【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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76R 復帰戦に向けて

 術後の経過は今のところ良好で、手術の翌週にはグラウンドを軽く流す程度ではあるが走る事が許可された。

 

 医師からは神経の事なので多めに時間を取って、体に不調が出ないかどうかの確認を徐々にしながらリハビリを続けていく旨の説明を受けた。

 

 加えて《領域(ゾーン)》の使用に関しては『極力使用しないでくれ』との事だった。

 患部肥大と《領域(ゾーン)》の関連性は最新医学を以てしても不明なままだったのだが、『《領域(ゾーン)》を使う事で再発する可能性が否めない』からという理由らしい。

 

 私としては「善処します」としか言えないところが(いささ)かもどかしい。良場のレースしか出られないというのは、それはそれで困るのだ。

 

 私の復帰戦の時期に関してはアイリスも年明けを想定していた模様で、私がマイルチャンピオンシップの名を出した事に心底驚いていた。

 まぁ普通に考えれば、リハビリ明けすぐの状態でGⅠに挑むのは無謀すぎる。私だって他人がそんなスケジュールを組んだらツッコミのひとつも入れたくなるだろう。

 

 だが私も無茶は承知でマイルチャンピオンシップへの出場を決めたのだ。決して思いつきや冷やかしの気持ちではない。

 

 アイリスからは「私へのお礼のために無理なスケジュールで走るのなら、そんな考えは捨てて欲しい」とまで言われたが、これはアイリスへのお礼だけではなくカメやドキュウに受けた挑戦への返答でもあるのだ。

 

 最高の舞台で最高の勝負をする。このマイルチャンピオンシップを逃すと残す年内のGⅠはジャパンカップ(2400m)と有記念(2500m)のみとなり、長距離の苦手なカメとドキュウには大きなハンデとなってしまう。

 やはり諸々の状況を鑑みても復帰戦はマイルチャンピオンシップ1択である事は変わらないだろう。

 

 ☆

 

 さて、ここから私達が日本に帰国する10月の終わりまで、残念ながらアメリカ勢にイベントらしいイベントは無い。

 淡々とリハビリとトレーニングをこなして、少しずつ以前の能力(ちから)を取り戻そうと頑張っている私とアイリスがいるだけだ。

 

 なので激動 (?)の日本勢のイベントを時系列順に書いていこうと思う。

 

 まず合宿期間中にありながらアモ先輩がレースを走った。新潟レース場で行われたアイビスサマーダッシュ(GⅢ)だ。

 以前「今年は重賞は走らない」と公言していたアモ先輩であったが、何か思うところがあったのか急にGⅢを走っていた。

 

 このアイビスサマーダッシュというのはかなり風変わりなレースで、『コーナーの無い』直線一本1000mを競うレースになっている。

 レース開始直後に坂の昇り降りがあるが、そこから先はずっと平坦な直線勝負になるという何やらとても楽しそうで興味深いレースなのだ。

 

 アモ先輩はこのレースで3着だった。まぁ順位なんてどうでも良さそうな笑顔で走っていたから、それはそれは楽しいレースだったのだろう。

 

 8月は特に動きは無し。9月の第1週目にはエバシブの新戦が行われた。こちらも場所はアイビスサマーダッシュと同じ新潟で2000mのレースだ。

 

 聞いた話ではエバシブは脚は速いのだが、アルビノという健康面の問題に加えて生来の気まぐれな性格のせいで、調子の浮き沈みが激しくなかなかデビューのタイミングが掴めなかったそうだ。

 

 8月から新しく若い男性のトレーナーを雇って源逸さんから担当替えになったエバシブだが、今の所は大人しく新トレーナーさんに従っているそうだ。

 コロによるとエバシブの新しいトレーナーさんは結構な優男らしく、「あれは源逸(おっちゃん)より若くてイケメンだから言うこと聞いてるんだぞ」だそうだ。ホンマかいな?

 

 肝心のレース結果だが、自称『天才』は伊達ではなく新潟の長い直線をまるで1人で走っているかの様に、2着に堂々の6身差を付けてメイクデビューを飾った。

 イケメンパワーってやつ? ちょっとそのトレーナーさんに興味が湧いたかも… え? いつも硬派なナズナさんらしく無いって? まぁ発情期(なつ)だから勘弁して欲しい……。

 

 エバシブのデビュー翌々週にはスメラギがセントライト記念 (GⅡ 菊花賞トライアル)に勝利して、いち早く菊花賞への切符を手にする。

 

 更にその翌週にあった神戸新聞杯 (GⅡ 菊花賞トライアル)。去年私がツキバミの走りに圧倒されたレース、今年はリリィとイーグルが出走していたのだが、ここで事件が起こった。

 

