ホロライブオルタナティブ@upside down 作:風木守人
森の中を駆け抜ける山賊団のボスは、超遠距離からのものとみられる狙撃を防御しながら、足元が雪原と化した森を観察していた。
(やっぱり、軍師君たちを連れてこなくて正解でしたね)
十数回にわたる狙撃を経て、彼女は相手の力量に冷や汗をかいた。
最初の数発は額と心臓、その後は機動力を削るためか膝と足の甲、最後に防御の範囲を確認するために左右の耳と手の指に毛先。
それらを、順番に、的確に……撃ち抜かれた。
幸いだったのは、ボスのスキルは防御等に特化しており、それらの攻撃を全て絡め取ったうえで、右目のパッシブスキルで無力化できたことだろう。
【パッシブスキル:禁価眼】
その能力の一つは『価値のあるものの価値を鑑定したうえで、等価の貨幣に変換し、収納する』ことだとボスは理解していた。
例え相手が黒金の砲塔を搭載した自動殺人機械であっても、人が搭乗するタイプのスーツ的なロボットであろうとも、ボスにとってはカモに過ぎない。
全て諸共にお金に変換し、【アイテム】に収納できる。
だから、ボスの【禁価眼】にとって問題だったのは地表から飛び出すシロクマの方だったが、それらは不思議と見えない膜、あるいは壁に遮られて絡みとられ動けなくなる。
(こっちのスキルは……どこかで見覚えがあるんだワ)
アクティブスキルについて考えかけたボスだったが、そんな余裕を撃ち抜くように的確な狙撃が続く。
今度は、足で踏もうとした地面を狙撃されたらしく、空中に浮かんだ銃弾がピタリと止まっていた。
(弾幕が薄いぞ! ってあおる余裕はないんですけどね)
ボスはまだ姿が見えない相手の狙撃を警戒しながら、アクティブスキルを足場にし、あるいは木に巻き付けて移動速度と旋回軌道に変化をつけ始めた。
ここにきて加速したせいか、狙撃がボスをとらえることはなくなったが、ボスは警戒を緩めない。
なぜなら狙撃地点と予測したあたりに近づいてから、様々な角度から狙撃された挙句、未だ相手の位置すら特定できていないのだから。
(でも、時間は十分稼ぎました。そろそろ……)
「きゃぁ!」
「ちょ、触れちゃダメだって言ったっしょ!?」
ボスのアクティブスキルの恐ろしいところは、特殊な目のスキルを持っていない限りその存在が視認できないことにある。
それゆえにボスは森の中を走り回って方々に罠を張っていたのだ。こちらから接近できないのなら相手を引きずり出せばいい。
やっていることはまるで獲物を待つクモのようであるが。
「かかりましたね!」
声のする方に向かっていくと、長髪の女性が座り込んでいるようだった。どうやら、足にボスのアクティブスキルが絡まったらしい。
「もらった!」
「かかった!」
「……へ!?」
さて、ボスの失敗は相手のスキルの観察を怠ったこと。
より詳しく言えば、
今回、ボスのアジトを襲ったのは雪花ラミィと獅白ぼたん。
目的は東西の覇権を争う裏組織の統合することで、他のホロライブメンバーの情報を集めて、ローブ男たちに対抗する足掛かりとすることだった。
……ちなみに、ボスも似たような理由で山賊団を率いているのだが、それはさておき。
ボスの罠にかかったふりをしていたラミィは、即座に【雪の令嬢】を用いて船長に向かって氷のツララを伸ばす。
とっさにアクティブスキルでガードしたボスは距離を取りながら、自らの失態を理解した。
ボスの見えざる罠に、
さらに言えば、表面に雪が付着している状態では、このスキルが持っている拘束能力も弱まる。接着面に水や砂が付くと、粘着テープの接着力が減衰するようなものだ。
「あー、使いたくはなかったんですが」
暗いために、まだ相手がラミィだと気付いていないボスは、【禁価眼】のもう一つの能力を起動する。
「!」
ラミィのツララが複数の銃弾によって打ち砕かれた。
一瞬、ししろんの誤射かと思ったラミィだったが、直ぐにその可能性を否定する。射角的に、明らかに目の前のボスから放たれた攻撃だったからだ。
驚いたのはラミィだけではない。獅白ぼたんはすぐさま直接視認できる距離まで接近し、発見されるリスクを冒してまでも、【禁価眼】の効果を読み取った。
【パッシブスキル:禁k……】
(うん?
【パッシブスキル:禁価眼。あらゆる貨幣価値ある物質をお金に変換して【アイテム】に収納するスキル。また、収納した際に得た金額の三倍を消費し、【アイテム】から取り出すことができる。なお、その際の動作や運動は収納した際のまま行われる。】
(ちょ、私のスキルの天敵なんだけど!?)
それは、受けた物理攻撃をお金をコストとしてそのままストックして、いつでも返せるという凶悪な能力だ。
(これは本気で潰さないと接近したラミィがヤバい!)
