ホロライブオルタナティブ@upside down   作:風木守人

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17.チュートリアルには遅すぎる

「疲れたのら〜」

「つかれたね」

「しゅばっ!」

 

 三者三様に感想を述べたのは姫森ルーナと天音かなた、そしてスバルドダックとなった大空スバルである。

 彼女達はギョリノフの地図を頼りに買い物したり、あるいは宿を探したりしたのだが、この町はなんというか、ホロライブ味であふれていた。

 

 まず、ファンタジー感あふれる寂れた道具屋に入れば、カウンターの店主から様々な商品を勧められた。

 

 天音かなたの目に留まったのは、一房のバナナだった。大体十本くらいあるうち一本だけが黄色で、他はオレンジ色だった。

 そこはかとなく、ココにはいない誰かの髪型に似ていなくもない。

 

「嬢ちゃん、バナナを見るのは初めてかい?」

 

 と、受け取り方によってはセンシティブな言い回しで、しかしにこやかに話しかけてきたスキンヘッドの店主に、かなたがこれは何かと聞くと、

 

「この黄色い部分がバナナだ。まず、このバナナをもぐ、するとな」

 

 なんと、残ったオレンジ色のバナナの一つが黄色くなった。

 

「こんな感じでバナナにして食べるんだ。オレンジ色のやつはまだ熟してないから、気をつけるんだぞ」

「へぇ、じゃあさ」

 

 天音かなたは興味本位で親切な店主をこの上なく困らせる質問を放つ。

 

「オレンジ色の部分はバナナじゃないの?」

 

 突如、スキンヘッドの店主は自らが禿げ上がるまでの人生を走馬灯のように思い出したかのように、白目を剥いてフリーズしてから、こんな言葉を絞り出した。

 

「……バナナじゃないが、バナナなんだ」

 

 三人が吹き出した瞬間である。

 笑った後、ルーナが「虫捕り(バグチェック)が甘ぇのら」とつぶやいてちょっと目のハイライトを消していたのが怖かったという。

 

 

 

 §

 

 

 

 続いて訪れた鍛冶屋。

 この店は武器屋や防具屋、その他装備などを買う施設のようで、奥の部屋からはツチが火の粉を逆巻きながら、金属に打ち付ける甲高い音が聞こえていた。

 

「……」

 

 寡黙な髭面の店主は、年齢による衰えを感じさせない筋骨隆々とした両腕を組んでカウンターに立っている。

 たじろぐルーナ達だったが、カッ、とその目が見開らき、店の奥へと行った後、ルーナに向かって銀色の指輪を差し出した。

 

「あんたに売れるのはこれだ」

 

【ペアリング】

 

「買ったのら!」

「しゅばばば!?」

 

 どうやら、レアアイテムを条件次第で売ってくれる店らしく、スバルの悲鳴を無視して、姫様はペアリングを手に入れた。

 ちなみに、スバルに装備させたところ、スバルドダック形態では首元にきらりと光っている。

 一体どうやって首元まで通したのか。 

 

 指輪を見つめてうっとりする姫様と、指輪(首輪)の冷たさに愕然とするスバルのことを努めて頭の端に追いやって、天音かなたが店主に話しかけたところ、頭の手裏剣じみた天使の輪っかの売値を見定め始めたので、丁重にお断りすることにした。

 

「あんたの頭の金属、まるで伝説の……」

 

 無愛想な店主の視線を追えば、無骨な鍛冶屋にかえってよく似合ったカタナが壁に勲章のようにかけられていた。

 

「あれは?」

「一応言っとくが売り物じゃねぇぞ? あれは、剣豪「かたなそ」が使ったと言われる刀だ。俺はあの刃筋を初めてみた時に惚れちまってな。未だにあの領域の武器が作れるまで精進しようって決めてんだよ」

 

【クエストの受注条件を満たしました。クエスト:まどろむ剣豪かたなそ、を受注しました】

 

「かたなそって誰だよ!?」

 

 【クエスト】受注のアナウンスに突っ込んだかなただったが、鍛冶屋の店主はふっ、とダンディな仕草で息を吐きつつ、肩をすくめた。

 

「いや、忘れてくれ。まさかな。俺が子供の頃、ひと目見た時は、褐色の肌に美しい金髪をたなびかせた熟練の剣豪だった……その無慈悲で豪快な剣さばきから、裏で表で金獅子と恐れられていた」

「誰がラー○ャンだよ!?」

 

 この辺りのやりとりから、ルーナは何かを察したようにニマニマと笑っていた。

 

 

 

 §

 

 

 

 そして、ギョリノフに勧められた宿屋に着いた瞬間、アヒル形態のスバルの目からハイライトが消えたことに他の二人はすぐ気がついた。

 宿屋には看板が掲げられていた。

 

 【あじまる屋】

 

