ホロライブオルタナティブ@upside down 作:風木守人
「ふぅ……」
異世界ゴリラを握りつぶしたかなたは、力が抜けてしまったのか着地と同時に膝から地面に崩れ落ちる。倒したゴリラはゲームらしく、光の粒子となって消えていった。
しかし、その頭部を握りつぶした感触は本物だった。かなたは手を開いたり閉じたりしながら、落ち込んでいた。
(これじゃ、ファンの人と握手できない……)
グーパー、グーパー、と手を動かすかなたは、大きな挫折を味わったことがある。
アイドルを目指した彼女は、耳が聞こえにくくなって、夢を諦めかけたことがあった。だからこそ、アイドルとして当然行う握手という行為が常識外の攻撃になっていることに衝撃を受けたのだ。
(どうしよう、どうしよう、どうしよう……ファンのみんなの手を握れないなんて、僕は結局アイドルに――)
ぱし、と小さな音がした。
「あまねちゃ、すごかったのら!!」
姫森ルーナが、天音かなたの手を握った音だった。
それも何の恐怖もなしに、むしろ満面の笑みとともに。
「あんなに大きな相手を倒すなんてすげぇのら! ルーナ見てて感動したのら!」
「……」
ぴょんぴょんと飛び跳ねるように、かなたの手を握りながら上下に振るルーナに振り回されてようやく状況を理解した。
「ふふっ」
「?」
なんなんら~、と言いたげに首をかしげるルーナを前にして、かなたは自身の苦悩が杞憂だったことを悟った。
「いや、ルーナはやっぱりお姫様だと思っただけだよ?」
「それ、絶対馬鹿にしてるのら!!?」
不機嫌そうなルーナに、話題をそらそうとしたかなたは視界の端にまだ甲冑がいることに気が付いた。
「ルーナ、助けてくれた甲冑がいじけてるけどいいの?」
「ええ、どうしたのら?」
よく見るといじけているというより、ひざまずいて次の指示を待っているようにも見えた。実際、召喚した時と同じポーズをしているので、待機状態のようなものなのだろう。
「ルーナイトのおかげで助かったのら~。また困ったら頼むのらよー!」
コクコク、とうなずいたルーナイトは召喚された時と同じように光り輝いた魔法陣に吸い込まれて帰っていった。
全く、不思議なスキルである。
「あれ、ルーナイトなんだ……」
「多分そうなのら」
ルーナがサムズアップを決めると、あたかも溶鉱炉に沈むアイルビーバック感を出しながら魔法陣に沈んでいくルーナイト。
少なくとも、ノリは良いらしかった。
「ふぅ、とりあえず聞きたいんだけど、ココどこなのかな?」
「分からないのらけど、こういう場合、とりあえず町まで行ってみた方がいいと思うのら。野宿の用意どころか、飲み水一つ持ってねぇのら」
「確かに」
かなたとルーナは数分間話し合ったうえで、方針を決めた。
「じゃ、行ってくる!」
「頼んだのら!」
かなたはその、小さな両翼をはためかせて真上へと、軽く螺旋を描きながら飛翔した。
ひらひらと小さな手を振るルーナの隣には、甲冑の騎士がひかえていた。再びスキルで召還したルーナイトである。
周囲の別のモンスター(?)を引き寄せてしまう事を考慮してあらかじめ召還したのだ。
(うーん、天界を飛んでる感じじゃないな。冷静に考えると、地上と同じで重力や風圧に引っ張られて飛ぶ感じだ)
かなたはしばらく上昇を続けながら、この世界の空が現実世界とほぼ同じであることを感じ取っていた。
飛翔を続けて周りを観察すると、周囲には人影や他のモンスターのような存在も見当たらないが、とんでもなく遠くには、大きな剣のようなものが見える。ホロライブの動画で見たことがある。例の剣だろう。
地面に突き刺さったそれは、日の光を浴びて美しく、透き通るように輝いていた。
「あー、きこえるー! ルーナ!!」
かなたが両手を口元に充てて叫ぶと、ぶんぶん、と地上で手を振るルーナとルーナイトの姿が見えた。
アイドルとして発声練習を重ねたかいがあったというものだ。
「あっちのほうに村みたいなのが見えるよ! 道もあるみたいだし、人影も……ああっ!!?」
悲鳴を上げたかなたは急いで着陸すると、ルーナに詰め寄って続けた。
「なんか、村が襲われてるんだけど!?」
「なんらって!? またゴリラだったのら!?」
「……」
ルーナは冗談のつもりで発した言葉に、かなたがツッコミを入れない事に驚愕する。
それは、長年の付き合いからそれが的中していたからではなく、もっと悪い事態が進行していると察したためだ。
「ルーナに一つ聞きたいんだけど」
「な、なんらよ?」
神妙な面持ちで、かなたはその核心を突く。
「アヒルって、空飛べるんだっけ?」
ルーナさんを選んだ理由はいくつかありますが、ここでためらいなくかなたその手を握れるのは誰か、と考えた時に彼女がしっくりくる気がしたからだったり。