 内ラチギリギリを走っていたリリィをマークしていたイーグルが垂れウマを避けようと斜行してリリィと接触、そのせいでリリィは内ラチに衝突、バランスを崩しつつなんとかゴールしたものの、順位は5着となり腕を負傷してしまう。

 反動で弾かれたイーグルも同様に減速、8着となりイーグルの連対率100%の伝説はここに終了した。

 

 レース後、痛そうに腕を押さえるリリィがやけに印象的だったが、後の報道でどうやら右肘を脱臼してしまったらしく、リリィは菊花賞への挑戦が難しくなったと聞かされた。

 イーグルはかすり傷だけだったようだが、まぁこっちはどうでもいいか。

 

 そして去年と同じく神戸新聞杯の直後にはオールカマー(GⅡ)が行われた。

 去年アモ先輩が力走を見せて優勝したレースに、今年は満を持してメル先輩が挑戦する事になった。

 

 目黒記念で手に入れた《領域(ゾーン)》とラブラブパワーの力で頑張って欲しかったのだが、こちらは初手から出遅れて先頭集団に追いつこうとするが前が詰まって抜けられず、終始良いところ無しのままメル先輩は11着に沈んでしまう。

 

 レースは水物、悪い事が重なるのはよくある事だが、今回のメル先輩はあまりにもツイてなかった。去年のアモ先輩の様にオールカマーから天皇賞 (秋)といったルートを考えていたのだと思うが、なかなかウマい事は起こらない様だ。

 

 10月に入り、私の体調もかなり回復してきた頃、秋のGⅠロードがスタートする。

 まずはドキュウがスプリンターズステークス(GⅠ 1200m)に優勝し、芝とダート両方のGⅠを制覇するというURA史上7人目の偉業を成し遂げた。

 

 本当はカメもこのスプリンターズステークスに出走予定だったのだが、私がマイルチャンピオンシップに出るつもりだと伝えたら、こちらをあっさりと棄権してマイルチャンピオンシップのステップレースであるスワンステークスへと乗り換えた。

 カメにとってはGⅠよりも私との決戦の方が比重が高いらしい。名誉な事だがそのプレッシャーはとてつもなく重い。

 

 カメとドキュウの決戦も見たかった気もするが、どうやらそれはマイルチャンピオンシップへ持ち越されるみたいだ。もちろんそこには私もメンバーに入っている。

 

 翌週はティアラGⅠ最後を飾る秋華賞。桜花賞とオークスの2冠を持つオオエドカルチャーの3冠が確実視されていたが、なんとクラッシックからティアラに路線を変更したセイバーが見事な逃げ切り勝ちで、昨年末から10カ月ぶりのGⅠ勝利を飾った。

 

 スタミナに不安のあるセイバーには菊花賞の3000mはかなり厳しいだろうと予想していたが、まさか路線を変更してくるとは思わなかった。

 

 最近成績の奮わなかったセイバーだが、マイル〜中距離にかけての逃げ足はやはり油断出来ない。

 いつもクールぶっているくせに、ゴール直後のガッツポーズと共に見せた笑顔は年相応に可愛らしいものだったとは言っておく。

 

 更に翌週は遂にクラッシックGⅠの最後を飾る菊花賞だ。

 当初はリリィとイーグル、路線変更したセイバー、そしてもちろん私を欠いた迫力的に見劣りすると思われたレースであったが、蓋を開けてみるとスメラギ、パッション、リンカイ、トッカンというレギュラーメンバーに加えて、リリィらのトラブルを尻目にちゃっかり神戸新聞杯を優勝していたフックトッシンまでもが参加する豪華幕の内弁当になっていた。

 

 そしてこちらもダービーに負けず劣らず熱い戦いを見せてくれた。京都レース場、スタートから2500mを走ってもなお突出したウマ娘は現れず、スメラギとパッションを筆頭にひと塊で5、6人が最終直線に飛び出した。

 残り100mで一瞬フックトッシンがトップに立つものの、ゴール直前でスメラギが差し返して見事ゴールイン。スメラギは遂に念願のGⅠ勝利を手にした。

 

 このタイミングでツキバミ陣営からツキバミの骨折からの全快が報じられ、年末の有記念からレースに復帰する旨が発表された。

 

 有記念はファン投票によって出走ウマ娘が決められる年末最後のお祭りだ。菊花賞と天皇賞の中間という、衆目の集まりやすい秋GⅠ前期の山場に発表する事で、ツキバミの存在感をアピールする作戦なのだろう。

   

 さて、菊花賞の翌週にはカメのスワンステークスと天皇賞 (秋)だ。カメは全く危なげなく勝利を飾り、天皇賞はトウザイ会長が2連覇を成し遂げた。

 

 勝利者インタビューに答える2人の顔は自信に満ちあふれていて、私の目にはどちらも「かかってこいスズシロナズナ!」と訴えているように見えた。

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