ホロライブオルタナティブ@upside down   作:風木守人

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3.最大のプレイミス

 時刻はさかのぼる。

 獅白ぼたんが【オルタナティブ】に入った刹那に行ったことは、全力で思考し試行を続けることだった。

 

(……多分異世界って奴か。で、スキル持ってて、こんな感じに使えると)

 

 パンっ、と意外に軽い音が響く。

【アクティブスキル:銃器作成】

 

(あと、パッシブスキルの目は……微妙)

 

 獅白ぼたんはかなた達同様に、いや、それ以上に早く自分の置かれた状況と与えられた能力を把握しつつあった。そしてそれは、彼女自身の思考の速さと、この世界で得たスキルのためでもある。

 

【パッシブスキル:明鏡止水の眼】

【アクティブスキル:銃器作成。望んだ銃器を生成可能。大まかなジャンルを指定し、生成すると召喚される。召喚した本人以外使用不可、残弾がなくなると自動消失(設定変更可能)。精製した銃器は【アイテム】に保存できるが、重さは反映される。アイテムに保存した銃器は、外的要因による劣化を生じず、即座に使用できる。

 追加効果:近未来兵器開放、空想兵器開放、反動軽減、自動装填】

 

(パッシブスキルはスキルとかを見抜く目。あと、多分、色んな意味で視力が良くなるんだろうなぁ、普通なら。アクティブスキルは使ってたらなんか追加効果出たから、成長するのかも)

 

 銃器を繰り返し作成し、【アイテム】に保存しては火力や射程距離、装弾数、動作確認を続けるライオン。その過程で襲い掛かってきたゴリラやら何やらを射殺したのは彼女にとって些細な事だ。

 

(ラミィと一緒にプレイを始めたんだ。このゲーム。つまり、ラミィもここに……)

 

 周囲は凹凸の激しい草原のような場所だ。ただし、一定の傾斜があるので、おそらく雨期に削り取られた低く緩やかな山脈のすそ野だろうと、彼女は検討づけていたし、それは正しかった。

 少し歩いていくと、遠くに村と思われる建物群と、少しだけ踏み固められた道のようなものが見え始めたのだ。

 

(他のホロライブメンバーも無事でいるといいけど……ふふっ)

 

 心配するなんて野暮か、と獅白ぼたんは苦笑する。先輩、同期、後輩に至るまで、そう簡単に困難が立ちはだかったところで挫折する者たちではないと、信頼しているから。そしてむしろ、皆で力を合わせればどんな不可能だって乗り越えられると知っているから。

 と、心が幾ばくか軽くなった彼女の目の前に、ローブをまとった人物が、道の端にある岩に腰かけて休憩している様子が見えた。その横には魔法使いが使うような木の杖が立てかけられていて、身長や体格から、男性である事だけが何となくわかる。

 

(この世界で銃の位置づけが分からないからしまってく。ナイフだけ腰につけておこう。何も武器を持っていない方が、今までの状況からして、不自然だ)

 

 何せ変なモンスターに襲われて撃退してきたのだから。

 

「ららーいおん!」

「……?」

「……こんにちは」

「あ、ああこんにちは」

 

 つい慣れた挨拶をして首をかしげられたぼたんだったが、即座に普通の挨拶に切り替える。彼女なりに気が張っていたのだろうが、ひとまず言葉が通じることを確認して、その豊かな胸をなでおろしたのは仕方のない事だろう。

 

「少し道に迷って困ってたんだけど、ここはどのあたり?」

「ここはアスコットという山の中だ。まさか、イーサナメイ側から登って、道に迷った挙句、アマティアスまで山を越えて旅してきたのか?」

「ははは、そんなところみたい!」

「大層、腕が立つのだな」

 

 当たり障りのない回答をしながら、地理を頭に入れていくつよつよライオン。

 どうやら、今いる地域はアマティアスという地域であるらしい。ローブをかぶっていて表情はよく見えないが、男の声音からやや呆れているようだから、このアスコットは危険な山なのだろう。

 

「ところで、アンタ“鬼ごっこ”は知っているか?」

「……ん?」

 

 突拍子もないローブ男の質問が聞き取りづらかったふりをして、ぼたんは時間を稼いだ。

 言葉がわかっても、文化が違う可能性を考慮したためだ。

 

 幸い知っている遊びだが、“鬼ごっこ”というのが日本でいう“相撲”のような国技であった場合、細かい差異がある可能性もあるし、知らないふりをした場合一気に疑われる可能性もある。少なくとも、ローブ男は今までのぼたんとの会話で、彼女一人でこの山を越えてきたという事実を多少疑っている節があった。

 これ以上の疑念を彼に抱かせるのはまずいと、ぼたんは即座に判断していた。

 

 しかしここで、あえて獅白ぼたんのミスを指摘するならば、その思慮深さから自分が疑われる可能性を考慮した結果、相手が疑わしい対象だという可能性を考慮する事を少しだけ軽んじてしまった事か。

 

「“鬼ごっこ”だよ」

「ああ、確か、こっちだとルール違うんだっけ」

「お、地域ごとのルールを気にするタイプか。結構ガチでやってた?」

「えー、秘密ぅ……くすくす」

「強そうだなアンタ」

 

 持ち前のコミュ力で当たり障りのないやり取りを続けるぼたんに、ローブ男は得意げにルールを話してくれた。

 

「いいか、俺の知ってるルールだと、鬼が相手の額に手が触れれば勝ち、触れられれば負けだ。そして、鬼に負けた者は勝った鬼の奴隷になる」

「ほうほう……」

「例えばこんな風に……」

 

 冗談っぽく、ぼたんの額に手を触れようとしたローブ男の手を、彼女はスキルが発動した瞳で見た。

 

【支配“鬼ごっこ”:ルールを説明した相手の額に触れると発動し、相手を支配する】

「!!?」

 

 とっさに背後に跳んだぼたんにローブ男は舌打ちをして嫌悪の声を上げた。

 

「ちっ、なぜバレた!?」

「だってお兄さん、ローブで顔隠してて怪しいんだもん」

 

 当たり障りなく返すぼたんであったが、ローブ男の次の一手は、最大のプレイミスだったと言える。

 

「そうか、なら、既に駒にしたお前の仲間に合わせてやろう」

 

 急に、周囲の気温が下がったのをぼたんは肌で感じ取った。

 実際、周囲に雪がちらつき始め、まだ青い葉を茂らせる木々草花に降り積もっていくという異常事態を目の当たりにして、ようやくそれが雪の令嬢の持つ能力だと知った。

 

「ししろん!?」

「ラミィ!?」

 

 ローブの男の後ろから、青い髪を揺らしてやってきたのは、獅白ぼたんが愛する同期のアイドル、雪花ラミィだった。

 その額には、禍々しい紋章が輝いていた。

 

「さあ、鬼ごっこを続けようか」

 

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