【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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79R マイルチャンピオンシップ(前編)

「本日のインタビューは『マイルチャンピオンシップ注目の5人』としましてGⅠホルダーの皆さんに集まって貰いました。まずは1番人気、クラッシック級にして芝とダート両方のGⅠを制したドキュウセンカンさん、続いて安田記念の覇者ブラッドハーレーさん、NHKマイルカップ覇者のオカメハチモクさん、昨年の朝日杯フューチュリティステークス覇者パッションオレンジさん、最後に本年度ダービーウマ娘にして半身不随寸前の大怪我から奇跡の復活を遂げた『鉄人』スズシロナズナさんです!」

 

 司会者の記者会見開始の挨拶から一斉にカメラのフラッシュが焚かれる。

 勝負服を着た5人のウマ娘が横一列に並び、マネキン人形の様に展示されている状態だ。

 

 ちなみにハーレー先輩の勝負服は、ボーイッシュなご本人とは対照的な真っ黒なゴスロリ、今まで言ってなかったがパッションの勝負服は、名前の通りオレンジを基調に青い縁取りをしたテニスウェアっぽい動きやすそうな服装だった。

 

 レース前の有力者インタビューとして用意された席ではあるが、集まった記者さん達の聞きたい事は私とアイリスのスキャンダルなのだろうというのは容易に想像出来た。

 

 実際記者さん方から上がってきた質問のほとんどは私宛てで、やれ「プラチナアイリストレーナーとは不仲だったと伺っていますが?」とか、「大怪我を放置した上にレースを強制したトレーナーにひと言お願いします」とか、「募金活動で結構(ふところ)が潤ったと聞いていますが?」とか直接レースに関係ない質問ばかりが飛び交っていた。

 

 いい機会なので、ダービーまでのレース強行は私が自分で主張して親とトレーナー込みで話し合った事、アイリスは必死に止めようとしていた事、1年前ならまだしも、今はアイリスを篤く信頼しており、担当トレーナーから離れても変わらず尊敬している事等を大きく主張させてもらった。

 

 あとついでに募金の余剰額は募金者への返礼品とさせて貰った事も言っておいた。ていうか、そんなの調べればすぐ分かる事なのにわざわざ訊いてくるのが性格悪いと言わざるを得ない。

 

 私の隣に居たカメもきちんとチームメイトとして私に同調してくれて、この場の雰囲気だけで言うなら、アイリス含め私達の身の潔白は証明出来た気がする。

 

 とりあえず上の質問してきた記者の所からの取材は今後NGとさせてもらおう。

 

 もちろんまともな質問もあった。「ドキュウからの挑戦をどう思うか?」とか、「長年苦楽を共にしてきた相棒のカメとの対戦にかける意気込みは?」とか、「次のレースは有記念ですか?」とかだ。

 

 ドキュウの挑戦に対しては「かかってこいやぁ!」であるし、カメとのバトルにしても「友達以上仲間でライバルですから」と春ファンネタで返した。

 有記念は… ふとイーグルの憎たらしい顔が思い浮かぶ。今は「出られれば良いな、とは思います…」としか答えられないよね。今日のレース結果でファン投票の内容も大きく変わってくるはずだ。

 

 ☆

 

 出走時間が近付いてきた。控室で私の隣りにいるのは、これまでの様にアイリスでは無く源逸さんだ。11月に入ってからはアイリスは正式にチーム〈プロキオン〉のトレーナーとして新人の娘の育成に当たっているそうだ。

 

 バタバタしていて、アイリスの送別会も出来ないままそれっきりになってしまっているので、アイリスが今どこで何をしているのかも分からない。

 何を書いて良いのかも分からないからメール等も送っていないし、アイリスからも連絡は来ない。

 まさかここ阪神レース場に来ている訳は無いだろうが、テレビ中継で私の走りを見ていてくれている事を願う。

 

 控室で柔軟体操をしながら、力の入り具合を確かめる。正直手術前の状態には戻せなかった。状態は9割に届いているかどうか、といったレベルだろう。

 

 しかも天候は快晴で足下も良場。《領域(ゾーン)》はまず期待できない。

 無い無い尽くしではあるが、これが今の私の精一杯だ。泣き言を言っていても勝率は上がらない。今ある手札で戦い切るしか無いのだ。

 

 何より気持ちで負けていては対戦相手にも失礼だ。今の全力を以てレースに勝つ! その思いで精神を統一させる。

 

「ナズナ、お前には苦労をかける… 15、6の娘が背負えるレベルを超えてるよな…」

 

