【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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55R カメの戦い

 さて、前回書ききれなかった春ファンの顛末からいくつか書いていきたい。

 

 まず「チーム対抗歌合戦」だが、夕方に全チームの成績が一斉に発表され、優勝チームが表彰されていた。

 という感じに他人事の様に書いている時点でお察しだが、私達チーム〈ポラリス〉はあれだけの手応えを感じながらも14位という、なんとも微妙な順位の結果に終わってしまった。

 

 公表された採点表を確認すると、連携点は高かったものの歌唱とダンスの点数が思いの外伸びなかったようである。『歌唱』ってつまりセンターの私の責任って事なのかな…? やはり歌もダンスも練習不足は否めなかった、といった所だ。

 

 ちなみに優勝チームは「ユメゾラ」という元気な曲を歌ったチーム〈カペラ〉という所で、前回のオールカマーでアモ先輩と対戦した昨年の七夕賞覇者ピコグラムさんが所属している。

 いや正直『誰?』という気持ちは強いのだが、まずは『勝者には敬意を!』という事で素直に祝福したいと思う。

 

 優勝賞品の新しい勝負服は後日贈られるらしい。ちょっと羨ましくもあるけど、私は今の自分のデニムベースの勝負服が大好きなので別に悔しくは無いかな?

 

 カメとコロも「惜しかったねぇ」で話が終わってしまった辺り、私同様あまり執着していなかったのだろう。

 あの広くて豪華なステージで歌えてお客さんが喜んでくれたってだけで、もう十分すぎるほどに満足しているのだから。

 

 ☆

 

 最後にナズナグレートちゃんとゴールドギガントさんを会わせたのだが、これは失敗だったかも知れない。

 だってグレートちゃんったら、ギガントさんと会ったらもう私の事なんて見向きもしないで機関銃の様にギガントさんに話し掛けていたんだよ?

 

 彼女は私のファン第1号だったのに、自分の手でむざむざ他人(ギガントさん)にまるごと譲り渡してしまったような寂寥感を覚える。

 歌合戦で結果が奮わなかった事よりも、こちらの方が余程ダメージが大きい気がするね……。

 

「心配するな。あたしもカメもナズナのファンだから、これからも応援してやるよ!」

 

 私の表情を読んだのか、コロが珍しく気を遣った発言をしてくれた。その横でカメが笑顔で頷いてくれた。

 2人ともありがとう! 私もあんた達2人のファンだからね! ズッ友だからね!!

 

 ☆

 

 そんな感じで春ファンは平和 (?)に終了、私達も大レースを前に日常に緊張感が戻ってくる。

 

 春ファンも終わって日曜日、今日はクラッシック級のティアラロードの緒戦であるGⅠレース「桜花賞」が阪神レース場で行われる… のだが……。

 

「うわぁぁぁぁぁぁーんっ!! わぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 フィリーズレビューを見事制して桜花賞への出走を決めていたカメだったが、彼女は今、栗東寮の自室のベッドで布団を被り悔恨の激情を嗚咽とともに大量の涙と鼻水で外に吐き出していた。

 

 えーと、何があったのかと言うと、一昨日の夕飯後にカメが頭痛と倦怠感を表明してきた。一夜おいて翌日検温したところ体温が38.5度と高温だった事から急いで病院で検査、症状はただの感冒(かぜ)だったが、源逸さんときりさんの2人の判断で桜花賞への出走は取り消されてしまったのだ。

 

 一生に一度の桜花賞、カメは「明日には絶対治しますから!」と頑なに阪神行きを主張したが、その意見が汲まれる事は無かった。

 

 阪神ジュベナイルフィリーズで10着になった時も涙を見せる事の無かったカメが、今日はここまで取り乱している。

 初歩的な体調管理の失敗で大事なGⅠを逃した事、そんな自分を許せない気持ちがひしひしと伝わってくる。

 

 そして子供の様に大声で泣くカメに何もしてやれない自分が不甲斐なくて、私まで涙が出てくるよ。

 よくカメが私にしてくれたみたいに、そっと抱きしめてあげれば良いのかな? 答えが分からない……。

 

「カメ…」

 

 中にカメの入っている布団の塊に話しかける。号泣から次第に(むせ)び泣きに変わってきたカメが、今初めて私の存在に気付いたかのようにビクリと動きを止める。

 

「ナッぢゃん…」

 

 布団の中からカメが話しかけてきた。泣いて鼻の詰まった声で私の名を呼ぶ。やがて被っていた布団から頭だけを出してこちらに顔を向ける。

 

「ナッちゃんも来週レースでしょ? 感冒(かぜ)感染(うつ)したら申し訳ないから、暫くアイリスさんの所とかに避難しててくれる…?」

 

 カメの顔は涙と鼻水でデロデロだ。それでも私を気遣って、私の為の言葉をくれる。そんなカメを笑ったり冷やかしたりする真似は私には出来なかった。

 

「ありがとカメ、でも私は病気には強いから大丈夫だよ。そもそもカメが発熱した時点でもう感染るなら感染ってるって。それにこういう時の為のルームメイトじゃん。寮長さんだって忙しいんだからもっと私を頼って良いんだよ…?」

 

 頼られても大して役には立たない自覚はあるけど、側にいるだけでも気持ち的には助かると思うんだ。少なくとも私が落ち込んだ時にはカメに側にいてもらってとても心強かった。

 

「じゃあ… じゃあさ、トレーナー事務所に直訴しに行くからちょっと付き合って!」

 

 そう言うとカメはおもむろに起き上がり、洗面台で顔を洗い始めた。

 

「え? 直訴ってどういう事? 何する気さ…?」

 

「良いから。ナッちゃんは横にいてくれるだけでいいよ…」

 

 状況が分からず混乱する私を後目に、制服に着替えて身支度を整えたカメは1人で脇目もふらずに部屋を出ていった。

 

 カメは普段優しいけど、一度決めた事は頑として譲らない性格でもある。多分何かを『決めて』その承認を得るためにトレーナー事務所に向かうのだとは思うが、その決めた何かが分からないのでとても不安だ。

 まさか「チームを抜けます」とかじゃないだろうな…?

 

「ちょっとカメ、待ってよ! それにあんた熱は大丈夫なの?」

 

 私の問い掛けに一瞬足を止めたカメは(ふところ)から何か細長い物を出して私の方に放り投げてきた。

 慌ててキャッチしたのは電子体温計。その表示版には36.8℃の文字が浮かんでいた……。

 

 ☆

 

「きりさん、次走はアーリントンカップでお願いします!」

 

 事務所に入るなりカメは高らかに宣言した。

 『アーリントンカップ』は今週土曜日、つまり私の皐月賞の前日に阪神レース場で行われる、クラッシック級GⅢレースの1つだ。

 

「そろそろ来る頃だと思ってたぞ。ある意味ティアラ路線よりもそっちの方が良かったんじゃねぇか?」

 

 源逸さんとその横で静かに微笑んでいるきりさんは、こちらが何も言わずともカメの考えを全て理解している風だった。

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