまだまだ成長出来る子が(くすぶ)っていたら、やはり先輩としては黙ってはいられなかった。

 

 私は3年目が始まった現在、どうにかオープンクラスに上がれたウマ娘。

 それでも全体から見れば、強豪ひしめくトゥインクルシリーズで曲がりなりにも『初勝利』して、そこからファン数を増やしてこれた一端(いっぱし)の『エリート』の筈だ。

 

 でも、そんなちっぽけなプライドを簡単に壊すほど、GⅠ戦線を走るウマ娘は速くて強い。

 何度も未勝利戦を繰り返す私の前で、他者を全く寄せ付けずに圧勝したツキバミさんの走りは、冗談抜きで『異次元』だった……。

 

「う… それを言われるとキツイけどさ… そういうメル姉は何か目標あるの? やっぱり重賞制覇か?」

 

 コロちゃんからのまさかの返しの質問に、今まで考えていた『目標』が唐突に脳裏に浮かび上がる。

 私の目標… それは次のレースで……。

 

「何だ? 急にメル姉の顔が真っ赤になったぞ。純粋にレース以外の事を考えているな?! 言え! 何かエロい事か?!」

 

 別にエロい事は考えていない。でも全く的外れかと言うとそれも違うわけで、何とも答えに詰まってしまう。

 

「なっ…?! そんなんじゃないわよ… ふぅ… あのね、誰にも言わないでね…?」

 

「言わない!」

 

 この即答が逆に怖いんだけど、私の思いと決意を誰かに知ってほしい気持ちが強かったのは確かだ。

 明日にはチームの皆にバレているんだろうなぁ、と半ば覚悟しつつ、私は今まで胸に秘めていた思いを(おもて)に出すべく口を開いた。

 

「あ、あのね… 私の最終的な目標は『お嫁さん』。今度の目黒記念で… 目黒の名の付いたレースに勝って、目黒トレーナーに告白したいの…」

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