ホロライブオルタナティブ@upside down   作:風木守人

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14. 旅の行商人、その名は……

「ふぅ、酷い目にあったよ」

「なんかすまねぇのら」

 

 げっそりとした様子の天音かなたの両腕には、カラフルな帽子をかぶったアヒル――大空スバルが抱えられていた。

 鳥の群れにルーナイトの放った矢をつかんで特攻したかなたは、無事、スバルを見つけることができた。が、どうやらあの矢、スバルを絶対に傷つけないように生物を避けて通るような効果があったらしく、無数の鳥たちの中をジェットコースターのように駆け抜けていった。

 その矢をつかんだかなたの正気度(SAN値)を削り取りながら。

 

「でも、あまねちゃは空飛べるのにそんなにしんどかったのら?」

「なんていうか、車酔いとか船酔いに近いかも。自分の意思で飛んでないからさ」

「何となく理解できたのら~」

 

 そのような軽いやり取りを繰り返している二人は、鳥たちに襲われていた町の中にいた。

 それほど大きな被害はなかったようで、せいぜいがところどころに羽が落ちている程度。モンスターがはびこるこの世界において、鳥の大量発生などカモがネギしょって(食料がいっぱい)きた程度にしか認識されていないのかもしれない。

 事実、ルーナに抱っこされたスバルの姿を見ても、驚いたり嫌悪するような反応は見られなかった。

 

「それにしても、異世界って感じだねぇ」

「……そうなのら~。ひとまず、宿が取れたら見て回りたいのら!」

 

 かなたが努めて明るい声で話題を振ったことを察した姫様は、わざと気づかないふりをして暢気に返した。スバルが沈黙しているのも、疲れからではなく微妙なその機微を読んだためだろう。

 彼女たちが歩いている町はレンガと木でできた町並みが広がっており、寂れてはいないが地方都市といった雰囲気の町のようだ。実際、半日もあれば町中を一回り散策できそうだった。

 

「あ、ちょっと君たち!」

 

 と、そんな町を歩く二人と一羽を呼び止める声。

 場所は町の中心からややはずれ、商店が立ち並び始めたあたりの場所であった。声は少し頭上から聞こえたので振り返ると、二頭立ての馬車の荷台から帽子を手につかんで彼女たちに振っている男の姿があった。

 年の頃は中年に差し掛かり、しかしその肉体は壮健。紳士らしい装いながらヒゲが濃く少し暑苦しい雰囲気の男だが、敵意が全く感じられない少し困った表情を浮かべていた。

 

「もしかして、あの鳥を追い払ってくれたのって君たちかな?」

 

 突然の質問に顔を見合わせて首肯する彼女たちに、男は馬車から降りるや、服の襟を正して頭を下げた。

 

「ありがとう、おかげで助かった」

 

 聞けば、行商人である彼らはとても大事な荷物を運搬中に鳥の群れに襲われ、近くの街道で立ち往生をしていたそうだ。そして、「もしやこの鳥の群れは強大なモンスターの手下なのでは」という疑心暗鬼の元、馬車を破棄し荷物だけでも死守しながら決死の突破を図ろうとしたところ、突然鳥の群れが撤退を始めた。

 意味が分からなかった彼らだったが、何者かに助けられたのだと思い、この町で話を聞きまわったところ、かなた達に行き着いたのだった。

 

「我々が運んでいた荷物は」

 

 ここで二人と一羽に近づいた商人は鋭い表情で、声を潜めて、

 

「とても重要なものだった。詳しくはいえないが、ね」

 

 再び柔和な笑みを浮かべた彼は、紳士然とした挙措でかなた達に問いかけた。

 

「我々行商人は、持ちつ持たれつ――いわば貸し借りを大切にする。金銭の損得以上の、利益と損害を生む天秤(てんびん)だと知っているからね。だから、君たちにお礼がしたいのだけど、何か助けられることはあるかい?」

