【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

88 / 93
エピローグ

 スズシロナズナというウマ娘は極めて不思議な娘だ。

 デビューからクラッシック級の終わりまで1年半の彼女の戦績は9戦3勝。そう、わずか『3勝』しかしていない。クラッシック級に限って言えば2勝のみだ。

 

 数字だけ見ればスズシロナズナは決して強いウマ娘ではない。しかしその2勝の中身が「日本ダービー」と「有記念」となれば俄然話は変わってくる。

 

 日本ダービーでは前人未到の青葉賞からのトライアルで、レース史に残る横一線の大激走を制した。

 そして有記念ではデビュー以来10戦全勝のツキバミ、『最強伝説エクリプス』に最も近い存在と言われるウマ娘を(くだ)して、見事『最強』の称号を奪い取った。

 

 その日は師走(しわす)とは思えない程に妙に(ぬる)い日で、朝から雨が降っていたが春雨の様に心地よいとさえ思える天候だった。

 

 足元の悪い中、誰もがツキバミとブラックリリィの一騎打ちを予想していた。

 だがそこに割って入ったのはスズシロナズナ。逃げるツキバミを追い、後ろからはブラックリリィが迫ってくる状況。

 

 猛スピードで追い上げてくるブラックリリィに追い抜かれそうになった瞬間、スズシロナズナも猛加速を見せる。

 まるで日本ダービーの再演の様に横に並んで2人のウマ娘が直線を走る。

 

 そして2人は遂に単身で逃げていたツキバミを捉えた。過去にツキバミがここまでのリードから差された前例は無い。

 

 猛追を受けるツキバミも更なる加速を見せるが、後続の2人はそれ以上に速かった。

 スズシロナズナとブラックリリィ、2人はゴール直前でツキバミを(かわ)し、紐で繋がれているかの様に2人仲良く並んでゴール板を駆け抜けた。

 

 ダービーを思わせる長い審査時間の後、ハナ差で1着になったのがスズシロナズナだったのだ。

 

 そこにいたのは、かつて飢えた野獣の様に勝利を渇望していた痩せっぽちの雑草ウマ娘(なずな)ではない。

 神々しいまでの(オーラ)を纏い、実力に裏打ちされた自信から放たれる歓喜の笑顔は、まさに見る者を魅了する女神の様であった。

 

 そしてスズシロナズナは本年度の最優秀クラッシックウマ娘に選出され、同時に年度代表ウマ娘にも選ばれる。名実共に『日本一』となった訳だ。

 

 皐月賞の先頭からの逸走と失格、昨年の事故からの怪我の再発、青葉賞から日本ダービーを獲ったジンクス破り、先頭から7着まで0.5秒という大混戦の日本ダービー、成功率7割という難手術の超克、マイルチャンピオンシップでの盟友にしてライバルのオカメハチモクとの激闘、そして有記念で見せた『巨人殺し(ジャイアントキリング)』……。

 

 本年度の戦績だけで言うならばスズシロナズナを超えるウマ娘はゴマンといる。しかしこれだけの事件(イベント)を起こした人物であるならば、年度代表ウマ娘に選ばれるのは至極当然と言えよう。

 実際選考委員の中でもスズシロナズナの年度代表ウマ娘は満場一致で決定されたそうである。

 

 実は有馬記念当日の中山レース場で、偶然スズシロナズナの前トレーナーであるプラチナアイリス氏を見かけ、取材をお願いしてみた。

 

 取材を快諾してくれたアイリス氏は、かつての教え子であるスズシロナズナの事をとても嬉しそうに語ってくれた。

 

 有記念でツキバミを破ったスズシロナズナの実力の程を聞き出そうとした際に色々と語ったアイリス氏、その中で特に印象に残った言葉は「強い子はどうやっても強いんです。ナズナは『強い子』なんですよ」であった。

 

 今は別のチームで後進の指導に当たっており、いずれはスズシロナズナへ挑戦させたいと意気込むアイリス氏の目は、イタズラを企む子供の無邪気さと残酷さを兼ね備えており、アイリス氏自身の持つ美しさと(あわ)せて、私に畏怖心すらも抱かせる物だった。

 

 来年以降もスズシロナズナは走り続けるだろう。ツキバミやブラックリリィ、他のライバル達との戦いもまだまだ始まったばかりだ。

 

 師匠であるプラチナアイリスの育てた刺客も後ろから迫ってきているし、一部では海外への遠征を考えているとも噂されている。

 

 これからも『鉄人』スズシロナズナから目が離せない期間が続きそうだ。

 そしてそれは我々にとっても何物にも代え難い至福の時間であると断言できる。

 

 スズシロナズナの未来に光があらんことを! 是非また我々に新たな奇跡を見せてくれる事を切に願う。

 

 

 文責  優駿タイムス  新城勇吾




あとがき
 作者のちありやでございます。「MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー」お楽しみ頂けましたでしょうか?

 本作を書く切っ掛けになったのは言うまでもなくアプリゲームの「ウマ娘プリティーダービー」にハマったからでありますが、ゲーム中のイベントとしてたまに出てくる『夢に破れた』『夢を諦めた』ウマ娘達に光を当ててやりたかった、という面があります。

 スターウマ娘の影でひっそりとマイクを持つ事も許されずに、たった今自分を負かした相手の為にバックダンサーをしなければならない。
 本作中でも度々触れていますが、楽曲の「Make debut(メイクデビュー)!」に秘められた闇の深さに気付いてしまったのも執筆の原動力にもなりましたね。

 本作の基本コンセプトは「モブウマ娘が雑草の様に踏まれても踏まれても立ち上がる」というスポ根ものでして、本来はGⅠを勝つどころか参加すらさせてもらえないレベルの娘達(本編で言うならアモやメルの立ち位置)のお話でした。

 ですが、ライバル(リリィ)が勝ち進んだ時に『勝てない主人公』だと挑戦する事すら不可能になってしまうんですな。
「これはいけない」という事で当初は予定になかったGⅠ戦線での戦いをナズナは強いられる事になりました。

 本来のテーマからは外れてしまいましたが、いつまでも未勝利戦や条件戦を勝ったり負けたりしていても地味なだけで面白くないし、条件戦でフラフラしているライバルと激闘しても『こいつら低いレベルで何を遊んでるんだ?』となりそうなので、思い切って路線を変えた次第です。

 なんだかんだで20万文字以上も続けられてこれたのは、読者の皆様の応援のおかげです。皆様の上げてくださるPV数にとても励まされました。ありがとうございます。

 とりあえず次のウマ娘小説もボチボチ考えております。また新作でお会いできたら幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。