【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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おまけ
番外編 大歌謡祭(前編)


「新春ウマ娘大歌謡祭」

 

 年が明け、世代ごとの最優秀ウマ娘や年度代表ウマ娘の発表から半月程を空けた第3週に、新年度のレースが開催される直前の東京レース場にて行われる、ウマ娘だけの歌謡祭がある。

 

 ジュニア級、クラッシック級、シニア級からそれぞれ好成績を修めた18名のウマ娘が集められ、一大ステージと化した東京レース場で10万人のお客さんを前に歌と踊りを披露するのだ。

 これはテレビでも全国生中継されて視聴率は毎回50%を超える大人気イベントでもある。

 

 昨年はチーム〈ポラリス〉からの出場者は無かった(アモ先輩は選出されたが《領域(ゾーン)》後の体調不良から辞退)ので、私は弥生賞と《領域(ゾーン)》の解明に集中する為にまるっとスルーしていたが、今年の私は『年度代表ウマ娘』としてVIP待遇で招待されているんだ。エッヘン!(笑)

 

 毎年恒例である「新春ウマ娘大歌謡祭」の基本的な流れは、冒頭にトゥインクルシリーズでメイクデビューを果たした全ウマ娘の中から、勝ち負けに関係なくアトランダムで選出された72名による「GIRLS' LEGEND U」が歌われて祭りの開催を告げる。

 

 これは大昔に行われていた「グランドライブ」という、現行のウイニングライブとは異なるライブ形式の再現であるらしいのだが、詳細はよく分からない。

 グランドライブは10年近く前に有志により復活したものの、その志の高さと収益が反比例してしまいコストパフォーマンスの悪さから数年で廃れてしまったらしい。

 

 現在はその『ウマ娘は全員が主役である』というグランドライブの想いだけでも受け継ごうと、歌謡祭の頭には毎回「GIRLS' LEGEND U」が歌われている。

 

 その後に選抜されたジュニア、クラッシック、シニア各級の代表が1曲ずつステージを披露するのだが、この時に使用する楽曲は各最優秀ウマ娘に決定権がある。

 一応レースの勝利者に敬意を表す意味で『GⅠ使用の曲は避ける』のが通例ではあるのだが、そのGⅠレースの勝者が呼ばれる催しでもあるので、その辺は割と適当だったりする。

 

 そしてイベントの最後に3人の年度ごとの最優秀ウマ娘をセンターに据えて「うまぴょい伝説」が大合唱されて大団円となる。

 以上が「新春ウマ娘大歌謡祭」の概要である。

 

 ☆

 

「ナッちゃん、早くクラッシックメンバーの楽曲決めないとダンスの練習も出来なくなっちゃうよ?」

 

「うー、分かってるよぉ…」

 

 カメにせっつかれて頭を抱える。使用楽曲選択の権利という大いなる栄誉を得たものの、候補が100曲近くもある中で1曲を決めろと言われても悩んでしまう。

 

 ジュニア級とシニア級は既に使用楽曲が決定しており、あとは私達クラッシック級からの申請待ちのみとの事で、この件については大変申し訳なく思っている。

 

 ちなみにジュニア級はデイリー杯ジュニアステークス(GⅡ)とホープフルステークス(GⅠ)を勝利して最優秀ジュニア級ウマ娘となった『フォーゲルフライ』ちゃんがセンターとなって、「We are DREAMERS!!」という『仲間やライバルとの切磋琢磨の楽しさ』をテーマにした可愛らしい曲を歌うそうだ。

 

 余談だが、昨年末にホープフルステークスを走ったエバシブもジュニア級選抜メンバーの末席に入っている。ホープフルステークスは5着と惜しい結果になったが、トレーナーの家守峠さんによれば、また悪い癖が出て本気の走りが出来なかったらしい。私も大概面倒な性格だと自覚しているけど、エバシブ(あの娘)は特級に気難しい娘だと思うわ……。

 

 シニア級代表はもちろん『ツキバミ』。3年連続で最優秀ウマ娘という快挙も成し遂げた。

 怪我による途中退場はあった物の、今年GⅠを2勝しているシニアウマ娘は彼女だけなのだ。あとは安田記念のハーレー先輩と天皇賞(秋)のトウザイ会長、ヴィクトリアマイルのヤマノテレディー、高松宮記念のヘラクレスビートがGⅠを穫っただけで、ジャパンカップを除く残りのGⅠは全て私達クラッシック級が穫ってしまっているのだ。

 

 この結果は誇らしくもあり恐ろしくもある。激強の先輩達とガチンコ勝負して次々と1着をもぎ取っていく、如何に今年のクラッシックウマ娘達が化け物揃いなのかお分かり頂けると思う。

 

 地方レースを含むGⅠダートレースに関してはクラッシック級はドキュウ以上のレベルの娘がいなかった為か、クラッシック級は無冠(クラッシック限定のジャパンダートダービーは除く)であった。

 そのせいか、今回の歌謡祭のシニア級メンバーはダート勢の方が芝勢よりも多い構成になってしまっていた。

 

