鉄血紀オルガゲリオン シト新生   作:axois

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第伍話 雨、落とし前

 


 

 

「どうして私の命令を無視したの?」

 

 ミサトさんの声が室内に冷たく響く。

 使徒との戦闘の後処理も落ち着いて休憩室にたむろっていた俺とミカに対し、ツカツカと寄ってきた彼女の開口一番がそれだった。

 

「貴方達の作戦責任者は私でしょ?貴方達には私の命令に従う義務があるの。分かるわね?」

 

「それが、納得の出来ない命令でもか?」

 

「……そうよ。」

 

 俺の言葉にミサトさんは一瞬たじろいだものの、すぐにキッパリと言い放った。だがこちらにも言い分というものがある。生憎、はいそうですかと簡単に引き下がれるほどの度量は持ち合わせていないのだ。

 

「無能な指揮のせいで、俺たちを危険に晒した。」

 

 パレットライフルの斉射の件もそうだが、それ以降の彼女の指示の遅さ、指示内容の大雑把さに、俺は苛立ちを覚えていた。

 そして何より、彼女が安易な撤退を選択し、敵の後手に回るという不利な状況を作り出さんとしたことに腹を立てていた。逃げるべき時は逃げる。だが、それは手の打ちようがなくなった時の最後の手段だ。

 

「──この落とし前、アンタどうつけるつもりだ?」

 

 俺の言い方に腹を立てたのか、ミサトさんが声を荒げる。

 

「あんたねぇ、何でも適当に落とし前落とし前って言ってりゃ良いってもんじゃないわよ?」

 

「アンタ何言ってんの。」

 

 ミカの一蹴でミサトさんが再びたじろぐ。

 

「俺たちは、一度手を組んだ相手を裏切ることはねぇ。これはケジメだ。……ただ、俺らも筋の通らねぇことに命は懸けられねぇ。」

 

 訳の分からない命令で無駄死にさせられるのは御免だ。そういうことなら俺たちは俺たちのやり方でやらせてもらう。そう伝えたが、相手も引き下がるつもりは毛頭ないらしい。

 

「良い覚悟だわ──と言いたいところだけど。褒められると思ったら大違いよ、オルガ君。」

 

 そのある意味こちらを見下したような発言に、頭に血が昇ってしまう。

 

「ホンット上から目線だよな。……オバさん。」

 

 向こうも押し問答でかなりイライラしていたらしい。言ってしまってから、顔に強い衝撃が走った。

 ミサトさんが、俺の頬を引っ叩いていた。

 

 

 彼女は何も言わずに部屋を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。すっかり馴染んだベッドから身体を起こし、身支度を始める。

 ミサトさんは昨晩遅くまで呑んでいたらしく、リビングにはビールの空き缶が散乱していた。おそらく、まだ自室で寝ているのだろう。結局、彼女とはあれから口を聞いていない。起こすのも何となく憚られたので、俺はミカと共に、そのまま学校へ向かった。

 

 

「転校生、ちょっと付き合わんかい。」

 

 教室に入るや否や、ジャージの少年──鈴原トウジに絡まれる。

 

「何だ、また殴りに来たのか?」

 

「そうやあらへん。頼む、少し付き合うてくれ!」

 

 その頼み方に並々ならぬものを感じたので、俺は結局付いて行ってやることにした。ミカと、あのメガネの少年(相田ケンスケと言うらしい)も一緒だったが。

 この間俺が殴られた場所と同じ、校舎裏に着く。トウジは口を開きかけたが、何やら言いづらそうに口を閉じたり開けたりを繰り返し始めた。

 

「トウジ、喋れよ、ほら。」

 

 ケンスケに促され、トウジがついに口を開く。

 

「転校生、どついたりして悪かった。ワシのこともどついてくれ!」

 

 どうやら彼は、妹が大怪我したことを割り切れず、その捌け口として俺に怒りをぶつけてしまったことを後悔していたらしい。そして、俺に殴りかけされることでその落とし前をつけたい、とのことだった。

 

「こういう恥ずかしい奴なんだよ。ま、それで丸く収まるんなら、殴ったら?」

 

「分かった、その話に乗ってやる。」

 

 実のところ、殴られたことをそれほど気にしてはいなかったのだが、ケジメを付けたいというのは俺の考えに通ずるところがある。その筋を通そうとする真摯な姿には好感が持てた。

 俺は拳を握りしめ、トウジの顔を力一杯に殴ってやった。その横にいたケンスケが痛そうに顔を顰める。

 

 

「ッくぅ~~~! ……これで貸し借り無しや! それでええな!」

 

「まあ良いんじゃないの、多分。」

 

