【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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60R 最終決定

 翌日、私とアイリスは朝から病院に検査に行かなければならなかったので、私の両親を迎える為に空港へは目黒トレーナーが代わりに行ってくれる事になった。

 

 夕方になって診察を終えた私達とカメ達が学園近くのファミリーレストランで合流する。

 後から源逸さんも来るとの事だが、目黒さんは用事があるとかでそそくさと学園へと戻っていった。

 

 結果、私とアイリスと私の両親の4人でテーブルを囲んでいる状況だ。

 私の診察はとりあえずレントゲンとCTを撮って、ロキソ系の痛み止めを2週間分貰ってきた。「これでも痛みが治まらなかったら次はモルヒネですよ。レースどころじゃなくなりますからね?」としっかり釘を刺されている。

 

 ☆

 

「まずはナズナが元気そうで安心したったい。あげん派手に転んでから、町会長やらたまがってテレビん前でバリ固まっとったけんな!」

 

 源逸さんが来てから本題に入ろうと言うことで、他愛もない(?)雑談中なのだが、父の地声が大きくて周りに響いて恥ずかしい。

 

「お父さん、声が大きか。ナズナが困っとぉよ。ナズナ、今は痛みとか無いと? ウチがウマ娘やったらまだナズナの体の事とか分かってあげられたんやけどね… こげん時に限ってヨっちゃんもミヨちゃんも連絡つかんかったし、あ、ナズナ知っとぉ? イっちゃん東京の高校に入ったとよ…」

 

 母も母で話があちこち飛んで取り留めがない。ヨシとミヨは正月に会ったけど、イチとは何年も会ってないから知らないし連絡も取ってないよ。アイリスも隣でリアクション取れなくて冷や汗流してるよ!

 

「す、鈴代さん達もお元気そうで何よりです…」

 

 冷や汗通り越して顔が青くなりつつあるアイリス。うちの両親が2人とも空気読めなくてゴメンね……。

 

「アイリス先生も相変わらず綺麗かねー。うちの辰雄の嫁に欲しかー。どげんね? な、母さん?」

 

「そうねぇ。こげんやーらしかお嬢さんなら我が家は大歓迎よ」

 

「やっ、やらしい?!」

 

 両親の『田舎のオッサンオバチャンあるある攻撃』と慣れない方言に戸惑うアイリス。こういう狼狽えるアイリスの顔はレアなので記憶にしっかり刻んでおこう。

 ちなみに辰雄とは私の兄の事だ。兄も男ばかりで出会いの無さそうな職場なので嫁探しも切実なのだろうが、私的にアイリスはちょっとなぁ……。

 

「『やーらしい』は『可愛い』の意味だよ、お母さんが佐賀人なだけで『嫌らしい』じゃないからね」

 

 それだけフォローしておこう。それを聞いたアイリスも「そうなの?」と少し安心した顔をしていた。

 

「お待たせしました。鈴代さんお久しぶりです、矛田です」

 

 ちょうど話にオチがついた所で遅れていた源逸さんが現れた。父も立ち上がり2人笑顔で握手をする。この良い雰囲気のまま会合を終わらせられれば良いんだけどなぁ……。

 

 ☆

 

「…話は大体分かったとです。ナズナよ、お父さんもお母さんもナズナがこげんこまか頃からダービーが夢だった事は知っとる。可愛い娘の長年の夢やけん叶えさせてやりたか…」

 

「お父さん…」

 

 さすが私の親、娘の気持ちを分かっていらっしゃる。

 父の意見に源逸さんやアイリスが反論しようと口を開いた所で、それらを遮って父が言葉を繋げる。

 

「ダービーに出られるだけでん超エリートだって分かっとぉし、ナズナや先生方がそれだけ頑張った事も理解しとる。ダービーに出られるモンなら出してやりたか。でもなナズナ…」

 

 父の瞳が真っ直ぐ私を見つめる。普段おちゃらけた顔しか見せない父が真剣な顔をしている。

 

「親として娘が危険な目に遭うのが分かっとって『どうぞどうぞ』っち送り出す奴は外道ばい。オイはそげん恥知らずにゃなりたくなか。やけんナズナ、ちゃんと治して未来に賭けり。ダービーは諦めとうせ…」

 

 …何だよ、お父さんも『あっち』側かよ?! 裏切者! 眉を怒らせて反論しようと私が立ち上がりかけたところで母が軽く挙手をしてきた。

 