圧倒的な防御力と、それを最大限利用した相手へのカウンター。総合的に見れば、初動を相手に依存するというデメリットこそあるものの、ハマれば沼ることは明らかだ。
焦りから【銃器作成】によって、それなりにダメな兵器を複数生成し、音速でその
「え、ラミィじゃん!?」
「その声……マリン先輩!?」
しかし、その時には既に二人はお互いがホロライブメンバーであることに気が付いていた。山賊団のボスこと、宝鐘マリンは自らの顔を隠していたローブを脱ぎ、何処かから取り出したいつもの海賊っぽい帽子をかぶり直した。
「急に襲ってくるから船長、てっきり敵かと勘違いしていました」
「いや、山賊団にまさか先輩がいるなんて思わなくてですね」
「あー、言われてみれば私たちも盗賊団とつるんでるわけだし、想定すべきだったわ」
ししろんは相手が間違いなくホロライブメンバーの先輩であることを認めて、少し肩の力を抜いて様子を観察した。
全体に赤を基調とした服装にやや短めのスカート。なんとなく“船長”と呼びたくなるような覇気を感じる厚手の上着は、ほっそりとした体格にあっておらずややダボついている。先ほどまで金色に輝いていた右目は今は黒の眼帯で隠されており、赤い左の目だけがラミィとぼたんにやや申し訳なさそうな様子で細められていた。
「ところで先輩、会いました?」
「……ええ」
単刀直入な質問に、船長は厳しい表情で端的に返した。ラミィだけが、何の話かすぐに分からないのか、頭にはてなマークを浮かべている。
「船長が倒したのは相手の目を見て支配するスキルだったようでした。まぁ、この目みたいに特殊な目のスキルを持っていると効かない能力だったみたいですケド」
「……」
とん、と眼帯を指でたたいて、少しおチャラけた雰囲気で場の空気を明るくしようとする船長の様子を見て、おそらく大丈夫だろうと獅白ぼたんは今までの経緯を知らせた。
「で、ぼたんたんが警戒していることは、こっちも理解してるんだワ」
それは、お互いに自分が支配されていない事を証明できない、という恐ろしい事実だった。宝鐘マリンの出会った相手と雪花ラミィを操り、獅白ぼたんが倒した相手は別だが、同じ支配系統のスキルを持っていた。
とすると、おそらく同じ敵対勢力なのだが、支配系統のスキルが存在するという事は、常に味方が敵に回る可能性があるという事だ。
ぼたんが盗賊団のアジトで寝る時までラミィと一緒だったのは、自分と別行動しているうちに知らずに支配スキルの影響を受ける可能性を減らすためだ。
……断じて寝顔眺めてにんまりしたり、こっそりほっぺたをツンツンするためではない。
そして、この世界で初めて出会った相手はたとえ同じホロライブメンバーであろうとすぐに信用するわけにはいかない。支配系統のスキルにバリエーションがある以上、支配されているかどうかすぐには分からないものや、最悪、支配されていることに本人が気づけないようなスキルまである可能性もある。
獅白ぼたんはそこまで口には出さなかったが、先輩たる宝鐘マリンがそれに気が付いていないはずがないと、視線を交わす中でそう確信していた。
「ところでマリン先輩、良いニュースと悪いニュースがあるんですけど、どっちから聞きたいですか」
「なぁにぼたんたん? 船長すごく嫌な予感がするんですケド」
情報交換がおおむね完了したところで、話をぶった切るように獅白ぼたんは言った。
ラミィはその時、とんがったエルフ耳をピクリとさせて、何かを察したような表情を浮かべた。どっちかというと、目のハイライトが消えて無表情に近くなったともいえる、悟りの表情だったが。
「じゃあ……悪い方からでお願いします」
「敵だと思ってたんで
その時初めて、マリンはしゅーという、炭酸の抜けるような音が周囲から聞こえることに気が付いた。
良く見渡すと、蛍火のようなものが雪が降り積もった森の中を飛んでいた。
いや、それは、点火された導火線の先が燃えているのだ。
「私のスキルで空想兵器を作れるものがあって、
「船長っぽく笑ってごまかしたなぁぁあああ!」
四つ足で雪原を走る、小型犬程度の丸い爆弾は今にも爆発しそうだった。何故か非常にのんびりとした表情で、「かまへんかまへん、バレへんて」みたいな雰囲気を醸し出している。数秒後に爆発四散するのに。
「ちなみに、良いニュースは?」
「はい! 私足速いんで今から走れば間に合います!」
「私のスキルは自分中心に温度と風を操るので自分だけなら身を守れます!」
「だから私たち後輩のことは心配しなくて大丈夫です!」
「ちくしょう! たくましいなぁ!!」
と言いつつ船長は眼帯を外して【禁価眼】を発動する。
(……えぇ! なんでよ!?)
パッシブスキル【禁価眼】は、無制限に使えるスキルではない。
その制約に“モンスターや生物を換金することはできない”“価値のないものあるいは価値がマイナスなものは換金できない”というものがある。
さて、SSRB民は獅白ぼたんにナデナデされた回数や時間によって威力や爆発までの時間が増減する兵器であり、ある種の意思を持っている。それはいわば、マリンに敵対する意思を持つ生物のようなものである。
そして、点火前の爆弾ならともかく、“今から●秒後に爆発する爆弾”が販売されているのを見たことがあるだろうか。あるいは、販売されていたとして買うだろうか。
答えはNOだ。ゆえに、金銭的価値は無である。
これら二つの制約ゆえに、【禁価眼】はSSRB民に通用しない。
(こうなったら、もうアクティブスキルの方でガードするしかないんですケド!?)
船長はちょっと涙目になりながら、自身のアクティブスキルで生み出した膜のようなそれを何重にも自分の周りに張り巡らせた。
固定すると航空機の訓練のように、重力の影響を受けてダメージを負いそうだったため、それもせず、自分をマユのように包む鉄壁の防御が完成した。
同時、爆発と閃光が船長を襲う。
「爆発オチなんて最低だぁぁぁあああああああ!!!!」
そう叫びながら、船長は夜空に光る一つの星にならんばかりの勢いで、吹っ飛んで行ったという。