ホロライブオルタナティブ@upside down   作:風木守人

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24.ルーナイトと眠れない夜(濁点マシマシ)

「すぅ、すぅ」

「んな……んなぁ……」

「寝てる時も……語尾が……特徴的……ッス……」

 

 スバルのツッコミも鈍る丑三つ時。

 ぐっすりと寝ているかなた、ルーナ、スバルの三人のベッド傍、腕を組んだルーナイトが鎮座していた。

 

「……」

 

 なぜかルーナだけが意を汲んだり会話が成立するルーナイトであったが、時折、寝返りをして布団からはだける手足を目にしながら、やれやれと言った雰囲気で布団をかけ直す様子を見るに、ヤンチャな妹や姪っ子の面倒を見るような心持ちらしかった。

 

 きれいな満月が登る満天の星空から降る光は、古ぼけた雨戸のせいで見えないし、時折、階下から聞こえる酔っぱらいの喧騒は、敬愛する姫様とその友人の耳に届きそうにない程遠い。

 

「……」

 

 ルーナイトはチラリと、「姫様」とその肩書きを呼ぶことすらはばかられる、自身の主君の寝顔を拝する幸せを噛み締めながら、腰に帯びた剣の柄をなでる。

 

 それは彼の誇りだ。

 この世界に初めて姫様に喚ばれたルーナイト。

 

 それまで、彼は自身の価値を見出せずにいた。

 彼は自身を無価値だと思っていた。有象無象だと思っていた。

 だから姫様にルーナイトとして喚ばれた時、ここを死地としようとした。

 

 しかし、強敵を前に命を賭した自分を、姫様は喜ばなかった。

 

「逃げていいのら」

 

 そのルーナイトに与えられた答えは簡潔にして鮮明、

 

「死ぬんじゃねぇのら」

 

 そして、残酷なまでに彼の事を思い、信じた言葉だった。

 

「……」

 

 ゆえに、「寝てる間に何かあったら怖いからとりあえず見張っといて」という雑なオーダーであれど、ルーナイトは喜んで拝命する。

 なお、姫様を含め他の女性陣についてもルーナイトの鉄の掟を準用し、全く毛先ひとつすら触れないよう最大限の配慮をしている。あくまで彼は一ルーナイトであり、他のルーナイトに抜け駆けするような行為は厳に禁じているのだ。

 

 役得として寝顔を拝見している状態だが、ルーナイトの警護により安心して寝てもらえていると思えば、ルーナイト冥利に尽きるというもの。

 彼のやる気と忠誠心は、ルーナの預かり知らぬところで上昇し続けていた。

 

【大空スバルが人間状態である事を確認しました。クエスト:二体の妖怪のクエスト受注後に発生条件を満たしました。クエストを開始します】

 

 人間状態って状態異常じゃねぇんだよ、とスバルが起きていればツッコミそうなアナウンスと同時に、ルーナイトは立ち上がる。

 一瞬だけ、姫様と二人のご友人を起こそうかと迷うが、そのあまりに幸せそうな寝顔に負け、状況確認を優先することにした。

 

 鞘から剣を抜く音が、やけに大きく響いた。

 いや、外の音が全く聞こえないにも関わらず、部屋の中の音が妙に大きく聞こえるのである。

 

 まるでそう、耳元でささやかれているかのような……。

 

 ルーナイトが警戒を深める中、部屋の何処かから不気味な音が響き始める。

 まるで下水溝の詰まったような不可解な音である。

 

「……」

 

 何かを察したルーナイトは少し警戒を緩めつつ、さっきまでアヒルだった少女をチラリと見てから、不気味な、それはもう不気味な笛の音が近づいて来ているのを感じ取っていた。

 下手くそなリコーダーのようにも聞こえるソレは、目をつむりながら聞くとなんとも言えない不安感をもたらし、中途半端な不協和音と絶妙に不安定な旋律が、不眠を誘発する。

 さらに、不気味な音は鳴り止まず時折、

 

「ジャズ=ネーヤ」

 

 と、謎の名前を叫ぶのも、独創的すぎてもはや理解できない領域である。

 

 多分、おそらく、これは大空スバルのASMR(快適とは言っていない)をリスペクトしたイベントだ。

 

 ルーナイトは目をつむったまま、なんとなくの距離感で剣を振るって何かを切り落とした。

 多分、スバrーー姫様のご友人のお戯れになられた分身なのだろうと無理やり納得して。

 

 その後、続いて【妖怪アロエ洗い】が出没したりして、ルーナイトが今度は天使の方の姫様の友人を二度見したりしたが、それはおいておいて。

 ルーナたち三人は今夜も、ぐっすりと眠っていたという。

 

 

 

 §

 

 

 

 その日の朝。

 

「あんたたちありがとうねぇ」

 

 寝起きで状況が把握できないかなた達に、宿屋の店主さんはすごく感謝していた。

 どうやら夜中にルーナイトが【妖怪エ”ーエズエムア”ァァル】と【妖怪アロエ洗い】を倒した事がクエスト達成条件だったらしい。

 

 宿屋の店主は店の奥に姿を消すと、なんだか非常に見覚えのあるものをかなたたちに手渡してくれた。

 

「これ、なんだか高価な道具だって旅の魔法使いが宿代替わりに置いてったものなんだけどね、お礼にあんたたちにあげるよ」

 

 それは、片方が大きな砂時計のような形状で、中は空洞。外側はカラフルに彩色されていて、多分スバルが使うとよく似合う。

 

「かぁちゃんが作ってくれたメガホンにそっくりだぁ!!」

 

 スバルは喜んで受け取ると、早速首から下げる。

 むしろ体の一部みたいになじんだソレに、本人も満足げに頷いていた。

 

「あんたたち、人探ししてるのなら王都アマティアスを目指したらどうだい?」

 

 首を傾げる三人だったが、おせっかい焼きなのか宿屋の店主はそのまま王都への行き方や道中気をつけるべき盗賊団が出没する噂等、詳しく教えてくれた。

 

「最近、盗賊団と山賊団の抗争が激しくなっててねぇ、気をつけるんだよ?」

「大丈夫だよ、でも僕達を心配してくれてありがとう!」

「でもこんな親切な人達を困らせるなんて、ひでぇ奴らなのら!」

「スバルもそう思うッス!」

 

 ……だってさ、ししろん?

 

「ありがとう。でも、自警団の若い衆も、村々の間で思うところはあるが飲み込んで、互いに協力し始めてるらしいから、簡単にはやられないさ!」

 

 そう、快活に笑う宿屋の店主の見送りを受けて、三人は一路、王都アマティアスを目指すことにした。

 

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