【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
コースには既にカメとコロ、メル先輩、それに後から練習に合流してきたアモ先輩、各員のトレーナーが来ていた。チーム〈ポラリス〉全員集合じゃないか。先輩達も一緒に模擬レースするのかな?
「始めは今年デビュー組の3人だけでやるつもりだったけど、メルとアモも参加を表明してきたので全員まとめてレースをやるぞ。距離は1800m、すでにオープンクラスのメルとアモはハンデとして20kgのウェイト付きで走る。ビリッけつは今日のおやつ抜き、優勝者はビリの奴のおやつを賞品として与える。何か質問のある奴は?」
源逸さんが一気にルールをまくし立てる。1800mは私にはピッタリの距離だが、短距離が得意なカメと長距離が得意なコロには微妙にキツイ長さだろう。
尤も2人とも1800なら十分に実力を発揮できる距離だ。距離適正による有利不利はあまり関係ないかも知れない。
加えてメル先輩もアモ先輩も共に距離適正は私と同じ中距離型。こちらに差は無いが、2人は両手両足にそれぞれ5kgずつの
『適正距離』『荷重無し』と、もはや私の為とも言えるような条件で開かれるレースなのだからここは負ける訳にはいかない。
「ハイ! 今日のおやつは何ですか?!」
「うむ、甘口堂の『高級ふわとろにんじんプリン』だ。他に質問は? …無いな? では各自作戦会議してからスタートラインにつけ!」
コロの質問に答えた源逸さんの言葉でウマ娘一同に激震が走る。甘口堂の『高級ふわとろプリン』と言えば知る人ぞ知る名店の、しかも毎日売り切れ必至の人気商品じゃないか。
特に『にんじんプリン』はウマ娘用に開発された私達の為のスイーツで、にんじんの甘みが嫌味にならない程度にほんのりと活かされていて、それはもう一口ごとに幸せの味がする。それでいて低カロリーと言う、夢の様な幻の逸品だ。
それが今日のレースの賞品だと言う。しかも優勝者には2個のプリンが授与されるのだ。
これは何としても負けられない。今プリン2個に最も近い位置にいるのは私だ。絶対に他の娘に譲る訳には行かない。
源逸さんの言葉で気合が入ったのは私だけでは無い。先輩達を含む5人のウマ娘全員が闘志を漲らせている。この雰囲気は実戦さながらにピリピリした物だ。
今この場の私達は「同じチームの仲良しグループ」では無い。互いが互いをライバルとして『打ち勝つ存在』として認め合う競技者に他ならない。
「凄い… 一気に空気が変わりましたね…」
「ああ、正直俺もここまでとは思わなかった。甘口堂さまさまだな…」
「やれやれ、食べ物に釣られるなんてホント子供だな」
「あ、じゃあ目黒さんの分のプリンは私が貰って良いですか?」
「駄目に決まっているだろう!」
トレーナー達も半ば呆れて見ている様だが関係ない。ちなみに発言の順番はアイリス、源逸さん、目黒さん、きりさん、目黒さんだ。
私は指示を仰ぎにアイリスの元へ行く。
「昨日の負けを取り返すわ。作戦があるなら教えて」
私の本気にアイリスはやや引き気味だったが、やがて観念したように口を開く。
「まだ昨日の疲れが残っているはずだから無理だけはしないでね? プリンはまた買えるんだから。あとはそうね… 昨日と同じ様に『先行』で様子を見ましょう。恐らくメルが先頭に立つでしょうから、彼女をマークして離されない様にしつつ最後の直線に賭ければ、
「オッケー、分かった…」
私はそれだけ答えてスタートラインへと歩みを進めた。
『良かった』
アイリスの指示はほぼほぼ私の想定していた物と同じだった。ウマ娘とトレーナーの方向性が同じなら、安心してレースに臨めると言う物だ。
プリンは譲らないけどね。
各々のウマ娘が各々の作戦を携えてスタートラインに集結する。
1枠 アーモリー
2枠 メルヘンランド
3枠 スズシロナズナ(私)
4枠 オカメハチモク
5枠 コロボックル
ジャンケンで決まった枠順で全員がスタートラインに並ぶ。当然ながら練習場には私の嫌いなスターティングゲートは無いので、気分的にとても晴れやかだ。
「ナッちゃんには悪いけどプリンは譲らないよ」
隣のカメが挑戦的な視線で宣言してくる。
「カメには前の模擬レースで負けてるからね。今日はそっちのリベンジもついでにさせてもらうよ」
私も負けじと軽口を返す。今の時点で戦いは始まっているのだ。
「プリン… プリン… プリン…」
コロの呟きがここまで聞こえてくる。今のあの子は『執念の鬼』と化している。こんなに真面目モードなコロは過去見た事が無かった。
「アモちゃん、お手柔らかにね」
「いいや、プリンがかかっているなら私も本気で走るよ。メルだってそうだろ?」
コロを挟んで先輩2人の会話も、言葉は柔らかいが雰囲気はバチバチとやり合っている感じが身近に感じられる。
「では行くぞ。よーい、スタート!!」
源逸さんの合図とともに5人のウマ娘が一斉に駆け出した。