 なんとなく懐かしい音程で「休めーるよ、安い宿だよー」と歌うように客引きする店員。

 一階がラーメン屋、二階・三階が宿という未知の構造。

 

 

 そして、特別な味でも唯一無二の売りがあるわけでもないのに、また食べたくなるお袋の味のような、優しい味のラーメン。

 

 老舗【あじまる屋】が長い歴史を持つわけである。

 

「「「ずずっ」」」

 

 三人はキレのある音を響かせてラーメンをすする。

 スバル的には悔しいことに美味しかったらしい。……そのくちばしで、どうやって食べたのかは知らないが。

 

「でもねぇ、最近変なことが起こるようになったんだよ」

 

 宿屋の店主がそんなふうに噂話をするのをルーナは聞き逃さなかった。

 

「何があったなら?」

「なぜかね、三階の一番奥の部屋で、寝ていると変な音が聞こえるのさ。それで上客が泊まるのをやめるっていいだしてさぁ」

 

 今までの経験から、【クエスト】が始まると身構えていた三人だったが、一向にそのアナウンスが起きない。

 なぜなのか、と不思議に思っていると。

 

【クエスト:二体の妖怪のクエスト受注条件を満たしました。】

 

 遅れて聞こえてくる機械的なアナウンス。

 しかし、それには続きがあった。

 

 

 

【error! 大空スバルを人間にしてください。】

 

「しゅばしゅばぁ!(オメェまで擦ってくんじゃねぇよ!!?)」

 

 なんとなくスバルが何を言っているのかわかったのか、ルーナはやはりニマニマと笑っていたという。

 

 

 

 §

 

 

 

 【クエスト】が発生しているので、折角だからと三階の一番奥の部屋に泊まりたいと伝えると、宿の店主はむしろお願いしたいとばかりに料金をかなり割り引いてくれた。

 

「いいベッドなのら〜」

 

 といいながら不思議素材でできてるのか、物凄くふかふかのベッドにダイブした姫様に対して、かなたは同期のアイドルとして姫様がご機嫌すぎると気がついたのか、首を傾げながら問いかけた。

 

「ねぇルーナは、この世界のことでこう、何か気づいたの?」

 

 ルーナはニマニマと自信ありげなドヤ顔を浮かべると、この世界がゲームの延長にあることを前提とした自説を披露した。

 

「この町はおそらく、ルーナとあまねちゃとスバルちゃ先輩が仲間になる町なのら! だから、色々ルーナたちに絡めたイベントが用意されていると思うのら!」

「それで変なクエスト始まったり、」

「しゅばぁ……(ペアリング売りつけられたらするッスね)」

 

 ルーナが全く酷い目に遭っていないことを除けば、概ね納得できる分析に天使とアヒルは顔を見合わせた。

 なお、ルーナは明言しなかったが、自分がゲームの主人公で、仲間になるイベントが自分に起きていないと言う可能性もある、と言う仮説も頭の中にあったりする。

 

「ルーナの言う通りなら、早めに町を出たほうがいいのかな」

「そうとも限らねぇのら。ゲームだとイベント消化しないと、強くなれなかったり、特別なアイテムを取り逃がしたりするのら!」

「しゅば!(そもそもアヒルで始まった理由はなんなんスかぁ!)」

 

 スバルだけが会話のドッチボールというか、シャドーボクシングを続ける中、その憤慨を感じ取ったかなたは話題を変えた。

 

「そういえば、ルーナってルーナイトの言いたいことがわかるの?」

「なんていうか、ビビってくるのら」

「それならさ、スバル先輩の言いたいことは読み取れないの?」

「!? なるほど、やってみるのら!」

 

 方や、姫様を見上げてしゅばしゅばと言うスバル。

 方や、背の低いスバルのダックの前で正座するルーナ。

 

 アングルだけは、最愛のジュリエットに愛を捧げる(なんかわめいてる)ロミオだった。

 ロマンチックは止まっている。

 

「なるほどなのら〜」

「しゅばしゅば――(さすがルーナ、わかってくれ――)」

「お風呂に入りたいのら?」

「しゅば?(えっ?)」

「確かに、歩き回って疲れたもんね」

 

 スバルの鳴き声を肯定ととらえたかなたの暢気な声が、どこか空虚に響いていた。

 

「そうと決まれば脱ぐのら!」

「!?」

 

 ホロライブサマーってレベルじゃねぇぞ。

 

「脱ぐって、帽子以外全裸じゃない?」

 

 かなたの言葉の追い討ちに愕然とするスバルだったが、先に服に手をかけた姫様が、「ん〜、ぅん〜、んなっしょーい!」とよく分からないかけ声をあげながら服に手をかけてゼエゼエしているのを見て、異変に気がついた。

 

 服が脱げないのである。

 

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