 ミカもこの儀式には納得してくれたらしい。

 

「──そういや自己紹介がまだやったな。ワシはトウジ。鈴原トウジや。」

 

「相田ケンスケ。これからも宜しくな。」

 

 そういえば、彼らとまともな会話をするのはこれが初めてだった。俺たちも自己紹介を返す。

 

「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ!」

 

「三日月・オーガス。」

 

「この前の戦闘で、アンタらが必死に闘ってるのがよう分かった。転校生──いや、これからは()()()()()()、と呼ばせてくれ!」

 

「……『センセェ』って、俺?」

 

 ミカは困惑していたが、しかして新たな鉄華団員が誕生した。

 

 

 彼らとの和解に成功し、この世界での人との繋がりが広がったことは嬉しく思えた。が、その一方で、未だ目すら合わせていない同居人がいることに、憂いを覚えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……おはよう、リツコ。」

 

「また遅刻? 相変わらずね、ミサト。」

 

「うぐ……」

 

 旧友からの厳しい一言に閉口する。だが、今日の寝坊には理由があった。椅子の背もたれに寄りかかり、深く息を吐く。

 

「オルガ君達とのこと?」

 

「そ。昨日の戦闘の後でさ……」

 

 昨日のオルガ君たちとの会話について、リツコに説明する。

 

 

 

「なるほどね。」

 

「でも、あの子たちの戦い方は危険だわ。あのまま誰も止めなかったら、いつか絶対死ぬもの。」

 

 彼らの戦いぶりは博打のようだった。失敗したら終わりという綱渡りを、ギリギリのところで乗り越えていく。完全に落下してしまうまで、足を止めることは決してない。

 

 確かに自分は、彼らを使徒殲滅のための都合の良い道具として見ている節がある。彼らはそのことを、自分の命令を通して見透かしているのだろう。

 しかしながら、同時に自分が、彼らに危険な橋を渡ってほしくない、と思っているのも事実だった。例え、それが偽善だったとしても。

 

 

「……指揮系統に、問題が出ないようにね。」

 

 リツコのその言葉で、会話は幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺とミカは、昭弘達と顔を合わせるべくNERV本部を訪れていた。もちろん彼らとは学校でも会えるのだが、いかんせんクラスが違うために、じっくり話す機会というのがほとんどない。

 ──今からでもマクギリスに頼んで、俺たちもNERVの個室で生活させてもらえないだろうか。正直、あの重い空気の家でこの先やっていける自信がないのだ。

 

 

「あ、団長! 三日月さん!」

 

 通路を歩いていると、早速ライドと出会った。こっちでの暮らしには慣れてきたかとか、戦闘訓練の調子はどうですかだとか、他愛のない話をする。

 やがて、昭弘やチャドにも早く会いに行こう、と足を動かす。そのとき、俺たちに見慣れない二人の男が歩み寄ってきた。一人は四角いメガネを掛けており、もう一人は、髪を伸ばしている所謂ロン毛の男である。

 

「よう、坊主たち。最近調子はどうだい?」

 

「誰?」

 

 ミカの尤もな質問に、馴れ馴れしく話しかけてきたロン毛の男は頭を掻く。

 

「流石に顔は覚えられてないか。ほら、発令所に居るオペレーターだよ。」

 

 そう言われると、この特徴的な声には聞き覚えがあった。

 

「で、そのオペレーターが俺たちに何の用だよ。」

 

「いやあ、モニター越しとは言え君たちとは直接の関わりがあるだろ? 接点を作っておいても良いんじゃないかと思ってね。」

 

「青葉シゲル二尉だ。よろしくな。」

 

「僕は日向マコト二尉。よろしく。」

 

「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ!」

 

 二人が自己紹介を始めたものだから俺はつい返したが、直後ミカに、それは知ってるんじゃないかな、と突っ込まれた。

 俺のお茶目にひとしきり皆が笑った後、ただ自己紹介だけが目的って訳でもなさそうだと踏んでいた俺は、二人に問う。

 

「──で、本題は?」

 

「ま、君が思っている通りだろうけどね。葛城さんのことさ。」

 

 俺たちとミサトさんの不和を聞きつけたので、それの解決を図ろうということか。だがこれは俺たちの問題であって、彼らが介入してくるのは筋違いに思える。

 疑問が顔に出てしまっていたのか、ロン毛の人がそれを諌めるように言う。

 

「一つ言っておくよ。マニュアル通り──言われた通りにやっていますというのは、阿呆の言うことだ。」

 

「はぁ?」

 

「パレットライフルの件だろ? 君はドカドカ撃ちすぎなんだよ。」

 

