ホロライブオルタナティブ@upside down   作:風木守人

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12. 相手のセーブデータごと斬り落としそうな勢いで

「【魔王】とやらの目的はなんなのだ?」

 

 あくまで“さりげなーく”問いかけた百鬼あやめの疑問に、言葉を介して支配をしたつもりの【呪文】のローブ男は少し悩んだそぶりを見せた。

 あやめは初め、彼が答えていいか迷っているのかと思ったのだが、その答えは予想斜め上であった。

 

「ご、ごめん、知らない」

「!!?」

「で、でも、僕や君たちも、赤いローブの人はゲームの駒だって言ってた」

「ゲーム?」

「あ、うん、白と黒が逆になる(upside down)、まるでオセr――」

「待ったぁ!」

 

 突如大声で話を遮ったあやめに、分かりやすくびっくりするローブ男。

 

「おっと、急に大声を出してすまんかった。だがその……そのゲーム名はリバーシと呼ぶべきだ」

「ど、どうして?」

「オセなんとやらは商標登録されている……いや、配信ではないからいいのか。いい、忘れてくれ」

「?」

 

 忘れないでくれ。怒られる。

 そんな声がどこかから聞こえそうな百鬼の反応だったが、ローブ男には意味が分からないようで、続きを話し始めた。

 

「で、でもその、【魔王】や僕らは“黒”で、君たちは“白”だって言ってたよ。は、はは、やっぱり僕らなんてそうだよね」

「うん? 何を落ち込んでいるのだ? そうだ、この大太刀を見よ!」

 

 百鬼は腰に付けた金具を外すと、大太刀【羅刹】を目の前に掲げた。

 

「この鞘も柄の装飾(巻き)も、余が誇らしく思うほど鬼の技術が詰まったものだ」

「……」

「余は色も好きだが、よく見れば仕事の丁寧さや使う者への気配りすら感じられる。だから、色が多少変わったところで、余は同じ鬼に仕事をお願いするだろう」

 

 ローブ男は百鬼の伝えたい意味を理解して、突き付けられた事実にややひるんだ様子をみせたが、支配が効いていることを思い出したのかすぐに安堵のため息をついていた。

 

「そ、そういえば百鬼さんのスキルって何なのかな」

 

 話題をそらすように尋ねるローブ男に、百鬼は思案しながら答えることにした。

 

「せいや! っと」

 

 風すら切り裂く一閃は、振り下ろされたことに後から気がつく程。

 あやめがその手に持った大太刀【羅刹】を自分に向かって振り下ろしたのだと、遅れて気が付いたローブ男は尻もちをついた。

 

「な、なななんで!? し、支配したのに!?」

「うん、驚いたか? この刀は少し特殊なのだ」

 

 見えなかったのか、と思ったあやめは今度はゆっくりと自分の首を斬って(・・・・・・・・)見せたが、その首は繋がったままであり、刀身に血液の一滴も付着していない。

 

「斬りたいものだけを斬る。それが【羅刹】の能力なのだ」

「そ、それって強いの?」

「例えば、遮蔽物や鎧を透過して敵を斬れるし、なんなら人体を傷つけずに服だけ斬ることもできるのだぞ?」

「そ、その例えはどうなのかな!?」

 

 頭上に“?”を浮かべて首をかしげるあやめに、何を想像したのかローブ男は焦った様子でそう返した。

 

「もう一振りは【阿修羅】」

 

【羅刹】より短く赤を基調とした装飾を施された刀、【阿修羅】をあやめが引き抜くと妖しい光を放つ炎がその刀身をおおう。

 

「鬼火を使役する太刀で、ちょっと力を籠めると遠くにも攻撃できるぞ」

「お、応用が利きそうだね」

「だが余は加減が苦手でな。昔島を一つ消……いや、やはりなんでもない!」

「な、何をしたのかなっ!?」

 

 不穏当な説明にツッコミを入れるローブ男と、くすりと妖艶さを醸し出そうとしながら、その実子供らしい無邪気さが割と前に出てしまっているあやめは、和気あいあいとした様子であったが、その実あやめは重要な役割を担っている。

 スパイという、重要な役割を担っているつもりだった。

 

(よし、スキルとやらは何かわからんが、人間様に比べて不思議な事ができるといえば、この刀だからな……余、上手くだませたぞ!)

 

 ちなみに、この世界に来たホロライブメンバーにアクティブスキルとパッシブスキルが一つずつ、ローブ男たちにはどうやら支配系の何らかのスキルが一つ使える状態になっているようである。

 故に、あやめの誤魔化しはこのルールを逸脱しているし、何ならメニュー画面のスキルを開いて共有すれば、このように表示されるはずである。

 

【アクティブスキル:(やー)だ余 パッシブスキル:二刀流】

 

 しかし、その事実を、一人の鬼と、一人の人間は、まだーー知らない。

 


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