【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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6R 新バ戦の真実

「…次走は2ヶ月後ですって? そんなに待てるわけ無いでしょ! どういうつもり?」

 

 アイリスから告げられた出走スケジュールがにわかに理解できずに私は声を荒げてしまった。

 せっかく気持ちを入れ替えて新たにレースに挑もうと思っていたのに、2ヶ月も先のレースでは緊張感も途切れてしまうではないか。

 

「聞いてナズナ… 貴女はもう少し体を作ってから走る方が望ましいの。貴女の体はまだ『本格化』を迎えていない。もう1ヶ月か2ヶ月後の方がタイムもぐんと伸びるはずなの」

 

「じゃあ何で昨日の日程でレースに出したのさ? 最初から言ってくれれば私だって…」

 

 始めから勝てないと分かっているレースに出すなんて、随分酷い事するんだね。私の中でアイリスへの信頼度が音を立てて急降下していった。

 

「アイリスを責めるなナズナ。これは俺の指示だ」

 

 申し訳無さそうに顔を伏せるアイリスの後ろから源逸(おやっ)さんの声がした。もう何が何だかさっぱりだ。

 

「昨日走ったブラックリリィな、ありゃナズナ(おまえ)の同期の中じゃあピカイチだ。お前も肌で感じたろ?」

 

「…それが何だって言うんですか?」

 

 私の脳裏に昨日のブラックリリィの走りが蘇る。黒い長髪、黒い尻尾、それらを風になびかせて私の横を颯爽と走り去って行った、やもすれば魅了すらされてしまいそうになる、しなやかで美しい肢体……。

 

「お前もお前で早目に走りたがっていたから、せっかくだからとリリィのデビューに合わせてみたんだよ。いい勉強になっただろ?」

 

「ゴーサインを出したのは源逸さんだけど、発案者は私よ。恨むなら私を恨んでね…?」

 

 再びアイリスが会話に入ってくる。

 

「ナズナが今後トゥインクル・シリーズで結果を出していくには、同期のブラックリリィは避けて通れない壁だわ。その壁の高さを今のうちに実感しておいて欲しかったの…」

 

「……」

 

「普通の娘ならブラックリリィ(あのこ)の走りに戦意喪失して引退まで考えちゃうパターンもあるかも知れないけど、ナズナなら逆に闘志を燃やしてくれるだろうと信じてたから…」

 

「……」

 

「でもナズナはまだ本格化を迎えていないにも関わらず地力は高い物があるの。だからリリィには勝てなくても2着には入れるだろう、そこからなら『パワーアップして次は頑張ろうね!』って持っていけると思ったんだけど…」

 

「私が余計な事をしたからそれも失敗した、と…?」

 

 確かにアイリスの作戦通りに走って私が(予定通りに?)2着になっていたのなら、すんなりと『まぁたまたま運が悪かっただけだな』と前向きに考えられていたかも知れない。

 

「そういう事だ。ナズナのムカつく気持ちも分かるが、アイリスの気持ちも汲んでやってはくれないか?」

 

「……」

 

 正直まだ納得できない部分は多くある。これがもしアイリスの独断による作戦であったのならば、私は担当替えすらも主張していたかも知れない。

 

「まぁ、オヤッサンがそこまで言うなら今回だけは身を引きますよ。でももう身内を騙すような事はしないで下さいね…?」

 

「おう、本当に悪かった! 悪かったついでにお前はもう少し体を作り上げてからの再挑戦だ。この方針は変わらねぇ。良いな?」

 

「……りょーかーい」

 

 拗ねた振りして答える私。半分冗談だが、その方針が気に入らないという気持ちの半分は本気だ。

 

『この件はこれで終わり』とばかりに事務所に複数の笑い声が響く。私も本当に気持ちを切り替える必要があるだろう。

 

「お疲れ様で~す。笑い声が聞こえましたけど何か面白い話でもあったんですか?」

 

 測ったようなタイミングでカメがやってきた。横にコロとメル先輩が居る。3人で連れ立ってやって来たらしい。

 

「アモちゃんはちょっと走ってから来るって言ってたので少し遅れます」

 

 とメル先輩の業務連絡。

 

「分かった。んじゃお前らもさっさと着替えてそれぞれのトレーナーの所へ行け!」

 

 オヤッサンの声を合図にウマ娘とトレーナー達が動き出す。さぁ本日のトレーニングの始まりだ。

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