【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
「なぁなぁナズナ、ぶっちゃけブラックリリィってどうなんだ? そんなに強かったのか?」
着替えながらコロが楽しそうに聞いてくる。まぁ、コロは私と同期だから
「それ私も気になるなぁ。ナッちゃんを泣かす程の実力の持ち主って…」
「ちょっとカメ! 余計な事言わないでよ」
カメが参戦してきて慌てた私にまた皆の笑い声が被さる。私の恥ずかしい過去もバラしてくれなくても良いっての。
まぁ一晩中1人で泣いたり怒ったりしていたルームメイトが居ては、彼女も昨夜はゆっくり眠れなかっただろう。その点は大変申し訳無いとは思っている。
「…うーん、あの時はもう私も必死で体中の筋肉を総動員して走っていたわ。それを
「うぇー、マジかぁ… 今はナズナとあたしでいい勝負だから、今のあたしが挑戦しても玉砕するだけかなぁ… もしレースでリリィとかち合ったらナズナの仇を取ってやろうと思ってたけど…」
コロが残念そうな口で随分と愁傷な事を言ってくれる。この子の事だからどこまで本気かは分からないけど、完全な嘘という訳でも無いだろう。
「ありがとコロ。でもリベンジは絶対自分の手で、もとい脚でやりたいんだ。気持ちだけ貰っておくよ」
私の言葉を受けてコロが笑顔で「うん!」と大きく頷いた。邪気の無い時のコロは本当に可愛い。抱きしめてお持ち帰りしたくなる。まぁ大体八割方は邪気があるんだけどね。
「でもこれからデビューを待ってる娘たちの中にもとんでもない力を持った娘がいるかも知れないんだよねぇ。私なんだか怖くなって来ちゃったよ…」
「どの年代にも抜きん出た、バケモノみたいなウマ娘はいるわ。私の時はツキバミさんねぇ。彼女は本当に『別格』だったもの…」
カメの言葉をメル先輩が受ける。メル先輩は私達より1年上のクラッシック級だ。
件のツキバミというウマ娘はデビュー以後負け無しで今日まで6戦6勝、しかもいずれも5バ身以上差を付けての大勝。勝ち数のうち3つがGⅠ(ホープステークス、皐月賞、日本ダービー)で、秋の菊花賞も確実視され、今年のクラッシック三冠ウマ娘の下バ評は揺るがない。
「実力はドリームトロフィー級(シニア級で更に成績優秀者のみが上がれる上位クラス)」とクラッシック級ながら既に『現役最強』と噂される誉れ高いウマ娘だ。
きっと来年のシニア級でも大暴れするのだろう。
私も映像でツキバミの走りを見せてもらった事があるが、『倒れ込むのでは無かろうか?』と思う程の前傾姿勢で、『ライバルに親でも殺されたのか?』と思えるほど鬼気迫る表情をして走るウマ娘だった。
映像から感じ取れたオーラだけでも身震いする程だったから、同じレースを走って近くでその覇気を浴びていたら、私の様な可憐で大人しくて気の小さいウマ娘はすぐに卒倒してしまうだろう。
私と走ったブラックリリィは確かに速かった。速かったがツキバミの様な絶対的な存在感は持っていない。むしろ
ツキバミを『剛』とすればリリィは『柔』というイメージだ。
このまま順当に行けば来年の冬にはツキバミとリリィの対決も見られるかも知れない。もちろん私もその
着替えを済ませ、各々のトレーナーと合流する。アイリスから告知された本日分の練習内容は、昨日がレースだった事を鑑み軽めの走り込み、坂路、締めにカメとの併走だった。
私の適正距離はおよそ1600〜2200m。距離がそれ以下だと調子が上がる前にレースが終わってしまったり、それ以上だとスタミナ切れでバテてしまう。
こればかりは持って生まれた才能なのでおいそれとは変えられない。
今後日本ダービー(2400m)や菊花賞(3000m)を目指して動くなら適正距離を伸ばすべくスタミナの補強は必然となる。アイリスもそれを見据えたカリキュラムを組んでくれている辺り、私達の意思疎通はお互いが思っている以上に上手く行っているのかも知れない。
坂路を10セットほど走った所でアイリスの携帯電話が呼び出し音を鳴らす。横目でアイリスの様子を窺うと、通話の終わったアイリスがこちらに話しかけてきた。
「源逸さんからだけど、コロがどうしても『皆で模擬レースやりたい』って言って聞かないらしいの。メルとカメは来るらしいけど、
ふん、そんな事……。
もちろんやるに決まってるじゃん!