ホロライブオルタナティブ@upside down   作:風木守人

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8.なんも聞いとらんかったというか、効いとらんかった余

「ははっ、楽勝」

「緊張したけど、簡単だったわな」

「だ、大丈夫かな、ほ、本当に支配できたのかな?」

 

 人気のない某所に、ローブ姿の男が三人立っていた。

 

「そーいや俺達、一人ひとりスキル違う訳?」

「……違うみたいだな」

「そ、そうなの?」

 

 その目の前には三人の少女。

 

「俺はだな、【名前】」

 

 その名前の通り、吹雪のように純白の髪はさらさらと風に揺れており、頭頂部には風に抗う雪山のように立派な獣耳が生えていた。空を映したような水色の瞳は、どれほど透き通った湖面でさえ、その美しさを正確に映しとることはできないだろう。

 彼女の名前は白上フブキ。

 

「僕ぁ、【毒薬】だな」

 

 黒い長髪に赤いメッシュのようにひと房の赤髪がさらりとなびく。ぴん、とはった耳は警戒するように時折ぴくりとはねており、オレンジがかった視線は――現在のように意思のない瞳でなければ――彼女の柔らかなほほえみとともに優しい印象を与えるはずだ。

 彼女の名前は大神ミオ。

 

「ぼ、僕は【呪文】みたいだ……」

 

 他の二人の少女に比べると小さな体躯に、赤白黒の三色に統一された装束を身に着けている。腰には無骨な二刀を帯び、光に透ける銀髪からは二本の角が突き出ていた。その非日常と人外の象徴が、彼女の和装と合わさってどこか浮世離れした印象を見るものに与えている。

 彼女の名前は百鬼あやめ。

 

 彼女は意思を奪われて無表情――いや、何故か理解が及んでいないような、不思議な顔で空を眺めていた。

 と、その目の前に、三人とは色の異なる赤ローブの男が瞬間移動でもしてきたかのように突如現れる。

 

「お前たち、仕事は済んだか」

 

 三人は少々驚いたようだが、精いっぱいの虚勢を張って答えた。

 

「別に、何も問題ナッシング」

「言われたとおりにやってるよな」

「そ、そうだよ、ひひひ」

 

 軽薄で中身のない報告を聞いた赤ローブから猛烈な圧力がかかる。

 それは言葉からくるものでも行動からくるでもない。おそらく、積み重ねた年季が三人とは違うのだろう。

 一部の動画配信者が使いこなす、無言の圧のようなものだった。

 

「……ふむ、まあ元より、貸し借りも利害関係もないお前たちを信用してはいないが」

 

 それと、と今後の行動についてあれこれ指示しながら、赤ローブは百鬼あやめをじろりと見て、肩をすくめる。

 

(これはこれは……)

 

 指摘しようとして、その義務がないことに気がついた赤ローブは、状況がわかっていないらしい部下に、せめてもの忠告を残す。

 

「せいぜい、【魔王】の機嫌を損ねるな」

 

 姿も存在も、その気配すら立ち消えるように。

 赤ローブはその場からいなくなっていた。

 漂っていた緊張感が薄れるや、三者三様にローブ男たちは悪態をついたり、地面を蹴飛ばしたり、不満そうに当たり散らしていた。

 

 と、そんな挙動を見てようやく、ふわふわとお散歩に出かけていた魂が、どこかから帰ってきたとでもいうかのように、ぼーっとした表情にやや焦ったような感情が宿った少女が一人。

 

(……やべ、余なんも聞いとらんかった!)

 

 他でもない、百鬼あやめである。

 

(ゲームのチュートリアルだと思っとったから、人間様の話を聞き流してしまった!)

 

 ちなみに、彼女を支配しようとしたローブ男のスキルは正確には【支配:“呪文”】。

 ラミィを支配した【鬼ごっこ】と同じで条件をクリアした相手を支配するスキルであり、その効果は一定の呪文を相手に聴かせることで発動する。

 なお、呪文は“聞こえる”のではなく、“聴かせる”必要がある。

 

 つまり、聞き流されると普通に無効化される。

 

(やばい余! また何も聞いとらんかったのかって怒られてしまうぞ……!)

 

 ただ、このスキル、弱いわけではない。

【呪文】は、状況を整え演説など、一対多の状況で広範囲の存在に影響を与えることができる点に強みがある。また、単純な命令だけなら戦闘中でも相手に影響を与えられる。

 要するに、使い方と使う相手を間違えているのである。

 

「ね、ねぇ……?」

「な、何だ!? 余、ちゃんと聞いとったぞ!」

 

 一言目から、ほぼ自白である。

 

「えっと、支配できてるのこれ?」

「……た、たぶんできとるぞ」

「な、なんで自信ないのさぁ!?」

 

 しどろもどろになりながら、とりあえず話を合わせてみるあやめだったが、それ以上に慌てるローブ男のせいもあり、しばらく会話にならなかった。

 しかし、会話の合間に漏れ出る情報を整理して、ここがゲームに似た異世界らしいこと、目の前の存在が敵で自分たちを支配しようとしていたことなど、概ねの状況を理解した。

 

(これは余、間諜(スパイ)となって皆を助けねばなるまい。さりげなーく情報を集め、機を見て皆を助けるのだ!)

 

 どう考えても危うい決意を、人知れず固めるあやめだった。

 性格的にも能力的にも、驚くほど向いていない。

 

 というか、腰に帯びた刀で敵三人の首を獲るリアルタイムアタック(RTA)したほうが、まだ勝機がありそうですらある。

 しかし、獅白ぼたんと異なり、どうすればミオとフブキを元に戻せるのか、という問いかけにヒントすら与えられていないあやめにとって、この判断は現時点では最善ではないが次善解といって良い、的確な判断でもあった。

 

「ところで人間様よ」

「な、なに?」

 

 そんな、悲壮な決意と無駄なやる気に満ちあふれた百鬼あやめは、“さりげなーく”と心の中で唱えながら、ローブ男に問いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「【魔王】とやらの目的はなんなのだ?」

 




これが配信ならPONでコメント欄が埋め尽くされているところ……
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