【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
マイルチャンピオンシップで私に対して高らかに宣戦布告してきたカメだったが、普段の生活は今までと特に変わる事も無く「ナッちゃんナッちゃん」と事ある毎に世話を焼こうとしてくる。
あくまでも『生活は生活』『レースはレース』なのだろう。
まぁ下手にライバル心剥き出しでツンケンされるのに比べれば何百倍もマシだ。私も変に意識せずに生きていこうと思う。
特に2人で話し合った訳では無いが、次の勝負は恐らくヴィクトリアマイルか安田記念のどちらかだろう。
どちらに出るかで、出るレースを軸に来年の出走スケジュールを考えて行けば良い。その方が源逸さんにも相談しやすい。
☆
マイルチャンピオンシップの翌週は世界の強豪を招いて盛大にジャパンカップが行われた。
こちらはレース中の怪我が元で療養していたリリィが復帰第一戦としてエントリーしており、新聞や雑誌では大きく『お帰りなさいブラックリリィ』などと大きく報道されていた。
あれ? 先週の私の時にはこんな盛り上がった報道されてなかった気がするんだけど…? うん… 考えると腹が立つからやめておこう。
さて肝心のレースだが、リリィ他日本勢は奮闘したものの、今年のベルリン大賞を獲っているドイツのバラタックというウマ娘が優勝を果たし、リリィは2着と惜敗してしまった。
やはりリリィといえど世界の壁は厚い、という事なのか?
よく見たらリリィは最終直線で例の《
《
12月に入ってすぐ、東京レース場でエバシブがプレオープンの葉牡丹賞に出走した。今度は私もきちんと応援した為か、エバシブもやる気を出して2番手に3馬身差を付けての快勝、見事オープンクラスに昇格した。
また、エバシブの1時間後にはアモ先輩がステイヤーズステークス(GⅡ 3600m)に出走していた。
実に東京レース場を2周する平地の最長距離重賞。アモ先輩も頑張って走っていたが、やはり距離適性の壁は高くアモ先輩は7着に沈んだ。
まぁ今年のアモ先輩は、勝敗を度外視して短距離からダートまで色んなレースを実体験する事が目的らしいから、その集大成としての今日があるのだろう。
そしてアモ先輩はレース後に今年限りの引退を表明した。「やりたい事を思っきりやれて満足した」からだそうだ。
正直今でもアモ先輩なら、もっとセオリー通りきっちりスケジュールを組んでいれば、ツキバミ不在もあってGⅠのひとつくらいは獲得出来ていたのではないかと思う。
返す返すももったいない話だが、アモ先輩の決めた道だ。これ以上の野暮はやめよう。
アモ先輩の話が出たついでに、チーム〈ポラリス〉の他のメンバーの来年の予定を書いていこうと思う。
私とカメとコロの3人は順当にシニア級に上がる。カメの最初の目標は高松宮記念(GⅠ、1200m)だろう。
コロはまだ本格的に走るまで回復していない。屈腱炎は再発しやすいので、源逸さんも慎重にコロの療養に付き合っている。「秋のオールカマーや毎日王冠くらいに間に合えば良いね」みたいな話はしていた。
エバシブはクラッシック級… の前に、葉牡丹賞の勢いのまま年末のホープフルステークスに挑戦する予定だそうだ。もしそうなら去年の私の雪辱を果たして欲しい所だ。
アモ先輩は卒業後、大学に進学して本格的にトレーナー勉強を始めるそうだ。
アモ先輩は自分自身のトレーニングのカリキュラムやスケジュールも自前で揃えていた人だし、今年のレースで短距離、長距離、ダート、直線と色々なレースを走ったから、『実践』という意味ではかなりの蓄積されたデータがアモ先輩にはある。
アモ先輩なら案外簡単に学園に帰ってくるんじゃないかな? もちろんトレーナーとして。
メル先輩も今年でトゥインクルシリーズを引退して、春から実業団に所属して社会人レースに進むそうだ。GⅡを獲得しているメル先輩、実はすでに推薦で就職に内定をもらっているらしい。
愛しの目黒トレーナーから「卒業したら交際を考える」と言われていたから、メル先輩としては一刻も早く卒業したいのだろう。
女性として気持ちは分からないでも無いが、男に縁のない身分からすると『勝手にしやがれ』と思わないでもない。
私の来年は… カメとの約束もあるけど、海外遠征とかちょっと憧れている。具体的にいつどこにというのは全く考えていないが、まぁ年が明けたら源逸さんに相談してみようかな…?