 一度は声を上げたものの、マコトさんの追撃に閉口する。――正直、阿呆だの何だの言われるのは腹立たしかったが、しかし無闇に敵意を撒き散らしていてもしょうがない。ミカの目は既に鋭く光っていたが、間に割り込むようにしてそれを抑える。

 

「武器の特性を説明し切れなかったのは確かにこちらの不手際だった。すまない。だが君にだって、このまま煙を出し続ければ視界が悪くなると判断できたはずだ。」

 

 指揮側のミスではあったが、戦闘に関しては素人という訳ではない俺たちにも非がない訳ではない。そう言いたいようだ。

 だが、俺が怒っているのはライフルの件だけではない。

 

「あの程度の指示しか出せないようなら、作戦責任者なんていらねぇ。ただ現場の判断だけで動けば良い。」

 

 しかし、その俺の言葉を汲みつつ、二人は諫めるように言う。

 

「一から十まで命令通りに動けとは言わない。現場にしか分からないこともあるだろうからな。だが、それを無碍にして欲しくはないんだ。」

 

「葛城さんだって、君たちや皆の無事を考えて作戦を出しているんだ。それを分かってほしい。」

 

「はぁ……」

 

 俺たちを危険に巻き込んだお前たちが言うことか、と思う。すると、ロン毛の人がまたしても俺の思考を読んだように答えた。──この人、勘が鋭すぎやしないだろうか。

 

「ま、俺たちももっとサポート出来る様に努力するよ。それが君らを戦いに巻き込んだ俺たちのケジメって奴だ。」

 

「期待の新人オペレーターも入ったしな。」

 

 期待の新人、というマコトさんの言葉に呼応してか、背後から足音がする。振り返ると、そこにはよく見知った顔があった。

 

 

「お久しぶりです、団長。」

 

「タカキ!? お前何やってるんだよ!?」

 

 ライドが叫ぶ。

 タカキ・ウノ。かつて俺たちと苦楽を共にした、鉄華団の団員だった者であり、彼が鉄華団を抜けてからも、俺たちに助力してくれた。その彼の姿がそこにあった。

 

「タカキもこっちに来てたんだ。」

 

 ミカの言葉に、タカキも嬉しそうに話し出す。

 

「はい。正直、皆にここで会えるとは思ってもいませんでした。」

 

 

 タカキの話によると、彼もライドやチャドと同じように気がついたらここにいたらしい。幸い──と言えるかどうかは怪しいが、妹のフウカも一緒に転移してきていたそうだ。

 路頭に迷っていたところ、ある男の紹介を経てここの職にありつけたとのことである。

 

 タカキまでこの世界に来ているとなると、俺の予想よりもずっと多くの団員がこの世界のどこかで生きているのかも知れない。

 アストンにもいつか会えると良いな、とタカキは言った。そして、俺に向き直る。

 

「団長。俺はここで戦って、フウカや、この世界のどこかで生きてるかもしれない皆を守りたい。」

 

 話によれば、使徒がここの深部に到達すると、サードインパクトと呼ばれる大災害が起きて人類は絶滅するらしい。……むしろ何故今まで誰も教えてくれなかったのだろうか。そんなことはさておき、それを防ぎ、皆を守りたいというのが、タカキが再び戦うことに決めた理由だった。

 

「だけどそれは、俺一人の力では無理です。ここにいる俺たち皆が、一つになって戦わなければならないんです。」

 

 

「俺達と君達は、またこれからすれ違う事があるかもしれない。だけど、後腐れは無しにしてほしいってことさ。」

 

 タカキの言葉に、ロン毛の人が補足した。

 

 

「──ミカはどう思う。」

 

「俺はオルガの言うことなら、それで良い。でも──皆を守りたいっていう気持ちは、タカキと同じだよ。」

 

「そうか。」

 

 

 守る。それが戦う理由。目先のことに必死になって、それに囚われていた俺には、いつしかそれが見えなくなっていたらしい。団員(家族)を守るのは、鉄華団の団長である俺の仕事だというのに。

 

 ミサトさんはその皆を守るために戦う仲間である。彼女作戦指示に妙なところはあったが、それも俺達を陥れようとして出したものではなかった。

 価値観の違い。それが今回の件の大元の一つであり、未だ納得しきれていないところはある。だが、俺にもう通す意地なんてものは存在しないのかもしれない。戦う理由の大きさに対して、それはあまりにも些細なことだった。

 

 

「行くぞ、ミカ。」

 

「行くって、どこへ。」

 

「決まってんだろ。」

 

 

 

 俺は、この仲違いに落とし前をつけるべく、足を踏み出した。

 

 




原作動画ではこの辺りはかなりすっ飛ばされていたので、補完にかなり苦戦したところでした。
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