遊矢と素良がジュニアユース選手権に向けてデュエルを開始した日、リョーマは久しぶりにアカデミアに戻ってきていた。相も変わらずエクシーズ次元でのカード化した枚数を競っている様で戦争しているという自覚がまるでなかった。
「っ! 隊長!」
そんなアカデミア生に溜息が出る思いをしながら自らの部隊の部屋に向かう。そこにはNo.1が居り自有無作業を行っていたがリョーマに気付くと敬礼を行った。しかし、それを手で制すると隊長席に座った。
「スタンダード次元から戻られたのですか」
「ああ、とは言えこの後はシンクロ次元に向かう予定だ。……バレてはいないな?」
「勿論です」
「ならいい」
リョーマ短く問いNo.1もそれに続く。彼らが言っている内容は黒咲瑠璃に関してでありアカデミアの、プロフェッサーの意志に反して匿っている以上いくらでも言い訳が出来るように短く話をしていた。
そして、問題ないという事が分かったリョーマはNo.1が手渡してきたタブレットを見る。そこにはスタンダード次元に向かった後の隊の様子と大まかな出来事が書かれていた。その中の一つに目が行ったリョーマはNo.1に尋ねる。
「黒咲隼は行方不明なのか」
「はい。ここ一週間は確実に見ておりません。これまでなら最低でも日に一回はアカデミア生を襲撃していたのですが一週間前から目撃情報がぱたりと消えました」
「……成程な」
リョーマはレジスタンスがスタンダード次元でも活動し始めていると考え今後の対応策を考える。が、その前にNo.1に伝える。
「黒咲隼、はまだ見ていないがスタンダード次元で闇討ちを行っている者が現れた」
「闇討ち、ですか?」
「困惑するのも無理はないが対象はレオコーポレーションの関係者。プロフェッサーがスタンダード次元で設立した企業の者だ」
「っ! それはつまり……」
「そして、そいつはエクシーズを用いる。更に言えば俺はその関係者と思われる人物と遭遇した。レジスタンスの者だった」
「なっ!? まさかレジスタンスが次元を超えたというのですか!?」
「そうだろうな。恐らく黒咲隼もスタンダード次元に向かったのだろう。だが、スタンダード次元で味方を募るにしては動きが可笑しい。逃亡にしては二人だけというのが可笑しい」
「では彼らの目的は一体……」
「闇討ちを受けたレオコーポレーションの現社長はプロフェッサーの息子だ」
「……成程。人質として、ですか」
「上手く行くとは思えないがな。あの禿げに親子の情があるとは思えない」
―
リョーマは心の中で呟いた。同時にその事からレジスタンスの大まかな現状を探る事が出来た。
「レジスタンスは次元世界の事を既に知っていると見て間違いないだろう。だが、次元の統合についてどこまで知っているかは不明だ。スタンダード次元に言ったはいいが味方を募る様子もなくスタンダード次元を敵に回す動きをしている。賢いやり方とは思えない。が、プロフェッサーの息子に人質としての価値があると思っているのなら納得できる。スタンダード次元でどんな事をしようと融合次元との問題を解決出来るなら今後関わる必要はないからな」
「確かにそうですがもっといいやり方があると思いますが……」
「つまりそれしか思いつかなかった、それしかやる方法がない。つまりレジスタンスは人員も戦力も既に限界が近いという事だ。罠、という可能性やエクシーズ次元に戦力を集中させたい。あくまで闇討ちは保険としているなどが想定されるがな」
「ですがあまり賢い方法とは思えませんね」
「俺もそう思う。とは言えこれはきちんとした訓練を受けた結果だろう。レジスタンスは素人の集まりこうなったとしても可笑しくはない」
リョーマはそう言うと更にタブレットに記載された報告を読み進めていくがやがて一つの項目で止る。
「……ユーリめ。今度は捕らえる事に成功したのか」
「どうかしましたか?」
「俺がエクシーズで取り逃がしたやつのシンクロ次元バージョンをユーリが捕獲したらしい。かなり迅速に動いたようだな」
「何と……!」
