【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
私の両親を交えて会議した日から1週間、今週末には『テレビ東京杯青葉賞 (GⅡ)』が東京レース場で行われる。
ダービーと同じ東京レース場でかつ、ダービーと同じ2400mを走るこのレースはダービーの練習台として最適なのだが、1つとても大きな問題がある。
青葉賞は1984年より行われた「日本ダービー指定オープン」を祖とする、元よりダービートライアルを目的としたレースな訳だが、ここで青葉賞の歴史について語りたい訳ではない。
私が気にしているのは業界では非常に有名な『ジンクス』についてだ。
青葉賞は上記の通りダービーへの登竜門として毎年2人 (以前は3人)の優秀なウマ娘を
そしてその40年にも渡る青葉賞の歴史の中で、なんと「ただの1人も」ダービーを優勝したウマ娘が生まれていないのである。
『青葉賞からダービーに行ったウマ娘は絶対に勝てない』
年ごとのウマ娘の性質や適正に何らかの問題がある訳ではない。本当に何が悪いのかが全く分からないので『ジンクス』としか言いようが無いのだ。
もちろん青葉賞を勝ったウマ娘は、毎年その全員が「自分こそがジンクスに終止符を打ってやる!」と意気込んでダービーに乗り込んで行ったはずであるが、その漏れなくが玉砕している、という訳である。
コロはそういうの全然気にしないタイプだから問題無いのだろうけど、私は占いとかジンクスとか結構信じるタイプだったりする。
前にも書いたけど、ウマ娘は発情期があるせいで晩冬〜初夏にかけて誕生日が集中する。だから星座占いとか水瓶座、魚座、牡羊座、牡牛座の間でほぼ全員のウマ娘が収まってしまうのだ。
さすがに人生の運勢が4パターンしかないのはおかしいとは思うのだが、それでも朝の情報番組で星占いをやっているとついつい見てしまうし、結果が良くないと凹んだりもする。スズシロナズナさんはそんな可愛らしいウマ娘なのだ。
話が逸れた。まぁ青葉賞のジンクスについては恐らく人の力の及ぶ問題ではないので後々考える事にする。
源逸さんもどうせなら敢えて同門対決なんてしないで、日程に余裕のあるプリンシパルステークスを条件にしてくれれば良いのに……。
いや逆だな。プリンシパルステークスだと今からは余裕があるが、その分ダービーまでの期間が短くなる。プリンシパルステークスからダービーまでの期間は2週間。これでは最終調整が間に合わなくなる可能性がある。
☆
「
皐月賞の事故もカメ以外のチームメンバーには『貧血』だと説明してある。そしてコロはその嘘情報を欠片も疑ってはいない様子だ。
私の怪我の詳細も含めて何も聞かされていないコロの天真爛漫さが眩しすぎて見ていて辛い。でもね、残念ながらコロが1着だと私はダービーには出られないんだよ……。
私がダービーに出走するには、目の前のこの眩しい笑顔を泣きっ面にする必要があるのだ。
「コロ、ゴメンね。今のうちに謝っておく。青葉賞の1着は譲れないから…」
私の悲壮感の籠もった顔に不思議そうな表情をしながらも、コロはニヤリと笑い返す。
「よぉし! んじゃあ容赦なくあたしとナズナの一騎打ちだな! 大丈夫、青葉賞は2着でもダービーに出られるからさ!」
それじゃ私は出られないんだけどね… でもそんな事情はコロには知る由もない。
挑戦状返しに私もニヤリと笑ってコロに
春ファンでやったパフォーマンスをまさか実際のレースを前にやるとは予想外だったが、まさに『友達&仲間&ライバル』ってのがいる。そしてこれってとても幸せな事だと思う。『強敵』って書いて『とも』と読む、みたいな感じかな?
☆
さて、勘違いしている人が多いかも知れないが、コロは決して弱いウマ娘ではない。今まで彼女の戦績を語る際にあまり芳しい成績が出てこないのは、彼女の実力というよりも外因的な要素が大きい。
まずコロは天性の
それに、彼女のレースの日に限って私が怪我したり彼女が怪我したりと不運なイベントのせいで心安らかに走れない状況が少なくなかった。
加えてジュニア級やクラッシック級の初期は開催されるレースそのものに長距離レースが無い。
従って、これまでのコロは苦手では無いにせよ得意距離とは異なるレースを強いられてきた経緯があるわけだ。
私も逆の意味で2400mのレースは経験が無い。トレーニングの一貫でロングランの練習はしてきたが、実際のレースとは全く違う物であろう事は想像に難くない。
スタミナの配分や患部に負担の掛からない走り方、対策部分は山ほどあるのに、それらを身に付ける時間が圧倒的に足りなかった。
それに《
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全てに於いて準備不足な青葉賞だが、それでも泣き言は言っていられない。この1戦に日本ダービーが、私のこれまでの人生の目標が掛かっているのだ。
☆
やがてレース当日。東京レース場は学園から徒歩圏内にあるので、レース開始時間近くまでゆっくりしていられるのは有り難い。
午前中は学園のグラウンドで軽く体を温めて、午後イチでレース場へと向かう。
控室で着替えを済ませ、前レースの府中ステークスの終了を確認、パドックへ向かうべく立ち上がる。
「ナズナ… 頭では今すぐ入院して怪我を治して欲しいと思っているのは変わらない。でも心では怪我に屈せず挑戦し続ける貴女を本気で尊敬しているわ」
今日はほとんど喋らなかったアイリスがようやく口を開いた。ここまで何を言えば良いのか掴みかねて、試行錯誤していた感じだ。
「私は貴女のトレーナーとして、貴女が勝てるように今日まで様々なプログラムを組んできた。その私が言うわ、ナズナは私の… いえチーム〈ポラリス〉の最高傑作足り得る存在よ。今日のコロは強いわ、でも貴女なら勝てるはず。トレーナーの願望じゃなくてデータの蓄積から断言する。だから… だから、必ず元気に戻ってきて。優勝して明るい笑顔を私達に見せてよね…」
最後らへんは涙声になっていたアイリスに送り出される。ここまでアイリスが感情をぶつけてきた事って無かった気がするな……。
気の利いた返しが思いつかず、私は「…行ってきます」とだけしか言えなかった。
ちなみに実際の競馬界に於いて、2022年の時点で未だにこのジンクスは続いております。いつか誰かが打ち破ってくれると信じておりますw