【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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56R カメの意地と私の挑戦

 私達クラッシック級ウマ娘の走るGⅠレースにはクラッシック路線とティアラ路線という、大きく分けて2つのルートがあり、それは中距離〜長距離が得意な娘向けのクラッシック路線と、マイル〜中距離が得意な娘向けのティアラ路線という認識でおおよそ間違い無い。

 

 クラッシック路線とティアラ路線はそれぞれに3つのレースが開催されるのだが、実はそれとは別にクラッシック級の年度にのみ走れるURA公認のGⅠレースが他に2つある。

 

 ひとつは地方レースの「ジャパンダートダービー」。こちらは(ダート)のレースなので芝コース専用の私達には関係ない。

 もう1つが「NHKマイルカップ」という、1600m(マイル)のヤングチャンピオンを決定するレースだ。

 

 カメの距離適性は短距離〜マイルで、2000mを超える距離のレースとはかなり相性が悪い。

 GⅠのティアラ路線は初めの桜花賞でこそ1600mだが、続くオークスや秋華賞は共に2000m以上となりカメには苦戦が予想される。

 

 桜花賞が穫れなかったのならば無理に相性の悪いティアラ路線にしがみつく理由もない。そのままシニア級に混じって短距離〜マイルのレースに絞って戦っていく方がカメの適性に合っている、とも考えられる。

 

 そして今日カメの走るアーリントンカップは、そのNHKマイルカップのトライアルレースでもあるのだ。

 散々説明してきたのでトライアルレースが何なのかはもう説明しない。

 

 とにかく、カメは次の目標をNHKマイルカップに定めて直訴に訪れ、きりさんらトレーナー陣も初めからそのつもりだった、という事だ。『出走を取り消された腹いせにチームを抜けてやる』なんて物騒な話じゃなくて本当に良かった。

 

 ☆

 

 桜花賞はドキュウセンカンが出走していて、得意のブロック戦法で良いところまで行ったんだけど、終盤に複数の仕掛けを受けて対処しきれずに、最後はオオエドカルチャーという小柄で気の強そうなウマ娘が差し切って優勝した。

 

 ドキュウのあの戦法はもう対策されつくしてGⅠレベルではもう通用しないんじゃないかな? あの娘も色々と考える時期が来ているのでは無いかとも思える。

 

 ちなみに同日、同じ阪神レース場でアモ先輩が大阪-ハンブルグカップ(OP(オープン) 2600m)に出場、こちらは危なげなく優勝している。

 

 ☆

 

 そしてカメのアーリントンカップ当日、カメは最終直線で10人抜きの大爆走を見せて優勝し、見事重賞2タイトルホルダーとなる。更にこの時のタイムは桜花賞優勝時のオオエドカルチャーに実に2秒もの差をつけるものだった。

 

 どういう事かと言うと、桜花賞とアーリントンカップは共に同じ阪神レース場で行われる同じ1600mのレースであり、アーリントンカップは疑似桜花賞とも解釈できる。

 つまり同じ条件で走っていたらカメがオオエドカルチャーよりも2秒早くゴールしていたという事に他ならない。

 

 これはカメの逃してしまった桜花賞へのリベンジだったのだと思い知らされる。カメの穏やかな顔の裏に隠された執念を垣間見て、背筋が凍る思いだった……。

 

 ☆

 

 更に翌日、いよいよ私の… いや多くの国民が待ち望んだクラッシックGⅠロードの緒戦、皐月賞が開催される。

 

 カメが阪神レース場でばかり連戦しているのと同様に、私は最近中山レース場でばかり走っている気がする。

 もちろん今日の皐月賞の舞台も中山レース場だ。そしてもちろん(?)天気は雨だ。昨夜から降り続いた雨が芝を濡らし、第1レース開始前の時点で場発表は『重』、メインレースの頃には多数のウマ娘に踏み荒らされ、確実に『不良』となるだろう。

 

 それでも中山レース場には概算で24000人と、たくさんの人達が応援に来てくれた。

 

 皐月賞のメンツは人気順にスメラギ、リリィ、セイバー、ジュニアGⅠである朝日杯フューチュリティステークスの覇者パッションオレンジ、弥生賞と同じく皐月賞のトライアルだったスプリングステークスの覇者トッカンクイーン、お馴染み私スズシロナズナ、やはり皐月賞トライアルで

コロの惨敗した若葉ステークス覇者、ホープフルステークスでも対戦したリンカイパワフルといったところだ。

 

「ナズナちゃん、お久しぶり〜。今日も良いレースにしようね」

 

 パドックに向かう地下道で、私を見つけるなり飛び込んで抱きついてきたリリィ。どんだけ私の事が好きなのよ?

 

「やれやれ、相変わらず仲が良いわね…」

 

 その様子を苦笑しながら茶化してくるスメラギ。スメラギを視認するとリリィは「あ、スメラギちゃんだ!」と私から離れてスメラギに抱きつきに行く。

 明らかに距離感がバグっているリリィにスメラギがしどろもどろにリアクションしている様がとても面白い。

 

「おう、揃っとるな。今日こそお前らまとめて置き去りにしたるから覚悟しとき!」

 

 セイバーも元気そうだ。なんか『孤高の戦士』みたいなオーラ出してるくせに、妙に構って欲しそうなんだよね。実はツンデレ属性なのかな?

 

「ブラックリリィにクリスタルセイバー… 他にも速そうな人がたくさんだ! あたしはパッションオレンジ、はじめましての人が多いけどよろしくね!」

 

 私と同じ栃栗毛を雑に切り揃えたショートカットでボーイッシュなウマ娘、パッションオレンジだ。直接絡むのは初めてだけど、リリィ、セイバーに並ぶジュニア王者の一角だ。油断は出来ない。

 

 実はこういう『爽やかスポーツ女子』タイプの娘は嫌いになれないから戦い辛いんだよね。

 もっとこう、「こんちくしょうっ!」って思うくらい性格の悪い相手の方が戦い易いよね。私みたいな奴が相手なら他のメンツも相当戦い易いはずだ……。

 

 ハッ?! という事は私がもっと可愛いくて憎めないキャラになって媚を売れば、他のライバル達は力を出しきれ無くなって私が勝てるようになる…? 訳ないよな。アホくさ… 何考えてんだ私は……。

 

 見慣れたメンツが多いせいか、GⅠだというのにそれほどの緊張を感じていない。まぁバカな事を考えられるくらい心に余裕があるのは、リラックス出来ている証拠として良い事だと割り切りますか……。

 

 ☆

 

 そしてレース開始時間となり、午後から収まるどころか強さを増してきて、もはや視界すらはっきりしない篠突く雨の中、総勢16人の強豪ウマ娘がスターティングゲートから足元の悪い戦場に飛び出した。




キャラクタービジュアルイメージ
トウザイブレイカー≫エアグルーヴ
オオエドカルチャー ≫ ナリタタイシン
パッションオレンジ≫メジロライアン
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