現状のままならプロフェッサーの願いが叶う事は絶対にないが保険は欲しかったと歯噛みするリョーマ。とは言え既にどうしようもないと次々と報告を読んでいく。パラサイトモンスターの運用実験やオベリスクフォースの強化、スタンダード次元への偵察兵の増員などを読み込んだリョーマはタブレットを置くと立ち上がる。
「No.1。引き続き任せる。対処できる範囲なら報告は後回しで良いから独自行動を行え。俺はシンクロ次元に向かう」
「了解しました」
改めて命令を下したリョーマはそのままシンクロ次元へと向かう。転移先はNo.11が居住している館の庭だ。外からは死角になる位置に転移した彼はそのままなれた手つきで館へと進む。途中、No.11の使用人とすれ違うが彼ら彼女らは頭を下げて道を譲る。そして、扉を開け館内に入るとそのまま食堂へと向かう。今は昼時の時間帯であるためそこに集まっているだろうと予測したためだ。
案の定、そこにはNo.11と彼女と仲良さげに食事をする黒咲瑠璃の姿があった。一瞬、見慣れない男の登場に驚く瑠璃だったがそれが自分をここに連れて来た自分だと理解するととっさに椅子から飛び出て警戒する。
「貴方は!?」
「ここでの生活は慣れたようだな」
リョーマは警戒する瑠璃を気にも留めない様子で椅子に座る。すると使用人たちが即座に飲み物が注がれたグラスを持って来る。No.11が雇った彼ら彼女らは徹底的な教育によりリョーマたちの邪魔にならないようにしつつ準備を行う事が出来た。更には彼らの会話は直ぐに頭から削除し聞かれると不味い事も思い出せない教育を施されていた為こうして普通に話す事が出来た。
「No.11。特に変わった事はないか?」
「ない。何度か小さな暴動が起きた程度」
「そうか。まぁ、トップスであるお前にまで影響が出る事など起きる事自体が異常事態か」
リョーマは運ばれてきた料理を食べながら話す。そんな彼の様子に瑠璃も漸く席に戻り食事を再開した。しかし、その顔は緊張とも警戒とも取れる表情をしており食事もほとんど喉を通っていない様子だった。そんな彼女の様子を見てかリョーマは言う。
「別に警戒する必要はない。ここで大人しくしている限りお前に害ある行為、行動は行わない」
「……あなたは一体何が目的なの? 私をここに置いている事ってアカデミアの目的からは外れているんでしょ?」
「……答える事は出来ないし答えるつもりもない。お前は負け、ここに連れて来られた。だがアカデミアにいるよりは待遇は素晴らしいと思うがな」
「……兄さんにも、ユートにも会えない生活が楽だとでも? 故郷で皆が狂神ているのに一人だけこんな生活を享受なんて……」
「そうか?お前と同じく重要な女性が後三人いる。その内の一人がアカデミアに捕まった」
「え?」
「そいつは今小さな部屋で監禁されている。誰とも話せず自由はない。加えて、今アカデミアではお前たちを操るためのパラサイトモンスターが開発されている。それが完成し、脳に規制されれば貴様の意志は消えアカデミアに従順な存在になる」
「ひっ!」
リョーマが耳に指を軽くいれパラサイトモンスターがどうやって脳内に侵入するかをゼスチャーする。それが想像できたのだろう。瑠璃は小さな悲鳴を上げた。
「次元は違うために親しい人間には会えないがうまい料理に館内なら自由に動き回れる、トップスというこの次元は最上位の人間に保護されているという安心感。パラサイトモンスターという存在に操られる心配もない。それでも嫌だというのなら俺はアカデミアに引き渡そう。その場合、お前は部屋に監禁されパラサイトモンスターが完成すれば脳に入れられる。そうなればアカデミアに従順な人形の完成だ。場合によってはお前の大事な存在と戦わせて心を乱れさせる手も打つかもしれない」
「……」
明らかな脅迫だがその内容は効果覿面だった。瑠璃は悲し気な表情でうつむくと何も言えなくなった。それ以上の会話はなく黙々と食事をする音だけが部屋に響き渡る事となった。
そして、これ以降瑠璃の態度は更に大人しくなりいつかユートや兄と再会できる事を心の中で祈る日々を送る事になるのだった。