ホロライブオルタナティブ@upside down   作:風木守人

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2.天音かなたと異世界ゴリラ

「落ち着くのら!」

 

 ゴリラを前にした姫森ルーナは、毅然とした表情を浮かべながら天音かなたの後ろに隠れた。

 

「こいつは同族なのら!」

「違うからね!!」

 

 まるでかなたを盾にしているようなその仕草を見て、かなたはため息をついた。

 それは、ルーナに失望したからでは、もちろんない。

 

(天音ちゃ、逃げるのら! 天音ちゃ一人なら、空を飛んで逃げられるのら!)

 

 と、ルーナが自身を見捨てて逃げる理由を作っていると、理解できたから。

 

「ふっざけんな! 頼れっつーんだよルーナ!」

「!!?」

「僕やみんながルーナを大切にするのは、ルーナがお姫様だからじゃない!」

 

 そして、天使は同期の姫を裏切らない。

 

 

 

「ルーナが大切にしたいって思える存在だからだ!!」

 

 

 

 ふんすっ、と音が聞こえそうなほどに鼻から息を吐き出し、異世界のゴリラに向き直る。

 もしこの世界がゲームだとしたら、それはモンスターのような存在なのだろう。

 例え、背が3m近くあり、放電しているのか時折バチバチと音を立て、ドラミングする両腕がかなたの胴体ほどあったとしても、ゲームならチュートリアルのはずである。

 なら、楽勝だ。

 

(って言いたいけどね)

 

 しかし、一つだけ正解だったのは、この世界がゲームなのではないかという考え方だ。

 

「えっ、メニュー画面がひらけたのらよ!」

「ええーー!!?」

 

 ルーナの事件性のある悲鳴に近い声を聴いて、天音かなたはメニュー画面なるものを開くことができた。

 空中に青白い画面のようなものが開く。ARのように、目の前に現れたそれには、【スキル】【アイテム】【仲間】の三つの項目が表示されていた。

 

「【スキル】?」

 

【スキル】の項目を開くと、パッシブスキルとアクティブスキルの二つが表示された。

 

【パッシブスキル:天使】

 

「元からやっ!!」

「あまねちゃ!?」

「“翼を与える”って、もう付いてんねん!!」

「ど、どうしたのら!??」

 

 キレのあるツッコミを披露する天使だったが、それどころではないとルーナの声で気が付いたようで、アクティブスキルの記述を目で追った。

 ちなみに、一般にパッシブスキルとは常時発動するスキルで、アクティブスキルとは所有する者が使うことで初めて効果が適用されるスキルだ。

 

【アクティブスキル:掌握】

 

「……まさかね。僕、すごく嫌な予感がするんだけど」

 

 何かを察したかなたは、偶然足元に落ちていた石を拾い上げると、アクティブスキルを発動させるイメージで、試しに握ってみた。

 

「フンッ!」

 

 その瞬間、握り締めた石がはじけ飛んで砂になった。

 

「……ねぇ、酷くない?」

 

 かなたが手のひらを開くと、かつて石だった砂がさらさらと零れ落ちて行った。その様は、大切な何かが手のひらから零れ落ちていく様子を目の当たりにするかのようだ。

 

「すげぇのら! これならあのゴリラにも勝てるのら! 握力で」

「うん、そうだね! そうだけどね!!」

 

 もろ手を挙げて称賛するルーナと、対照的に微妙に引いた表情のかなたが妙に滑稽な様相を呈する中、ゴリラはかなたの動きを挑発と受け取ったのか、野球ボール大の石を持ち上げて投げつけてきた。

 かなたは思わず右手をかざし、スキルで握りつぶした。

 

「ゴリラがノーバンで投げてきた石を握り潰したのら!?」

「現実を直視したくないから正確に解説するのやめてくれない!?」

 

 わちゃわちゃと暢気な会話を交わしながら、かなたは天使の翼をはためかせ、飛翔する。飛び道具がある以上、足を止めるのは悪手だと理解したためだ。また、ゲームの経験から、地面を移動する 2D的な移動より、空を飛ぶ3Dめいた飛翔の方が的を絞りにくいことを彼女は知っていた。

 

「あまねちゃのあれはスキルなのら? なら……」

 

 姫森ルーナというアイドルの魅力の一つは、その非常識な言動や口癖、振る舞いに反して非常に常識的であり知識に富む――ある種のギャップだ。お姫様のように振舞うのに、料理やプログラミング言語に造詣が深い節があったりするのも、一部に変な笑いを誘う。

 

 それはさておき、彼女は現在の状況を的確に認識しており、スキルというものをひとまず発動させてみることにした。

 

「【ルーナイト召喚】!」

 

 

 

 §

 

 

 

 同時刻。

 

「ラミィ……?」

 

 灰色の長髪に獣耳、いつもは眠たげなダークグレーの瞳を鋭く光らせた長身の女性が雪原に立っていた。白く光る八重歯のような二本の牙は、彼女の獣性を示しているが、表情や仕草には深い知性を感じさせる不思議な魅力がある。

 周囲には乱雑にライフルやハンドガン等、恐るべき兵器がおびただしい数、打ち捨てられていた。

 降り注ぐ白い雪が、黒鉄の銃身を塗りつぶしていく。

 

 彼女の目の前に、青い髪の女性が倒れている。

 明るい青い長髪に色白な肌は彼女が高貴な令嬢であることをうかがわせる。特徴的な頭頂部のクセ毛――いわゆるアホ毛はハート形にカールしており、青と白の花びらの花をモチーフにした髪飾りをつけていた。

 明るく優しく、いつも笑顔を振りまいていた、長身の女性が大好きなアイドルだ。

 

「ねぇ、起きてよ……お願いだから……」

 

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