【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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72R 初めての呟き

「お金かぁ…」

 

 10代半ばでこんなボヤきをしたくはないのだが、状況が状況だけに愚痴の1つも言いたくなる。

 お見舞いに来てくれた皆が帰った後の一人部屋、とても寂しい。更に1人でいるとネガティブな思考ばかりが浮かんできて、最終的には死にたくなってしまう。

 

 さすがにまだ死にたくは無いので、気持ちを上げる為の秘密兵器を手に取る。

 それは日本ダービー翌日のスポーツ新聞だ。レースの模様はどの新聞も大絶賛で、全ての新聞で『今年のベストレース確定』と囃し立てていた。

 

 1面はもちろん全て私。各紙の見出しも『スズシロナズナ偉大な一歩!』『前代未聞、横並びの芸術!』『青葉賞40年の悲願!』『最高のメモリアルレース』『泥濘の奇跡、青葉の刺客現る!』

 

 こんな感じで私の偉業を皆が称えてくれている。この辺は世界の中心に居るような気がしてとても気分が良くて、何度でも見直してニヤニヤしてしまう。

 

 返すがえすもあの横並びから抜け出せたのは運が良かったからとしか思えない。「ダービーは最も運のあるウマ娘が勝つ」は本当の話なのだろう。

 

 ただ2面以降になると雲行きもちょっと怪しくなってきて、『鬼気迫るライブに暗雲?!』『お騒がせ娘、また倒れる』『スズシロナズナ昏倒、怪我の影響か?!』『問われるウマ娘管理体制』

 

 なんて書かれ方をする。やはり観客の目の前のステージでぶっ倒れたのは良くなかった。せめて控室に戻るまで倒れるのを我慢出来ていれば、もう少し穏便なタイトルの記事にして貰えたかも知れない。

 

 私のスマホも倒れてから数日は各種通知が鳴り止まぬ状態だったらしい。とりあえず昏睡状態で面会謝絶だったこともあってカメが代わりに対応してくれていた。

 

「『#負けるなスズシロナズナ』かぁ…」

 

 何ともなしにウマッターを立ち上げてタグに沿ったタイムラインを眺めて見る。

 ウマッターに関してはアカウントこそ作ったものの、私は見る専門で自ら何かを呟く様な事はしてこなかった。

 

「ナッちゃんも一端(いっぱし)のレーサーなんだからアピールしないと駄目だよ」

 

 そうカメによく言われていた。でもネットで不特定多数に向けて何を言えば良いのかよく分からなかったんだよね。

 でもまぁ今回は沢山の人に心配かけたし、最低限の事くらいはしておくかな、と思い「スズシロナズナ、なんとか生きてます」とだけ打ち込んで送信した。私の初めての『呟き』だ。

 

 それだけやってトイレに立つ。1人で歩いてトイレに行くのが許可されているのはとても助かる。おまるや尿道カテーテルなんて事になったら、乙女の恥じらい的にとても辛い。

 

 用を足して帰ってきたらスマホがチカチカ点滅している。カメか誰かが反応してくれたのだと思っていたら、物凄い勢いで『ウマいね』とリウマートが回転している。その数5000ウマいね。わずか数分でだ。しかもまだ上がり続けている。

 

 同様に私宛のリプライも大量に届いており、とてもじゃないが目で追いきれない。

 あたふたしているうちに『ウマいね』は1万を超えた。私が生きている事について1万を超える人が賛同してくれていて、その数はどんどん増え続けている。

 

 これほどまでに応援してもらいながらも、復帰に向けて有効な手段が全く用意出来ていない事は慙愧の極みだ。

『何か、何か無いのか…?』と考えながら横になっているうちにいつしか眠りこけてしまっていた。

 

 ☆

 

 翌日、面会時間開始直後に慌てた様子でカメがやってきた。

 あまりにも興奮しているので、何とか落ち着かせて話を聞いて見ると今とんでもない事になっているらしい。

 

 順番に解説していくと、昨日カメが帰り際にスマホをいじっていたのは、私の手術費用の工面に関して何かいい案は無いかとリリィやスメラギを含む何人かに相談のメールをしたんだそうだ。

 

 エバシブから詳細を聞いていたリリィがここで暴走してくれた。あろうことか私の手術費用の事を自身のウマスタグラムで暴露してくれやがったのだ。

 

 人のプライバシーに土足で踏み込む絶交レベルのやらかしではあったのだが、ほぼ時を同じくして偶然にも私の呟きがトレンド入りした相乗効果で私の怪我の事やお金に困っている事が大きく拡散されてしまった。

 

 更にそのリリィのウマスタを見たグレートちゃんのお父さんが、今度は私の手術費用の為のクラウドファンディングを立ち上げてくれたのだ。

 しかも「言い出しっぺの義務」とかでいきなり200万円も支援してくれていた。

 

 曰く「私の家族はスズシロナズナさんに救われました。この御恩は金銭なんかでは到底お返しできる物ではありません。それでも今できる事は彼女の復帰の為にお金を出す事だと考えました。スズシロナズナさんの、そして娘の笑顔の為なら一戸建て用の頭金を崩す事など苦でも何でもありません」だそうだ。

 

 一応『詐欺ではない』と言う意味合いだろう、春ファンの時に撮った私と車椅子に乗ったグレートちゃんのツーショット写真がトップページに飾られていた。

 

 この事がきっかけで、今現在日本中から凄い勢いでカンパが集まっているらしい。目標金額は当初の不足分3000万円とされていたが、わずか一晩で800万程が集まっている。

 

 何それ怖い… そもそも手術を受けるかどうかも決まってなかったのに、手術する前提でお金を集められても困る……。

 

 いや確かに手持ちが無ければ「手術する」という選択肢そのものが無かったわけなのだが、仮に目標金額が達成されたとしても、私はどんな顔でそれを受け取れば良いのだろう? 皆の気持ちを受け取る資格が果たして私にあるのか…?

 

「あの、カメ… ちょっと話の動きが早すぎて…」

 

 私の言葉を遮るようにカメが自分のスマホ画面をこちらに見せてくる。グレートちゃんのお父さんが立ち上げたと思われる「ナズナ基金」と題されたクラウドファンディングのページ、そこに100万円の振り込みが終了した事を告げるメッセージが表示されていた。

 

「うちの両親から。ナッちゃんに潰れて欲しくない人が日本中に沢山いるんだよ?」

 

 いやでも… そんな… 私なんて… どうすれば……。

 

 違う。

 

 私は答えを知っている。私がターフに戻ってくる事こそがグレートちゃんのお父さんを始め、支援してくれる人達の望みなのだ。手術の成功率など知ったことか! 私は絶対に帰ってくる。そして『鉄人』スズシロナズナは健在だと吠えて見せる。

 その気概無くして何の為にウマ娘として生を受けたのか、だ。

 

「カメ… ありがとう。ご両親にもお礼を言っておいて。何かお礼が出来れば良いんだけど、私に出来ることがあるなら何でも言って…」

 

 カメへの感謝。それは今このカンパだけではない。同部屋になってからずっとカメには世話になりっぱなしだ。借りばかり作って居心地が良くないのは事実なのだ。

 

「…じゃあさ、怪我が治ったら私と走ろう。スズシロナズナ復帰第一戦の相手は私に務めさせて。あとリリィさんを怒っちゃダメだからね?」

 

 カメはにっこりと笑って私に挑戦状を叩きつけてきた。

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