 源逸さんの言葉は色々な物に掛かってくるのだろう。ダービーウマ娘たる者の力の誇示、大手術からの奇跡の復活、芝とダートの『ダービーウマ娘統一戦』、長きに渡るカメとの因縁対決、そしてマイルチャンピオンシップ寸前に夢破れた師匠(アイリス)の弔い合戦……。

 

「確かに物凄いプレッシャーを感じていますよ。でも今の私ならその重圧(プレッシャー)に押し潰される事なくレースを楽しめる気がします。アイリスが『走る楽しさ』を思い出させてくれたから…」

 

 源逸さんは微笑みながら頷いて「そうか…」と一言だけ答えた。

 

 ☆

 

 パドックへ向かう地下道で立ち止まり再度気持ちを集中させる。数多(あまた)のGⅠホルダーを前にして、今の私でどの様に戦うか? 脳内で最後のシミュレーションを行う。

 

 「ナッちゃん大丈夫? またどこか痛いの…?」

 

 立ち止まって考え事をしている姿が具合悪そうに見えたのか、通り掛かったカメが心配して駆け寄って来る。

 

「うん? あぁ大丈夫、ちょっと考え事をしていただけ。頭痛とかじゃないから心配しないで」

 

 私の返事にカメの表情が一気に明るくなる。

 

「もぉ、紛らわしい真似しないでよ。ほら、一緒にパドック行こう」

 

 カメは優しく私の手を取ると、地上の光の方へと私を導き始めた。

 

「ナッちゃん、『怪我が治ったら私と走ろう』って約束、守ってくれてありがとうね。あんなに苦しそうだったナッちゃんがレースに復帰出来た事、そして今日GⅠの舞台でナッちゃんと勝負出来る事が本当に嬉しいんだ…」

 

 夢を見る様な表情(かお)で嬉しそうに語るカメ。

 

「カメのご両親にも大金使わせちゃったからね。娘さんへの『お礼』は今までの模擬レースの分も含めてしっかり返させて頂かないと!」

 

 そう、過去の模擬レースでも私はカメに大きく負け越している。晴れのGⅠの舞台で思いっきりカメを負かして、これまでの借金をドカーンと一括返済したいのだ。

 

 そう言えばカメの家にも返礼品のデカナズナぱかプチが届いているはずだが、実家に置いたままなのか寮の部屋には置いて無かったな。

 まぁ自分の顔したぬいぐるみが近くにあるのは落ち着かないのでそれはそれで助かっているのだが。

 

「うふふ、それでこそナッちゃんだ。今日はナッちゃんにも、ドキュウさんにもハーレー先輩にも負けないからね!」

 

「私も話に混ざっていいだろうか…?」

 

 唐突に横から声を掛けられて、私とカメ、2人の息が止まる。現れたのは革の鎧の要所に鉄板を貼り付けた、私達より頭一つ大きい巨漢ならぬ巨娘、ドキュウセンカンだった。

 

「スズシロナズナ、まずは日本ダービー勝利おめでとう… あと怪我からの復帰おめでとう、私の言える義理ではないが…」

 

 何となくドキュウの口が重いのは、私の怪我の原因がドキュウと接触、転倒したからだろう。それできっと彼女は未だに責任を感じているのだ。

 

「ありがとう、ドキュウ。その話は去年の阪神でもう終わったはずでしょ。私は気にしてないからそっちも気に病まないで。それより芝とダートのダブルGⅠおめでとう。今日も良いレースにしようね」

 

 私の返答に少し頬を赤らめて照れた様な反応をするドキュウ、体つきはゴツいけど首から上は整った顔立ちをしている分、女の子らしい仕草をされるとこちらがドキリとしてしまう。

 

「そう言えばドキュウさんて夏から走り方を変えてますよね? あれ、すっごく良いと思いますよ」

 

 ちょっと変な雰囲気になっていた所を、カメがナイスなフォローで助けてくれた。

 

「あ、あぁ… 元々他の人の進路を塞ぐやり方は自分でも好きでは無かったんだ。それにグレードが上がると小細工も段々と効かなくなってくるからな。トレーナーに直訴して今のやり方に変えてもらったんだ…」

 

 照れくさそうに話すドキュウ。なるほどねぇ、彼女も彼女で色々迷ったり悩んだりしてたんだなぁ、と感心させられる。

 

「ハイハイ、狭い地下道で同窓会してないでね。ほらほら行った行った」

 

 パッションと仲よさげに一緒にやって来たハーレー先輩に押し出される様に、私達はパドックでの披露と本馬場入場までを終わらせる。 

 

 いよいよマイルチャンピオンシップ、その本番の始まりである。

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