 上記のGⅠホルダーの他にも目黒記念 (GⅡ)覇者のメル先輩を始めとする聞き覚えのあるメンツが多数選出されている。

 

 シニア組で使用する楽曲は「BLOW my GALE」。走りを極めて更にその先へ進め、という戦闘的な曲だ。去年のクラッシック級もこの曲を歌ったらしいので、ツキバミは個人的にこの曲が好きなのかも知れない。

 

 クラッシック級から選出されたメンバーは、私を筆頭にリリィ、カメ、ドキュウ、(オオエド)カルチャー、スメラギ、セイバー、イーグルといったGⅠのホルダーを始めとして、GⅡやGⅢで活躍した娘達だ。

 

 一応屈腱炎で療養中のコロも青葉賞 (GⅡ)覇者であり、メンバー候補になってはいるのだが、あまり激しいダンスの楽曲だと怪我に響く恐れがあるので、その面も考慮して曲を決める必要がある。ここでコロの怪我を理由に仲間外れにするのは可哀想だしね。

 

 シニア級に上がって次のレースを控えている面々ばかりなので、みんなで集まって歌やダンスのレッスンをする時間も満足に取れない。事前に18人全員が集まる事はまず無理だろう。

 

 なので私の所に色んなチームから「早く楽曲を決めろ。練習する時間が更に減るだろ」との矢の催促が来るわけだ(特にスメラギやイーグルから)。

 

 クラッシックメンバーで歌う曲の選定、「うまぴょい伝説」のレッスン、私の次走予定は2月半ばの京都記念 (GⅡ)でその為のトレーニング、そして学業と目の回る忙しさ。これで歌う曲が決まったら、更に最優先でその曲のレッスンが加わる。

 いかん、本当に目が回ってきた……。

 

「ねぇカメ、なんかこう今のコロでも普通に踊れて、それでいてインパクトのある曲って無いかな?」

 

 楽曲リストとのにらめっこに疲れた私は、目をマッサージしながら背中合わせで机に向かって勉強しているカメに相談してみた。

 

 お互い背中合わせだから表情は分からないし、それ以前に聞いていたかどうかも分からない。それでも直後に「う〜ん…」と返ってきた辺り、カメはちゃんと聞いてくれていたらしい。

 

「…今のコロちゃんの回復具合なら、よっぽど踊りが激しい曲じゃない限り大丈夫だと思うけど、私もあんまり激しい曲は得意じゃないから踊りの易しい曲が良いなぁ」

 

 いかにも「私、のんびり屋さんなので」みたいに言ってるが、カメの専門とする短距離/マイルの楽曲は激しいダンスを特徴とする「本能スピード」じゃないか。あの曲をバッチリ踊れる奴が「踊り得意じゃない」とか言うなよな。マイルチャンピオンシップの時にすぐ横で見てたんだからな。

 

 まぁそれはそれとして、私もダンスはあまり得意じゃない。覚えたダンスを踊るのはまだ良いのだが、頭が足りなくて振り付けをなかなか覚えられないのだ。

 となるとやはり難易度の高いダンスは避けたい。練習時間が限られているので尚更だ。

 

「歌う順番も重要だよね。今年はクラッシック級から年度代表ウマ娘が出たから、順番はジュニア級、シニア級、クラッシック級になるでしょ? つまりロック調のBLOW my GALEの後に聞いて印象に残る曲にしなきゃダメ。だから可愛い路線で行くか、元気路線とかしっとり路線とか… ナッちゃんはどうしたいの?」

 

『どうしたい』かを自分でも決めかねているから悩んでいるんだよなぁ… うー、こういう責任を伴う決断は女子に任せちゃ駄目なんだよ……。

 

「…漠然となんだけど、普通のライブみたいにトップ3人で歌う感じじゃなくて、みんなで歌える方が良いかな? って思ってる。一応最優秀ウマ娘になったのは私だけど、カメには勝ててないしリリィやスメラギに対しても『勝った』って気持ちには乏しいんだよね。私達の世代ってみんな凄くて速くて… 私1人でスポットライトを浴びるのは何か違うよなぁって……」

 

「ナッちゃん…」

 

「でも『皆で歌う』ってなるとやっぱり「GIRLS' LEGEND U」になるけど、それはオープニングで歌われる訳だし、せっかくの歌謡祭で曲を被らせるのもサービス足りないじゃん? だから悩んでるんだよ…」

 

「……」

 

「そして更にせっかく年度代表ウマ娘になれたんだからさ、そこら辺を誇れるような、『わたし頑張ったんだよ!』的なメッセージも入れたいなぁ、って…」

 

 いつの間にかカメがこちらを向いてジト目で私を見ていた。それでいて口元がωみたいな形になっていたところを見るに、何か妙案を思いついた様だった。

 

「ナッちゃんはホント欲張りさんだよねぇ、知ってたけど。…じゃあさ、コレなんかどう?」

 

 カメがクリティカルに指し示した楽曲リストの一点に、私の目は釘付けになってしまった。

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