【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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真エピローグ

 20XX年9月下旬、俺は中京レース場にウマ娘のレース観戦に赴いていた。目当ては第11レース、当時『伝説(エクリプス)』の名を引き継いだと噂されていたツキバミの神戸新聞杯 (GⅡ)だ。

 

 無敗の2冠ウマ娘、そして3冠確実視、クラッシック級にありながら当代最強とまで言われたウマ娘の菊花賞トライアルを、是非ともこの目で見たかったのだ。

 

 そしてその日、俺は『彼女』と運命の出会いをした……。

 

 昨夜から小雨が降り続き場の荒れた中京レース場、その第3レースである未勝利戦での事だ。

 レース中に足を滑らせた『彼女』が転倒、大惨事が予想されたが『彼女』は健気にも立ち上がり、右腕を押さえて歩きながらも独力でゴールした。

 

 俺はそんな『彼女』の姿に感動して、我を忘れる程に大きな声援を上げていた。「頑張れ!」「もうちょっとだ!」と……。

 

 その日の事はそれ以外あまり記憶に残っていない。あれほど楽しみだったツキバミのレースすらも「あれ? 確か勝ったんだよね?」程度しか覚えていなかった。

 

 それほどまでに『彼女』の衝撃(インパクト)は巨大だった。俺はその日のうちにツキバミから『彼女』に担当(推し)を変えた程だ。

 

 それから『彼女』の出るレースを追い掛けて、東京や兵庫のレース場にもしばしば足を運んだ。

 

 クラッシック級の『彼女』はダービーや有記念等、いずれも歴史に残る熱い名勝負を見せてくれた。

 

 一方シニア級の『彼女』は何とも評価し難い凸凹な成績だったと言える。

 まぁ4年目のツキバミや同期のブラックリリィ、スメラギレインボー等に囲まれて突出した成績を出せ、というのも酷な話ではあるのだが、シニア級の『彼女』はとにかく勝てなかった印象がある。

 

 年度始めの京都記念では多数のマークから抜け出せずに、群に呑まれたまま10着、ツキバミやリリィ等因縁のライバルが勢ぞろいした大阪杯では8着と掲示板を逃す結果となった。

 

 春の天皇賞は回避し翌月のヴィクトリアマイル (GⅠ)に出場、高松宮記念 (GⅠ)を勝って絶好調の、これまた因縁のオカメハチモクとの決戦。ここで2人は雨の府中の直線を彼女達だけの舞台(ステージ)にした。

 抜きつ抜かれつの大接戦、ハナ差で『彼女』は勝利をもぎ取る。このレースは3着以下のウマ娘を大差で置き去りにした、堂々たる『頂上決戦』だった。

 

 続く宝塚記念 (GⅠ)は、日本ダービーで惜しくもフォーゲルフライにアタマ差で2着となった、ハピネスシアターという15番人気の無名なウマ娘が、並み居る列強を押し退けてGⅠ初勝利という大荒れに荒れた展開になる。

 

 その時の『彼女』は3着だったが、ハピネスシアターの担当トレーナーがかつての自分の担当トレーナーだった事に大きなショックを受けたと後日取材に答えていた。

 

 ここでチーム〈ポラリス〉から『彼女』の海外遠征が発表される。目指すはフランス、パリのロンシャンレース場「凱旋門賞」だ。

 夏季強化合宿を半分で切り上げて渡仏した『彼女』は、10月の凱旋門賞までの期間で、必死に鍛錬と調整に励んだらしい。

 

 そして凱旋門賞当日は例年通り『雨』。

 これまで凱旋門賞に挑戦してきた日本ウマ娘はその重たい場に苦労させられて来たが、『彼女』は重場を苦にしないどころか、雨のレースでことごとく勝利を手にしている。そんな『彼女』に俺を含む日本のレースファンは多大な期待を寄せていた。

 

 凱旋門賞は世界中からトップのウマ娘が集い、世界中の注目が集まる、文字通り『世界一』のレースだ。

 

 そこで『彼女』は世界一になった……。

 

 雨の中、泥飛沫を上げ、泥飛沫を浴びて走った世界最高峰20人のウマ娘。その中で中団からの怒涛の追い上げで、1番に勝利線を駆け抜けたのが『彼女』だったのだ……。

 

 日本ウマ娘界の悲願、凱旋門賞勝利。日本中がこの話題に湧いた。ウマ娘レースに興味のない人間もこぞって『彼女』の勝利を祝福したものだ。

 

 それまで『彼女』は『鉄人』の二つ名で呼ばれていたが、凱旋門賞以降は『龍神の巫女』と呼ばれ出す。

 勝つ時はいつも雨、雨を司る龍神の加護を受けているから。なんて理由らしいが、俺は『鉄人』の方が好きだった。

 

 「雨の時は世界トップレベル、晴れた時はGⅢレベル」と揶揄されながらも、まさにその通りの戦績を残して『彼女』は走り切った。

 

 その後『彼女』はトゥインクルシリーズからドリームトロフィーリーグに進んだが、面白い様に雨の日は勝ちまくって晴れた日は大負けも珍しくなかった……。

 

 ☆

 

 俺が『彼女』と出会ってからもう30年近くになる。当時モラトリアム学生だった俺も結婚して、とても元気で可愛らしい、走る事が大好きな娘が生まれた。

 

 その娘は今、トレセン学園で大きな夢を叶えるべく頑張ってトレーニングに励んでいる。

 本格化が遅れたせいで、同級生のほとんどはすでにクラッシック級らしいが、ついに娘のデビューも決まったそうだ。

 

「デビューは中京レース場だからお父さんも絶対に応援に来てね!」

 

 電話口の娘の誇らしげな声に俺の目尻も下がってくる。

 

 そして娘のデビュー当日、俺は出走表を見て固まってしまった。

 9人立てのレースで娘は4番人気、そして1番人気の娘の名前には見覚えがあった。

 

 俺の応援していた『彼女』はレース引退後、数年スポーツキャスター等をしていたが、やがて一般人男性と結婚して芸能界からも引退した。

 そして今から約2年前、『彼女の娘』がトレセン学園に入学したと小さくニュースになったのだ。

 

 俺の娘と『彼女の娘』は学年は1年違うが、レースは同期になる……。

 

 いやはや… 我が娘よ、ツイているのかいないのか父には分からないが、とんでもなく強い(であろう)ライバルに対しても、気持ちで負けずに君も自分の夢を掴んで欲しい。

 

 勝っても負けても悔いの無い青春を送って欲しい。怪我や病気に気を付けて、願わくば君が夢を追い()ける中で、『彼女』がそうしてきた様に、君を応援する人達に勇気と希望を与えて上げて欲しい。

 

 ウマ娘の君にはきっとそれが出来るのだから……。

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