【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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54R 春のファン大感謝祭(後編)

「ライブ見てました! もう凄くて… 何て言うか凄くて… もう勝負服も格好良くて…」

 

 興奮して語彙が消滅するグレートちゃんの横で、付き添いのご両親が苦笑しつつも幸せそうな表情を浮かべている。

 やがてお父さんと思しき男性が一歩前に出て、申し訳無さそうに私に会釈する。

 

「お忙しい所、お声がけして申し訳ありません。私共家族全員、スズシロナズナさんにどうしてもお礼を言いたくて… 娘に元気を下さり本当にありがとうございます!」

 

 今度は横のお母さんと一緒に会釈ではなく最敬礼。逆に私の方が(かしこ)まってしまう。

 

「あ、いえいえ、頭を上げてください! 私こそグレートちゃんのファンレターでどれだけ励まされたか… お礼を言うのはこちらの方です。ね、グレートちゃん、午後に体育館で私の企画したイベントやるの。是非見に来て」

 

 私の誘いにグレートちゃんはとても嬉しそうに「うん!」と全身で頷いた。

 

 そう、このあと体育館で行われるのは私の企画立案した「学園生徒による車椅子レース」、後に『伝説のトレセン学園杯』と呼ばれる事になる催しなのだ。

 

 ☆

 

 初めはグレートちゃんを喜ばせようと思って考えた、子供相手に車椅子体験してみよう、という程度のお祭り成分高めのアイデアだったのだけど、生徒会に話を持っていって以降あれよあれよと話が膨らんでいき、最終的には「車椅子レースの現役チャンピオンを招聘(しょうへい)して、学園のGⅠウマ娘と対抗させよう」という化け物企画に進化してしまった。

 

 なのでウマ娘による車椅子レースの現行チャンピオンであるゴールドギガントさんがゲストとして呼ばれ、生徒会長のトウザイブレイカーさんや、昨年の大阪杯の覇者レーザーディスクさん、今年の日経賞の覇者ナースホルンさん、そしてどういう経緯なのか当代最強のウマ娘ツキバミ嬢まで参加する。

 

 そこに私を加えた6人立ててレースが行われる。でもこれだけのメンツ揃えて更に私って要るかな?! 正直自分が走るつもりはサラサラ無かったのだけれども、生徒会長さんに「君も参加するんだろう?」と訊かれて「いいえ」とは言い切れなかった……。

 

 図らずもツキバミとの初対決となってしまった訳だが、ツキバミとて車椅子なぞ乗ったことは無いはずだ。私も乗ったこと無いけどこれで条件は50∶50(フィフティフィフティ)、勝機は私にもあり得るだろう。

 

 ☆

 

「まさかまたトレセン学園に帰ってこれるとは思わなかったわ。とても素敵なイベントを企画してくれてありがとうね。お礼にチャンピオンの走りを見せてあげるわ」

 

 20代後半と思われるゴールドギガントさん、聞けば以前は競走ウマ娘としてトゥインクルシリーズで走っていたそうだ。しかし腰の故障が原因で半身不随となり引退、それでも『走り』を諦めたくなくて車椅子レースに身を投じたらしい。

 

 その力強く自信に溢れた口調は、その辺のGⅠウマ娘よりもよほど生命力に満ちていた。そういう『夢』を諦めない姿勢は本当に尊敬する。

 それこそさっき歌った「ユメヲカケル!」にも『諦めないでI believe! いつか決めたゴールに』という歌詞があるのだが、『決めたゴール』とは中央のGⅠとは限らないんだよね… とても運命的な物を感じる。

 

 催しの規模は小さいが、トウザイブレイカー会長やツキバミも出場する、なんとも異彩を放つレースに観客の関心は高く、あっという間に体育館の客席は満員に。

 感謝祭の実行委員会が急遽外部の案内用の掲示モニターをモード変更し、簡易ながらテレビ中継っぽく仕立て上げてくれた。

 

 もちろん車椅子レースなので、車椅子使用のお客さんは最優先で前列のいい場所をキープさせた。これから走るトラックからも、期待と興奮に満ちたグレートちゃん一家の嬉しそうな顔が見える。

 

 スタートを控えて各選手が車椅子に乗り込み体を固定させる。

 レース用の車椅子は街でよく見かける車椅子とは大きくデザインが異なっている。前のめりに転倒しないように長く作られた前輪と『ハ』の字に配置された後輪が印象的な、(まさ)に「競うためのマシン」だった。