 

 かなたとルーナはアイコンタクトをして、状況を概ね把握した。

 二人からすれば、この世界はゲームの延長である可能性があり、スバルを助けたイベントの先にこれが起こったのだとすれば、この申し出はいわば【クエスト】に対する報酬なのかもしれない。

 そう一瞬で意思疎通を図ることができた。

 

「それじゃあ、換金してほしいものがあるんだけど、いいかな。僕たち価値が分からないから、信用できる相手にお願いしたかったんだ」

「あと、おすすめのお店とか教えてほしいのら~。おいしいご飯が食べたいのら~」

 

 行商人を試すようなお願いと、欲がない答えに、紳士然と彼はこう返す。

 

「はいよ。では品物を見せてくれるかな。あと、お店については……この町に初めて来たのかな。それなら、簡単な地図を換金の間に用意しよう」

 

 恐らく、この行商人は顧客の要望を的確に理解して対応できる優秀な人間なのだろう。かなたとルーナの求める以上の回答を、柔和な笑みとともに返してのけた。

 

「それじゃ、これなんだけど」

 

 かなたが渡したのはいくらかの鳥の肉や羽毛――そして倒したゴリラの皮と牙だった。

 これらは不思議な事に、倒した直後に【アイテム】に収納されていたので、おそらくモンスターを倒すとドロップアイテムとして自動で収納されるらしかった。

 

「……ほう」

 

 牙や毛皮を主に見て驚く行商人。

 

「これは確かに、商いの相手を選ぶはずで」

 

 訳知り顔の行商人に、とりあえず話を合わせることにしたかなたとルーナ。

 

「詳しくは聞きませんが、買い取らせていただきましょう。いやはや、これは参った。ははは……」

「やっぱり、分かるのら~」

 

 妙な緊迫感とともに、換金に必要な道具なのだろう。虫眼鏡(ルーペ)(はかり)の他にも、何に使うのか水準器、羊皮紙、地図や見たことのない道具の数々を行商人は取り出して査定した。

 

「適正価格に少し色を付けさせてもらいます」

 

 男が合図すると、馬車の中からほっそりとした男と背は低いが筋骨隆々と言った様子の男が出てきた。そして、ほっそりとした男がずっしりと重みがあるとわかる布袋をかなたへ、背の低い男は今仕上げたのだろう地図をルーナへと渡す。

 

「うわ、赤っぽい(限界スパチャ)色の硬貨だ。これ結構な額行くんじゃ……」

「勉強させていただきましたとも。まさかサンダーコングを討伐されるほどの腕前とは……」

「あ、あのゴリラそういう名前だったんだ」

「……ッ!!?」

 

 突如、背後で会話を聞いていたルーナが名状しがたい声で噴き出したので、かなたは首をかしげた。

 

「な、なんでもねぇのら……」

 

 何やら教えてくれそうにないので、かなたは行商人にお礼を伝えると、彼はにこやかな笑みを浮かべてこういった。

 

「どうぞ、これからもギョリノフ商会をどうぞごひいきに!」

「ぶふっ、それを言うなら漁夫の利でしょ!?」

「これはご存じのようで。何せ我々の社訓は“苦労せず 純利益だけ かすめ取る”ですからな」

「俳句好きなミオシャ先輩に一回怒られろ!!」

「ちなみに、その続きは“それこそが我ら ギョリノフ商会”だよ」

「短歌にも対応しちゃったよコイツ!!」

 

 何処かおかしな行商人は、一通りかなたとかしましいやり取りを重ねた後、再び馬車に乗ってどこかへと去っていった。




ルーナが噴き出した理由

①あのモンスターはサンダーコングという名前であると聞く。

②サンダーコングはゴリラである。

③サンダーは日本語にすると雷である。

④かみなりごりらを四文字にうっかり省略する。

⑤“かなごり”というワードが浮かび上がる。

⑥草が生える。
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