ホロライブオルタナティブ@upside down 作:風木守人
タタタタタッ、タタタッ、と意外と軽い発砲音が立て続けに響く。
それに相対する雪の令嬢は、非常に困った表情を浮かべているが、彼女に弾丸が到達することはなかった。
「チッ、
獅白ぼたんは思わず声に出すほどにいら立ちを隠せずにいた。
銃器は極端な気温や砂塵等に弱い。
精密機器であるため、機構を構成する金属が気温の影響で伸長したりするとかみ合わなくなるし、その隙間に砂塵や雪なんかが入り込むと、それ以上に最悪だ。
特に、極低温下では潤滑油となる油すら固まって用をなさない。
過去、マイナス数十度の戦場で、とある軍隊が数十倍どころか、数百倍と言われる兵力を跳ね返した実績すら、世界の歴史でまことしやかにささやかれるほどである。
環境が銃器を殺し、環境が寡兵を活かすのだ。
「ラミィ、一応聞くけどそれ何!?」
「わかんないのぉ~!?」
どうやら、ローブ男に操られているらしいラミィは、自分がどういうスキルを発動してぼたんと戦っているか理解していないらしい。
(いや、効果はわかってるんだけどねぇ)
【パッシブスキル:雪の令嬢。周囲(0m~1km。効果半径によって減衰あり)を冷やし、雪を降らせる。ラミィの意思によって、成長の果てには晴天を覆い、雪空に変えることすらできるが、現在はそこまでの威力はない。使用者の体には影響が小さいが、長時間使い続けると低体温症になる恐れがある。】
【アクティブスキル:大中招福。一定の積雪がある範囲内で味方となるシロクマっぽいものを召喚する。基本的に自律行動する。強さは召喚に消費した積雪と気温が影響する】
ぼたんは動かなくなった銃器をすぐに捨てると、ハンドガンを【アイテム】から取り出して足元の雪玉のようなものを撃つ。
丸っこい熊耳が付いたそれは、おそらく、小型化したダイフク――ラミィのお供のシロクマだ。ラミィのアクティブスキルは雪を消費して自立行動する味方ユニットを生み出すことだと、ぼたんは理解していた。
(それより、問題はパッシブスキルの方)
もう片手でスキルによって反動軽減をしながら、アサルトライフルをフルオートにして、銃弾をばらまく。しかし、ラミィの周囲に舞う、半径10m程の不自然なまでの吹雪に到達するや、全ての弾丸が凍り付いたツララのようなものにまとわりつかれて止まり、あるいは明後日の方向に跳んで行く。
「アニメで見たことあるんだけどそれ! オートガードなの? 拾壱之型? 氷属性かと思ったら水属性かラミィ!?」
「違うの! ラミィが大好きなのはむしろ奇妙な冒険の方なの!! それに氷柱だとしたら、よくよく見たら字面がツララだよ!!」
「ははっ、ツッコミが追い付かねぇ!!」
もちろん、ラミィには当たらないように両手でフルオート射撃を繰り返すぼたんだったが、そのことごとくが氷のガードに弾かれる。
「こう、都合よくラミィを無力化できるやつないの?」
「スタングレネード投げたら凍って作動しなかったんだけど!?」
「そ、そうだ! リスナーさんが言ってたけど、冷凍庫でもウィスキーは凍らないって」
「はっ……って、そんな情報が解決の糸口になるわけないし!?」
軽口をたたき合いながら一定の距離を保ち銃弾を撃ち、時折現れるダイフクの奇襲を抑え込むぼたんだったが、正直じり貧であった。何故なら、少しずつだが風雪によって視界が悪くなり、手足が凍え、地面がぬかるんでいくからだ。
(多分、“鬼ごっこ”なら鬼は一人のはず。鬼を倒せばラミィは元に戻る。だから、奥の手を使うのはその時まで……)
「ししろん! よけてぇ!!」
風雪の間から、熊耳の巨躯が見えた。
「くっ!?」
ぼたんはとっさに手にしていたアサルトライフルでガードしたが、本物のクマに近い大きさのダイフクの一撃を受けて、数メートルは突き飛ばされた。
(積雪が増えるほど、ダイフクが強くなるのか。見誤った……な……)
ひしゃげたアサルトライフルを投げ捨てたぼたんは、もう一度同じ銃器を取りだして杖代わりにする。
軽い脳震盪のようだ。
「ふふふ、俺の支配下に下る時が来たようだな」
「何を」
ぷっ、とアイドルとしてははしたない音を出して口腔ににじんだ鉄の味を吐き出したぼたんは、時間を稼ぐために言葉を紡ぐ。
いや、脳震盪を直すためのように装って、ローブ男から情報を引き出すことにした。
「お前は、いや、お前たちの目的はなんだ?」
「はん、俺もお前と同じでここに呼ばれた口さ。そして、お前たちを支配して従えるように指示されたもんでね」
ローブ男の勝ち誇ったような声音を耳にしながら、
(はい、ビンゴー)
敵がローブ男だけでないこと、目の前の存在がおそらく自分と同じ異世界の存在であること、そして黒幕がいること。
情報の収集が完了したところで、ぼたんはラミィを解放するために最後の抵抗を試みようとした。
「動くな……ようやく支配が終わったようだな」
「!?」
その言葉だけだったら、ぼたんは既にローブ男を攻撃していただろう。
その動作が仮にでも止まったのは、ラミィの瞳から意思の光が消え、その手に持った鋭いツララが、彼女の喉に向けられていたからだ。
「お前が動けば、この女は自害する」
「……」
ぼたんは、概ね脳震盪の影響がなくなったのを自覚すると、杖代わりにしていた銃器を捨てて、両手を上げた。
「いい答えだ。さて……」
ラミィが降らせた雪をふみにじりながら、ローブ男はぼたんに歩み寄る。その顔には分かりやすいまでに嗜虐心がにじんだ、へらへらと下卑た笑みを浮かべていた。
「ところで、最後に聞きたいんだけど、今のラミィって意識ない感じ?」
「うん? まあそうだが」
「そっか……丁度いいや」
「ん? まあ気にするな。お前もこの後そうなるのだからな」
ぼたんが僅かに手を動かそうとすると、ラミィが呼応するように動いた。
「ラミィ!!」
ツララがラミィの白い首筋に触れる。
男は舌打ちをした後、ぼたんから距離をとってラミィの後ろまでさがった。おそらく、銃弾を警戒しているのだろう。
「動くなと言ったはずだ。そうだな、武器を捨てろ、全てだ。」
ラミィちゃんはオルタナティブなら魔法使えていい、ツララ出すよとのことでしたので、ご要望に沿う形で魔法のようなスキルを使ってもらう事にしました。