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そしていよいよ年末の大イベント有馬記念のファン投票の結果が発表された。
ツキバミとリリィが僅差のトップツー、更にドキュウ、トウザイ会長、私、スメラギ、カメ、ケイヨウブロンコ、オオエドカルチャーと続く。更にブラッドハーレー、セイバー、レーザーディスク、イーグル、パッション、トッカン… という順位だ。
ドキュウが3位なのはウケるけど、あの娘ただでさえ目立つし、芝とダート両GⅠ制覇なんて記録的な芸当もやっているから、妥当な評価と言えるんじゃないかな?
GⅠを2勝したカメよりも私の方が得票数が多いのは、やはり日本ダービーというレースの知名度の大きさだろう。
その票数およそ12万票。現在の私のファン数57000に倍する人達が「有馬記念を走るスズシロナズナが見たい」と言ってくれているのだ。気合が入らない訳が無い。
「ファン投票はナッちゃんの勝ちかぁ。それに私には2500mは長すぎるから、残念だけど有馬記念はパスだなぁ…」
口調の割にはカメの呟きに悔しさは感じられない。彼女の視線はすでに来年に固まっているので、『年末の
カメの有馬記念辞退は寂しいけど、カメは短距離〜マイルが主戦場だ。上記の上位順位者の中でも、長距離に不向きなドキュウやセイバーはカメと同様に辞退してくると思われる。
「それよりも遂にツキバミさんと直接対決だね! ツキバミさん、リリィさん、会長さん、そしてナッちゃん… うわー、豪華すぎて目眩がするよ! ナッちゃん頑張ってね!」
興奮しながら1人1人のウマ娘の名を挙げていくカメ。
確かに雲の上の存在だった『常勝不敗』ツキバミや、春ファンでお世話になった『秋天2連覇』トウザイ会長と遂に同じ舞台に立てるという訳だ。
今度は体育館の車椅子レースではなくて、中山レース場の芝の上で思いっきり勝負が出来る。
もちろんこの2人だけではない。皐月賞のリリィ、ダービーの私、菊花賞のスメラギ、今年は3つに分かれたクラッシック3冠の統一戦の意味もある。
リリィもスメラギもダービーの頃より速くなっているに違いない。同期同士のあのヒリつく感じのレース展開は、クセになってしまう程に熱くて楽しくて、最高にハイになる。
同期と言えばイーグルとの約束も果たせそうだ。あの娘には散々因縁つけられたけど、今にして思えば全てが楽しい思い出だ。彼女とはこれから何度も楽しいレースが出来るだろう。
パッションやトッカンといった『イツメン』も居るし、ハーレー先輩ともまた対決出来る。ケイヨウブロンコやレーザーディスクといった大ベテランの先輩達との対決も楽しみだ。
「うん、私も今、かつてない程にドキドキワクワクしているよ… これからもさ、こんな風に楽しく走って行けたら良いよね。カメも一緒に!」
「え? それってプロポーズ…?」
カメがまた何か勘違いして嬉しそうに抱きついてきた。この娘ともこんな感じでこれからも日々を過ごしていくのだろう。
☆
「ナッちゃん、グッドニュースだよ。なんと有馬記念当日の降水確率は『90%』です!」
レースを明日に控えた夜、カメがスマホの天気予報を見ながら報告してくれた。
雨か… 或いは雪や
そう、私の《
マイルチャンピオンシップから今日までに出来る事は全てやってきた。体調も万全だ。後は全力でぶつかってツキバミを、リリィを、会長を、その他全員を抜き去るだけだ。
リリィに『勝ちたい!』、会長に『勝ちたい!』、そしてツキバミに『勝ちたい!』 そしてそれを明日中山レース場に集まるであろう10万の観衆の前で『見せつけたい!』
記憶にも歴史にも残る『熱い』戦いを通して、スズシロナズナというウマ娘の生き様を世に知らしめてやるのだ。
私にはそれが出来る。出来るはずだ。出来ると信じている! これは記念出走でも玉砕覚悟でもない。
私は私の力でレースを走り抜く。この鍛えた体と『