「ちょっと良かかしら? お父さん、それやとナズナが可哀想すぎます」

 

 父と対峙するべく私側に立って弁護してくれるのだろうか? ここで私が激昂してキレ散らかしたら周りの迷惑になる事を見越して参入したものと思われる。

 

「しゃーしか。女の出る幕や無か!」

 

「あら、ナズナはウマ娘で女の子ですよ? 女が出らんでどぎゃんするとね?」

 

 父の一喝に怯むことなく反論する母。おっとり型であまり口論を好まない母は、良くも悪くも九州男を煮詰めた様な父とは殆どケンカをしてこなかった。少なくとも私や兄の前で夫婦喧嘩を見せた事は無かったはずだ。その母が珍しく父に絡んでいる。

 

「ナズナの性格は私達が一番良く知っとぉはずでしょ? あの子をレースに出さんで後々嫌な事があったらなんでんかんでん私らのせいにしてブーブー文句たれよるよ? 幼稚園の運動会の事、忘れたと?」

 

 いや、お母様… それはそうかも知れないけど全然フォローになってませんよ…?

 

「うぐ… ならどうするとか? これで走らせてナズナに何かあったら泣くに泣けんばい」

 

「ナズナ、あんたは治療ば受けたくないんやなくてダービーを走りたいだけっちゃろ?」

 

 私は母の問いに真剣に頷いた。秋の菊花賞はもう無理としてダービーは… ダービーだけは逃したくない。ウマ娘なら誰しもが憧れる日本ダービー、その舞台に手が掛かっているのだ……。

 

「そんならあと1戦、ダービーだけでも走ってみたら良かばい。それでもしナズナの体が不自由になっても母さんが支えてやるけん…」

 

「お母さん…」

 

「お父さんもそれで良かね? ダービーさえ走れれば良いと。ね、ナズナ?」

 

 私は再び無言で先程よりも強く頷いた。父の返答は……。

 

「う〜ん、確かになぁ… ナズナは機嫌崩したらしゃーらしいからなぁ…」

 

 説得は良い感じに進んでいる様だが、私のネガティブな情報ばかりが拡散されているみたいで、まるで釈然としない。

 

 そこでお父さんが何かを思い出した様に口を開いた。

 

「ところでナズナ、ここまで散々ダービーダービー言いよっちゃけど、きさん本当にダービー出れるとね?」

 

 あ…! 実はそれってちょっとデリケートな問題だったりする… 隣のアイリスがスマホを取り出して、レースの予想を上げているサイトを開く。

 

 ダービーのメンツ予想として、自動的に出走優先権を与えられる皐月賞の1〜5着(リリィ、パッション、セイバー、リンカイ、トッカン)は別枠ながら、それ以外はファン数順に並べられていた。

 

 上記5人を除き現在ファン数トップはスメラギの27000強、一方私は弥生賞と春ファンのステージでそれなりに数を増やしたものの、皐月賞の体たらくで微減しており9000弱でランキング9位。

 

 ここにダービートライアルの青葉賞から2人、プリンシパルステークスから1人が優先的に入ってくる事を考えると、私の順位は実質17位となる。

 もしダービーがフルゲートの18人で行われるとしても、その中で17位は下位の者から簡単に下剋上されてしまう位置である。

 

「『今はまだ』という但し書きは付くけど、ダービーへの出走は叶いそうね…」

 

 アイリスの言葉は地味に私の胸にグサリとダメージを与えてくる。恐らくあともうひと押しが無いと、直前の選考で落とされてしまうだろう。ここまで来てそれだけは回避したい。

 

「鈴代家での結論は出たみたいだけど、俺はまだ納得してねぇ。だからナズナよ、俺と勝負しろ」

 

 突如発された源逸さんからの挑戦状に全員の視線が源逸さんに集中する。

 

「来週のダービートライアル青葉賞にコロが出る。本気の戦いでコロを負かして1着になってみせろ。そしてそこで倒れたらダービーも無し、トライアル圏内の2着でもダメだ。いずれもダービーは棄権する。いいな?」

 

 何てこと。このタイミングでコロと対決しろってか。あ、でもコロなら事情を話せば1着を譲ってくれたりとか……。

 

「もちろんこの事はコロには秘密だ。コロにバレたらその時点でゲームオーバーだからな?」

 

 あう、やっぱり見透かされていた… 源逸さんの声が重い。

 今ここに最終決定が下された。私はガチレースでコロを打ち負かさねばならない……。

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