【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
いじけて部屋に籠もっていると聞いていたコロが、何事も無かったかの様に平然と練習を再開していた。
なんでもメル先輩と色々話して気持ちを落ち着けたらしいのだが、詳細は「女同士の約束だから話せない!」の一点張りだった。
でも話の最後にポツリと「でも目黒は無いわぁ…」と呟いていたので、相手がメル先輩な事もあって目黒トレーナーと関係する何かがあると思われるが、それ以上は推測の域を出ないので何も言わない事にする。
メル先輩の思いは周りには駄々漏れなのだが、本人は好きバレしていないと思っているみたいだし、目黒トレーナーからもメル先輩に対して特段『女性』を意識している風には見受けられない。ていうか目黒トレーナーって色恋沙汰に興味あるのかな…?
もしメル先輩の恋バナって事だったら、悪いけど前途多難な予感しかしないんだよね……。
まぁ何にせよコロの機嫌が治ったのなら何よりだ、という事で私達は春ファンに向けての練習を続けていた。
そして4月になり、桜の花が舞い散り、真新しい制服を着た中等部の新入生達が、メチャクチャ広いトレセン学園のそこかしこで迷子になる、という春の風物詩が見られる季節に、私達はめでたく高等部へと進学し、晴れて
4月最初の日曜日には春のGⅠシニア3冠の緒戦である「大阪杯」が行われ、翌週はカメの「桜花賞」、そして翌々週には私の「皐月賞」が行われる。
大阪杯はやはり当然であるかの様に5バ身差でツキバミが勝った。これで無敗のままGⅠを6勝している、本当に化け物だ。
もしこのままツキバミが天皇賞 (春)や宝塚記念を穫るようであればURAの記録しているGⅠ勝利数記録1位である『アーモンドアイ』に並ぶ8勝(アーモンドアイは海外のGⅠも穫っているので実質9勝)となる。
もし秋以降のGⅠも穫れたならば、前人未到のGⅠ二桁勝利ウマ娘が誕生し、紛うことなき『伝説』として歴史に永代語られる事だろう。
一応6月の安田記念以降のGⅠレースは私達クラッシック級でも出走出来るルールなので、早ければ宝塚記念やジャパンカップ等でツキバミと相まみえる可能性はゼロではない… 一応ね。
その戦場には恐らくリリィやスメラギも居るに違い無い。ツキバミの伝説に終止符を打つのは私達の誰か、いや『私』だ… と自信を持って言えるようになりたい。いや、ならないとね……。
☆
大阪杯が終わればその3日後には待ちに待っ… てはいないけど、一生懸命準備した春ファンの始まりだ。
例のチーム対抗歌合戦はエントリーされている100以上のチームから、アトランダムに選出された順番に
ちょっと覗いてみたステージはGⅠ仕様の豪華版で、眼の前には数万人を収容出来るスペースがある。そしてその客用スペースが平日の昼間、しかもイベント開始前にも関わらず満員で、無数のサイリウムが揺らめいているのがはっきりと見て取れた。
私達のチーム〈ポラリス〉の順番は14番目で、これは集まったお客さんが段々暖まってきて、1番熱く盛り上がる良い頃合いのはずだ。とても運がいい。
着替えの準備や控室での最終調整のリハーサル等で、私達はステージを見に行く余裕は無いが、他チームの熱い歌声が外から聞こえてくる。
やはりみんなスケジュール的にキツかったのか、聞こえてくる曲は「
本当は私もチームで曲を決める時に最初「
でもどうせなら『こんなイベントじゃなくて、本番レースのウイニングライブで歌いたい!』と思ったから別の曲で投票したんだよね… 後から聞いた話だが、カメも同様の理由で「
「次はチーム〈ポラリス〉さん、準備お願いしまぁす」
運営の係員ウマ娘から控室の私達に声が掛かった。いつものウイニングライブだと周りが慣れない面子なので若干の緊張もあったりするが、今回はお祭りでかつ、勝手知ったるチームの同期メンバーとのユニットだ。ノリと楽しさ100%で演れるだろう。
「よっしゃ、行くぜお前ら!」
コロが代表して元気に返答し、気合を入れる様に自分の両頬を叩く。いい機会なのでここで初お見前したコロの勝負服を簡単に説明したい。
パッと見は童話やアニメでよく見かけるピーターパンによく似ている。色も全身緑色で女の子らしいヒラヒラしたフリルはたくさん付いているが、アクセサリー系の装飾品はベルトのバックルと、そのベルトに挿した小さな模造ナイフくらい。
頭にはやはり緑色の大きなとんがり帽子を被り、その帽子のイメージから、コロの名の由来であるアイヌの妖精『コロボックル』を示しているのだろう。
活発なコロならこんな感じの勝負服だろうなぁ、という予想がそのまま頭から出てきたような嬉しさと安心感が同居する服装だった。
私達の前のチームの歌が終わり、袖で控えていた私達3人が、照明を落として薄暗くなったステージの中央に立つ。
「『君と夢を駆けーるよ! 何回だって勝ちー進ーめ、勝〜利のそーの
トランペットの勇壮かつ軽快なイントロから一気に照明が当たり、センターである私の歌い出しに繋がる。
『知名度』だけはある私と、先月GⅡに優勝したカメに見覚えのあるお客さんが多いのか、はたまた選曲が良かったのか客席は大歓声に包まれる。
私のパート、カメのパート、コロのパートと来て全員でサビの熱唱。お客さんも「ノーモア!」とか「レッツゴー!」の合いの手のタイミングを熟知していて、もう完全に私達の為のステージと言って差し支え無い程の大盛り上がりだ。
シメの仕掛けとしてワンコーラス終わってからのCメロに「
ここを少し改変させてもらって、私が両拳を左右に広げ、セカンド(カメ)とサード(コロ)が両側から同時に私に拳を合わせてくる、という形にした。
この意外な演出に客席は更に盛り上がりを見せる。こういったイベントだから許されるお茶目であり、レース後のウイニングライブでやらかしたら、トレーナー共々呼び出されて大目玉を食らうだろう。
なので私は前もって生徒会長に「ダンスを少し
春ファンの企画立案のご褒美という事で「そのくらいなら」と生徒会長も快諾してくれたのだ。
「すっごい盛り上がって、もうこれあたしらが優勝で決まりだろ!」
歌い終わって興奮冷めやらぬコロが話し掛けてくる。レースで勝つのも嬉しいけど、ライブで大盛り上がりするのも嬉しいよね。次の皐月賞、本気で「
「あ、あのっ… スズシロナズナさん!」
ステージが終わって、再び着替えるために控室に戻ろうとした私達に向けて、小さな女の子と思われる声に呼び止められた。
そちらの方に目を遣ると、私の名前が書かれたお手製の応援