 

 練習する時間もほとんど無かったので、どうすれば効率的に前に進めるのかもよく分かっていない。だが周りを見る限り諸先輩方も似たような物だ。ここはナズナさんの若いパワーで押し切るしか無いだろう。

 

「企画が盛り上がっているみたいで良かった。秋の聖蹄祭の時にも何かアイデアを出してくれ」

 

 早くも車椅子を自由自在に使いこなしているトウザイブレイカー会長が、私に声をかけてきた。

 

「どうしてもこの企画を見せたかった人が客席に居るので、盛り上がってもらわないと困ります。だから生徒会長にもツキバミさんにも負けませんから!」

 

 私の答えに会長は満足げに大きく頷き、自分のコースへと戻って行った。

 

 体育館内のトラックを2周、400mを競うこのレース、今回はいつもの様に脚では無く腕の力が物を言う。

 

 でもさっき話した時にちらりと見たゴールドギガントさんの腕の太さって、私の太ももの太さとほとんど同じだったんだよねぇ… あれはドキュウセンカンといい勝負の太さだ。

 逆に長い車椅子生活を送ってきた彼女の脚の太さは、私の腕の太さとあまり変わらなかった……。

 

 グレートちゃん一家やカメやコロの見守る中、中山レース場でGⅠの時に流されるファンファーレが、学園備品のステレオプレイヤーから奏でられる。

 

 横一列に並んだ6台の車椅子、1枠ナースホルン、2枠は私、3枠トウザイ会長、4枠レーザーディスク、5枠ツキバミ、大外6枠がゴールドギガントという編成だ。

 当然スターティングゲートなど存在しないので、スタートラインで審判と進行係を兼ねたウマ娘が右手を高く上げる。

 

「位置について〜、よーい、スタート!」

 

 振り下ろされる手を合図に一斉に飛び出す6台の車椅子。

 まず驚いたのは自分の体の意外な重さだ。断っておくが私はデブでは無い。そしてウマ娘は通常の人間よりも高い筋力を有している。

 それでも私の車椅子は思ったほどには加速してくれなかった。まず出遅れ1名。

 

 更に私を混乱させたのが、隣のナースホルン先輩が走りながら車椅子を当ててきたのだ。反対側に目を遣るとツキバミとギガントさんも互いに激しいチャージ合戦を行っている。

 

 後で分かった事だが、ウマ娘の車椅子レースは『体当たりアリ』なのだそうだ。激しい! レース中の接触から転倒、負傷の経験のある私には、一瞬あの時の恐怖が蘇る。

 思わず加速の手を止めてしまう。これで出遅れ×2。

 

 あとはもう私のレースはグダグダで、そのまま誰一人追い抜く事も出来ずに最下位の6着と相成った。

 まぁメンツがメンツだから楽に勝てるとは思ってなかったけど、グレートちゃんの眼の前でこの体たらくは辛い。愛想尽かされちゃったかなぁ…?

 

 ちなみに1着は余裕でゴールドギガントさん。2着はトウザイ会長でツキバミが3着だった。

 非公式でしかも車椅子でのレースとはいえ、初めてツキバミに土を付けたギガントさんと会長は大喝采を受ける事になる。

 

 実はツキバミ自身かなり無愛想でほとんど喋らない人なので、メディア等の受けも普段からあまり良くない。なので何とかツキバミの悪い所を暴いてやろう、という不届き者は一定数いて、今回の件は彼らを大喜びさせる事だろう。

 

 ☆

 

「どうだった? GⅠウマ娘と言えど私の土俵じゃ負けないからね?」

 

 最後にゴールドギガントさんがわざわざ私に挨拶しに来てくれた。ちょうど観客席に、まだ健気に私の応援団扇を振ってくれているグレートちゃんが見えたので、

 

「さすがチャンピオンですよね、凄かったです… あ、それでですね、観客席で団扇振っている車椅子の娘が見えますか? あの子も車椅子のスポーツに興味があるそうなんですよ。後でギガントさんを紹介しても良いですか?」

 

 私の問いにギガントさんは一瞬瞳をウルっとさせながら、

 

「あら、未来のチャンピオンを紹介してくれるの? もちろん大歓迎よ!」

 

 そう心の底から嬉しそうな顔で答えてくれた。

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