【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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66R 風林火山

 「NHKマイルカップ」も無事終わり、カメが念願のGⅠトロフィーを手に入れた。

 勝利者インタビューで「最近チームで暗い話題が増えているので、なんとか皆に笑顔になって貰いたくて頑張りました!」なんて言われるとこちらの胸が痛くなる。

 

 コロの屈腱炎によるダービー棄権は早々に発表されたが、私の怪我はまだマスコミには伏せられたままだ。

 本来ならカメは『皆』では無く『コロ』と言うべきだったのだろう。でもカメは『皆』と言う私達にしか通じない言葉で、私にも気遣いを見せてくれた。

 ありがとうカメ。カメの気持ちは怖いくらいに私に届いたからね。

 

 その後、本日の最終レース「立川特別」を経て、NHKマイルカップのウイニングライブが行われた。

 

 楽曲はもちろん「本能スピード」。その名の通りスピード感のあるテクノポップで、聴いていて元気の出る曲だ。

 

 ライブ服に着替えて観客に手を振りながらステージに上がるカメ達レース出走者。それを大歓声で迎える20,000人の観客。

 

 暗いステージにスモークが焚かれ、サイバーチックな背景と舞台より発される赤いレーザー光線が縦横無尽に空を(はし)る。

 

 段差のある舞台が一気に光りだし、これまで闇に隠れていた出演者を後方から照らしだす。 

 同時にドラムのダンダンダンダンと刻むリズムから始まるイントロから激しいながらも一糸乱れぬダンスが披露される。

 これまで赤一色だった背景とレーザー光線が緑や紫と目まぐるしく移り変わり未来都市感を演出する。

 そしてイントロの終わりに、後方から白く照らし出されたカメ(センター)が右手を高く掲げ人指し指を立てる。

 

最高(さぁ〜いこう)の〜感覚(ときぃ)、ただ(も〜と)め〜ては〜」

 

 「本能スピード」の歌い出しは静かに始まる。そこからサイド2人の歌が被さり徐々に曲のスピードも増してくる。

 

 サビの「誰より今、強く駆け抜けたら」の直前にステージが真っ暗になり、歌と同時に今まで以上に明るく照らし出されるカメ達。

「本能スピード」はGⅠ使用楽曲の中で最も激しいダンスが要求される。あれだけ手足を動かしながら歌えるのは素直に尊敬する。カメはダンスの自主練頑張ってたもんなぁ。

 短距離はともかくマイルレースに出たら私もアレをやらなきゃならんのか… 萎えるなぁ……。

 

 この曲で1番盛り上がるシーンは、ワンコーラス歌い終わって間奏の後に来るセンターのソロサビだ。観客席に左手人指し指を突き出し「一番(いちばんっ!)先で笑顔にっな〜れ〜る〜!」と最強のドヤ顔を見せる。この時ライトアップされるのはセンターのみ。この場面は歌い手が誰であっても観客は思わず息を呑む。

 

 曲が終わり大喝采に包まれたままフェードアウトしていくステージ。カメは今日、私に最高の走り(レース)と最高の(ライブ)を見せてくれた。この気持ちに答えるためには、次は私が最高のレースを見せるしかない。

 

 勝ったら外食で戦勝パーティをしても良い、とアイリスが源逸さんから軍資金を預かっていたらしいので、帰りは皆で焼肉をご馳走になった。本日のMVPのカメよりも私やコロの方が肉を貪り食っていたのは秘密だ。

 

 ☆

 

 翌日の午後、事務所に雑多に並べられたスポーツ新聞を見る。昨日のカメの大活躍がデデーンと載っているのだろう… と思ったら4紙中1紙を除いて1面は全て『ツキバミ骨折、宝塚記念は断念』とあった。

 

 カメのNHKマイルカップは2面以降に追いやられ、カメの扱いもそれに従い小さいものだった。

 

 それはともかくツキバミの件は気になるので記事の中身を確認すると、天皇賞 (春)の時点で足に違和感があったらしい。走りに安定感が無かったからそんな気はしていたけど、先週のトレーニング中に踏み込んだ際に足の爪先部分の骨が、疲労のために折れてしまったそうだ。

 

 重傷では無いが、足はウマ娘にとって生命線だ。とりあえず来月の宝塚記念は棄権とし、春のシニア3冠獲得挑戦は来年に持ち越しになった。

 復帰の予定はまだ未定らしいが、天皇賞 (秋)を照準して動くと思われる。と記事にはあった。

 

 ツキバミのGⅠ勝利数も『7』で仮止めとなった。それでもまだ無敗のままの絶対王者である事は変わらない。

 私もツキバミも怪我から復帰したレースで対決! なんて展開は… 無いだろうなぁ。そこに行くにはまだ私のレベルが低過ぎる……。

 

 カメの記事を1面に取り上げてくれたのは、私を贔屓(ひいき)してくれている(?)優駿タイムズさんだった。

 

「オカメハチモク、まさに『風林火山』!!」

 

 …??? 『どういうこっちゃ?』と思い記事を読んでみる。

 

「レースが始まってからオカメハチモクは『静かなること林の如し』と最後尾を淡々と走っていた。やがて東京レース場名物の大欅を越えても『動かざること山の如し』とばかりに速度を上げる気配を見せない。だが第4コーナーを回った直後『侵掠すること火の如し』、オカメハチモクは怒涛の攻め上がりを見せて他のウマ娘をごぼう抜きにする。そして最後は『疾きこと風の如し』のまま、突風の様に観客席の前を通り過ぎて行った。このウマ娘レース史に残る見事な追い込みを目撃できた幸せを噛み締めたい」

 

 だそうだ。このやたら煽情的な言い回しはきっと新城記者だろうと思ったらやっぱり新城記者だった。新聞記者も結構クセが出るんだねぇ。

 

「おー、ナズナ早いな、ヤル気だなぁ」

「あ、ツキバミさんの骨折は学校で噂になってたけど本当なんだね…」

 

 コロとカメが来たので2人に手に持っていた優駿タイムズを渡す。

 

「へぇ、この『風林火山』ってカッコいいね! 気に入っちゃった。リリィさんの『ふわふわ』みたいに私も《領域(ゾーン)》に名前付けようかな…? 『《領域(ゾーン)》風林火山』! ってカッコよくない?」

 

「あー、ズルいぞカメ! あたしも何か考える! えーとえーと… あの時は何だか全身が暖かい風に包まれた感じがして、そしたらグーンと力が湧いてきた気がするから… えーとうーんと… よし、あたしの《領域(ゾーン)》は『シリポプケレラ』にする! アイヌの言葉で『(あった)かい風』って意味だぞ!!」

 

 何か急に2人で盛り上がり始めた。カメは新聞のキャッチフレーズが余程気に入ったのだろう。コロは名前がコロボックルなだけあって、アイヌ繋がりで攻めてくるのか、カッコいいじゃん。

 

「なぁ、ナズナは? ナズナの《領域(ゾーン)》はどんな名前にするんだ?!」

 

 カメとコロ、2人並んで子供みたいにワクワクした目で私を見つめてきた。

 

「いや、そんなの考えたこと無いし…」

 

 引き気味で答える私に、あからさまにガッカリして失望の眼差しを向けてくる2人。あれ? これって私が悪いのか?

 

「しょうがないなぁ。じゃあダービーまでに考えておけよな!」

 

 今一つ状況が理解できないまま、コロに一方的に話を決められた。




公式さんでライブの動画を上げて下さっているので、こちらも是非ご覧下さい!
https://youtu.be/WEmFI9sYM-A?si=tDO_HwjUg4HQcOVC
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